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カイルの神殿にロシェル達が帰還した翌日。
パンとスープ、果物にサラダなどで軽く朝飯を済ませた彼女らは揃って、滞在者・サキュロスと会うために応接室へとやって来た。だが肝心の客人の姿はまだ無く、室内ではエレーナがお茶の用意をしている。
ロシェル、レイナード、アル、シュウ、カイルとイレイラらがソファーに座り、彼が来るのを待っていた。
「まだ寝ているのかな。マイペースな奴だねぇ、ホント」
ゆったりとソファーに腰掛け、膝には妻のイレイラを座らせているカイルが、彼女の黒髪で遊びながらボヤいたが、『君が言っていいセリフじゃない』とレイナード以外の者達は思っていた。
永劫の時を生きるせいか、時間感覚に関して神子達は驚く程周囲と合わない。カイルのスケジュールはイレイラが管理しているので随分改善されたが、妻を娶る前までは散々だった。神官が言ったくらいで聞くような者もいないので、どこの神子に仕える神官達も主人に予定を守らせる事には苦戦している。
「セナが迎えに行っていますのでもう少しではないかと。サキュロス様は、セナの言葉は比較的聞いてくれますので」
紅茶を各人の前へ出すと、エレーナがカイルにそう告げた。それを聞き、「ならいいけど」とカイルが返す。そしてイレイラの頭に顔を寄せてちょっと眠たそうに瞼を閉じた。
「紅茶を頂くわね、エレーナ」
「あぁ、そうだな」
ロシェルとレイナードが揃って紅茶のカップを手に取って一緒にそれを飲む。ふとお互い目が合い、いつもの癖で彼は微笑みかけたのだが、ロシェルの方は少しぎこちない笑みになってしまう。昨日知った件を、一晩経ったくらいでは割り切る事が出来てはいなかった。
「美味しいわね。これは……ラズベリーかしら」
「よくお分かりになりましたね。お口に合ったようで嬉しいですわ」
ロシェル達に続き紅茶に口をつけたイレイラが褒めると、エレーナが年相応に柔らかく笑った。
「ケーキやクッキーなどもご用意しましたので、後程お持ちいたしますわね」
エレーナがそう言ったと同時に応接室の扉がノックされる音が聞こえた。カイルが扉に向かい「どうぞ」と声をかける。
「失礼いたします。遅くなりましたが、サキュロス様をお連れしました」
セナが引きつった笑みを顔に浮かべながら、応接室に入って来たのだが……夜着姿の神子・サキュロスの首根っこを捕まえて引きずりながらだった。
「何度も起こしましたが起きようとしませんので、無理に連れて来ました。それでもまだ寝ているので不敬罪には当たりませんよね?カイル様」
そう問うセナに向かい、カイルが「問題無い、僕が許す」と答える。
「もうさ、面倒だからこのまま奴の神殿に送り返しちゃわない?森の一件はバルドニスの国王か、サキュロスの神官達と話した方が絶対的確に対処してくれるって」
それを聞き、セナとエレーナは『確かに!』と思ったが、それを口にしてしまうと本気でカイルは『サキュロスを送り返せ』と言い出すので言葉にはしなかった。このまま送り返しても、目覚めた途端また来るに決まってる。
「カイル様、流石にそれは駄目です。話を聞いてから、後腐れなくお帰り願いましょう」
レイナードがそう言うとカイルは渋々頷いた。
「じゃあ、起こすか」
グシャッと前髪をかくと、カイルがふうと息を吐いた。
淡いピンク色をしたワンピース姿のイレイラが彼の膝から降りる。妻の体温が離れる事に名残惜しさを感じつつカイルは立ち上がると、床で死人の様に寝たままになっているサキュロスの側へと近寄った。
「サキュロス起きろ。朝だぞ!」
言うと同時に彼の頭へ魔力を込めた蹴りをカイルがいれる。キツイ一撃が後頭部に入ったサキュロスは「ぶへぇ!」と情けない声をあげて目を覚ました。
首がもげ飛んでもおかしくない蹴りを受けた頭を両手で押さえながら、サキュロスが叫んだ。
「起きないお前が悪い。いっそ永眠していれば良かったのに」
痛みに悶え、床に這いつくばるサキュロスに向かってカイルが酷く冷めた視線を投げつける。神子の来訪は良い事が起きた試しがないため、容赦がなかった。例外は昔から仲の良いハクとウィルだけだ。
「はじめまして。そして、おはようございます、サキュロス様。カイルの妻、イレイラと申します。こちらは娘のロシェルです」
夫が頭を蹴った事をサラッと流しながらイレイラが恭しく頭を下げると、母に続き、ロシェルもソファーから立ち上がり頭を下げた。
「あぁ、初めてだっけ。噂はあちこちから聞いてるよ、イレイラ。でも猫じゃないねぇ?カイルは猫と異種族婚したって話だったけど。『娘が生まれた』って聞いた時は『とうとう猫とやっちゃったかー』ってビックリしたもんさ」
イレイラは人として転生する前は黒猫だったため、サキュロスはその時の事を言っているのだろう。
「もうそれ、数十年も前の情報だよ」
「数十年の誤差なんて、数秒みたいなもんじゃん」
呆れるカイルへ向かい、サキュロスは神経質な顔立ちで拗ねてみせた。何度見てもやっぱり似合わない。
「ところでさ、森に来た子に逢いたくて来たんだけど……」
サキュロスはそう言いながら周囲を見渡し、目的の存在を見つけた途端「いた!逢いたかったよ!」と叫んだ。
大声に驚き、ロシェルとレイナード、シュウ、アルの二人と二匹が体をビクッと震わせた。
「今回来たのは森の一件に関しての苦情じゃないの?それなら責任を持ってこちらで対処するから、直接彼等に文句を言うのはやめて欲しいんだけど」
「違うよーカイル。苦情を言いになんてわざわざ来ないさ。そういった事は私の神官達が対処してくれる。私が出しゃばると拗れるからって迷惑がられるからねー」
安易に想像でき、セナとエレーナがうんうんと頷いた。
床から立ち上がり、サキュロスがニマァと笑いながらロシェル達にゆっくり近づく。彼女らの前に立つと、胸の前で祈るように手を組み、つり目がちの瞳を輝かせた。
「一目惚れしたんだ!森の件の詫びとして、コレを私に頂戴よ!カイルゥ」
サキュロスの言葉に対して一同が反感丸出しで叫び、その声は部屋中に響いた。
「ウチの子は物じゃありません!巫山戯ないで‼︎」
真っ先に文句を言ったのはイレイラだった。
即座に娘を庇い、ギュッと抱き締める。レイナードもロシェルに寄り添い、サキュロスの視界から守る様に遮った。
「帰れ、サキュロス。娘をお前に嫁がせる気など無い」
カイルが睨みつけ、問答無用で強制送還の魔法を発動させ始める。
「え⁈いや!ま、待って待って待って!違う!カイルの娘とか、違うって!んな怖い事流石に言わないって!一生業火に焼かれ続ける呪いとか、しれっとかけてきそうじゃん!死なないからって痛くない訳じゃないんだから止めてよね!」
敵意剥き出しのカイルが大声で叫んだ。