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両手をあげてサキュロスが降参のポーズをする。
羊の角がよく似合う、悪魔を彷彿させる禍々しい顔で魔法発動寸前のカイルが「じゃあ……まさか……」と言いながらチラッと視線をレイナードにやった。状況が読め、カイルが手の中の魔法を握り潰したが、表情はとても渋いものだった。
「そう、彼の方だよ!」
神経質そうなサキュロスの顔が、トロンと蕩ける。
「は⁈駄目よ!」
『阿呆言うな!』
ロシェルとアルが同時に声をあげてレイナードに抱きつく。そしてキッと威嚇した眼差しをサキュロスに対し、一人と一匹が向けた。
レイナードは困惑顔で、何が起きているのかよくわからないといった感じだ。
「……何なの君達は。彼とはどういう関係?」
不機嫌そうにサキュロスが顔を歪める。惚れた相手に抱きつく存在に不快感が隠せない。
『儂はシドの契約者じゃ』
「俺はアルの主人で、ロシェルの使い魔だ」
「私はシドの主人です。そして黒竜様は私の、もう一匹いる使い魔のお友達でもあるわ」
アル、レイナード、ロシェルが順番に答える。シュウはそれを聞き、その通りだと言いたげに頷いた。
「何その三角関係!意味わかんないんだけど」
サキュロスが呆れた顔をした。
「わからなくてもわかれ。そして帰れ」
「はーなーしーをー聞いて!」
睨みつけるままのカイルに対し、サキュロスが宥めるように手を振る。
「私が一目惚れしたのは……えっと、シド?だっけ。彼だよ!黒竜に乗って魔物を蹂躙する姿に、一瞬で恋に落ちたんだよねー」
そう言い、サキュロスが線の細い体を身悶えさせる。
「俺は男です。……サキュロス様も男性では?」
「え、シドってそんな些末事気にするタイプ?」
「……同性愛に偏見はありませんが、自分は異性愛者なので、そのような話をされても無理です」
そう言うレイナードに横から抱きついているロシェルの手に力が入る。口元をへの字に曲げ、彼女はサキュロスを無意識に睨みつけた。
「主従関係なだけなのに、随分仲良さそうだね。まさか……付き合ってるの?」
彼の言葉を聞き、ロシェルとレイナードが同時に「「いいえ!」」と言った。息の合った見事なハモリだ。
「じゃあ、私がシドに求愛してもいいじゃん」
ロシェルがウッと声を詰まらせる。一切反論出来なかった。
「俺はロシェルと離れる事は出来ない。なので貴方の話はお断りします」
キッパリそう言い切ったレイナードの言葉に、ロシェルは胸を高鳴らせた。同じ想いを共有している事が嬉しくて堪らない。
「それでも私はシドが欲しいなぁ。『使い魔だ』って言うけど、契約はしてないよね、君達。黒竜の方はきちんと契約関係にあるから一緒に連れて行かないとだけど、ロシェルの方は居なくても問題無いじゃない」
「いいえ、俺はロシェルに従うと誓いを立てていますので」
「それは仕事として、だよね。まるで騎士みたーい」
「まぁ、元は騎士でしたので」
「仕える相手がいても、別に恋愛ごとや結婚は別じゃないか。私とシドが愛し合っても問題無いじゃない」
「別だという主張はわかるとして、貴方は私にとって対象外ですので根本的に無理です」
「んー……つまりだ。私が女の子になれば全て解決する訳だね?よし、良いでしょう。なろうじゃないか。あ、でも月一ではこっちで抱かせて欲しいなー」
要求されてもいない事を話しながら頰を両手で覆い「テヘ、言っちゃった☆」と、サキュロスが似合わぬ声で言った。
知りたくも無かった情報にカイルらが顔をしかめる。『その見た目でレイナードを襲いたい側なのか!』とイレイラが叫びそうになり、必死に堪えた。
「ハッキリ言うよ、シド。私は君に求婚する。異論は認めない。森の惨事の詫びとして、私の神殿に来るんだ」
腰に手を当てて、サキュロスが踏ん反り返る。
「レイナードはこの世界の人間じゃないから、そんな事言われても従わないよ。森の一件はこちらで全て処理したら代償として彼を差し出す理由にはならない。それ以前に、魔物を一掃したんだから詫びが必要だとは思えないけどね」
「そうですわ。レオナードの意思ならいざ知らず、先程ハッキリ断られましたわよね?それなのに、そんな阿呆みたいな要求を受け入れる事は出来ません」
カイルに続き、イレイラも異論を唱えた。
「私も反対です」とロシェルも言う。
『儂もじゃ。やっとこうしてカイルの側に居られる理由も得たのに、円満な場所から離れるなんぞ絶対に嫌じゃぞ。なぁ?カイルもそうじゃろう?』
アルが嬉しそうに体を揺らしながらカイルの方を見た。
「そうだね、うん」
レイナードとの約束通り、うんうんとカイルが素直に頷いてみせる。小さくなった姿は彼から見ても愛らしく、これならば普通に接するのも苦じゃないなと思っていた。
味方が誰もいない状況に、サキュロスがムスッとした顔をする。
「じゃあ、私が真っ当にシドを惚れさせたなら、連れて行ってもいいよね?」
「いや待ってくれ、そもそも対象じゃないと——」
レイナードの言葉を遮るようにサキュロスが「えい!」と言い、その場で魔力の満ちた小さな光を撒き散らしながら一回転する。すると彼の姿は男性のものから女性へと一瞬で変化した。
夜着の中の胸が過剰に大きく主張が激しい。それ以外は今まで通り、長い深緑の髪にヤギの角、神経質そうな顔が少し女性らしさをもったかな?程度のもので大差はなかった。
「これならどうだ!さぁこれで問題は無くなったよね?一緒に私の神殿に行こう!」
自慢げに胸を張り、皆に姿を見せびらかす。
「どうだって言われてもねぇ……」
『体が女性になったからって即求婚に応じる訳は無いだろ!発情期の獣じゃ無いんだぞ⁈』と一同ツッコミたかった。もちろん当事者のレイナードが一番強くそう思っている。
(確かにコッソリ嫁探しをしようと昨夜決めたが、まずは仕事を得てからの話だと考えていた。それが、まさか、翌日にこんな奴に出くわすとは……)
サキュロスの発言を聞き、ロシェルが彼にしがみつきながら『シドと離れたく無い病』をジワジワと拗らせていく。行かせないで済む方法は何か無いのかと必死に考え、閃いた思いを深く考えもせず口にした。
ロシェルがギュッと目を瞑り、大声をあげた。抱きつく腕にも力が入っていて、胸が思いっ切りレイナードの腕に当たる。そんな状況ながらも彼は頰を赤らめ、「——は⁈」と叫んだ。
「……え?」
娘の意外な発言にカイルとイレイラが驚き、セナとエレーナは『やっと決意しましたか、ロシェル様!』と心の中で褒め称えた。
「——いいだろう。私は公平な神子だからね、受けて立つよロシェル。勝った方がシドを嫁に貰う。いいよね?カイル」
「嫁?レイナードが、嫁なの⁈」とカイルが驚く。 一方イレイラは「わかりました。その提案をお受けしましょう。神子である貴方と争うのです、ハンデとして私は全面的に娘をバックアップさせて頂きます。異論はありませんわよね?」とサキュロスを睨みつけながら言った。
「あぁいいよ、問題無い」
自信満々にサキュロスが頷く。その自信の根拠は何処にあるんだ?とカイルは不思議に思った。
「安心して、ロシェル。母が絶対にレイナード様と結婚させてあげるわ!」
「え?あの……母さん、私そこまでは——」
「勝つのは私だけどねー!」
当事者を無視したまま話が進んでいくがレイナードは口を挟めなかった。女同士(?)の言い合いが始まり、そんな隙がまるで無い。
『おい、なんだかよくわからぬ方向に話が進んでおるのではないか?』
アルが小声で言いながら、不思議そうに頭を傾げる。
「シー!関わったら終わりだよ、アルシェナ」
カイルがアルの口元に小さくなった指を当てる。
『アルと呼べ、カイル。お主達以外に真名は知られると後々面倒じゃ。人の始祖だというだけで無闇矢鱈に持ち上げる輩もおるでのう』
「あ、ごめんね。……ところで、どうするの?レイナード」
「俺に拒否権があるんですか?コレは」
彼女達の輪からコッソリ逃げ出したレイナードが、彼らに習い小声で訊く。
「……無いね、残念ながら」
『無いのう』
「……ですよねぇ」
額に手を当て、レイナードが深いため息をついた。
(サキュロス様を選ぶ事などないのに、何故こうなった?かといって、ロシェルと……というのも、彼女は仕える主人なのだから無理がある。——あぁ、そうか。断る正当な流れを作る為か!)
納得出来る答えを得て、レイナードが『成る程』っと手を軽く叩いた。
「魅了や誘惑系の魔法や魔法具の使用は一切禁止。正々堂々と対等なタイミングで惚れさせる。わかりましたか?サキュロス様」
イレイラの言葉を聞き、チッと舌打ちしてから「……んーわかった。いいよそれで」とサキュロスが頷く。
それからも詳細なルールが勝手にどんどん決まっていき、『レイナードに惚れてもらう』という意味不明な勝負は午後からのスタートとなった。