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#恋愛
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The King of Insatiable Desire
世界は、耐えきれなかった。
欲望と秩序が正面から衝突した瞬間、
空間そのものが軋み、ひび割れていく。
白い光が、降り注ぐ。
無数の処分者たちが、同時に術式を展開する。
「――対象消去、開始」
声は感情を持たない。
ただ、正確に、徹底的に。
だが。
「……遅い」
カルディアの声が、重なった。
次の瞬間――
黒い衝動が、爆ぜる。
彼の背から広がる“翼”は、もはや影ではない。
欲望そのもの。
形を持った“渇き”。
それが、波のように空間を飲み込む。
「――干渉確認」
「――侵食進行」
「――排除強度、最大化」
光が強まる。
だが。
黒が、それを喰らう。
触れた瞬間、光が歪み、吸い込まれていく。
まるで――
「……食ってる……?」
リエルが、小さく呟いた。
カルディアは答えない。
答える余裕などない。
「……足りない」
その言葉だけが、漏れる。
ドクン、ドクン、と。
彼の中で、欲望が膨張していく。
喰らえば喰らうほど。
「……もっと」
終わらない。
「……来い」
手を伸ばす。
その動きに呼応するように、
黒い衝動が一斉に処分者たちへ襲いかかる。
光と黒が衝突する。
だが――
均衡は、長く続かなかった。
「――崩壊」
ひとりの処分者が、音もなく消える。
次に、もうひとり。
触れられた瞬間、
存在そのものが“欲望に変換”され、吸収される。
「……ありえない」
ゼノスの声が、初めて揺らいだ。
「回収者が、回収対象を超過」
「存在定義、破綻」
カルディアは、ゆっくりと顔を上げる。
瞳は、もはや人のものではなかった。
黒。
深く、底の見えない闇。
その奥に、わずかな光が揺れている。
――リエル。
それだけが、残っている。
「……邪魔だ」
次の瞬間。
ゼノスの前に、カルディアが立っていた。
一切の予備動作もなく。
「……!」
光が反応するより早く。
カルディアの手が、ゼノスの胸を貫く。
「……っ、やめろ……!」
ゼノスが、初めて“拒絶”を示す。
だが。
遅い。
「……欲しい」
その一言とともに。
カルディアは、“それ”を引き抜いた。
白い核。
秩序の中心。
それを――
噛み砕く。
静寂。
ゼノスの身体が、崩れる。
光が、霧散する。
そして――
完全に消えた。
残されたのは。
ただひとり。
黒い王。
カルディアは、ゆっくりと息を吐く。
「……足りない」
その言葉に、リエルが一歩近づく。
「……それでも?」
カルディアは、彼女を見る。
その瞬間だけ。
瞳に、わずかな“理性”が戻る。
「……おまえは……」
声が、揺れる。
欲望と、何か別のものがせめぎ合っている。
リエルは、彼の頬に触れる。
「私は?」
その問いは、静かだった。
カルディアは、答えようとして。
止まる。
言葉が、見つからない。
だが――
衝動は、はっきりしていた。
手が、彼女を引き寄せる。
逃がさないように。
壊さないように。
それでも、壊したくなる衝動を抱えたまま。
「……離れるな」
それが、すべてだった。
リエルは、少しだけ驚いたように目を瞬かせて。
そして、笑った。
「うん」
「離れないよ」
その言葉で。
カルディアの中の何かが、わずかに鎮まる。
だが――
完全ではない。
むしろ。
“対象”が限定されたことで。
欲望は、さらに濃くなっていた。
そのとき。
空が、裂けた。
今までとは違う。
もっと深い。
もっと“根源的な”歪み。
「……来る」
リエルが、初めて真剣な声で言う。
カルディアも、感じていた。
これは、処分者ではない。
もっと上位。
もっと、古い存在。
「……あれは」
リエルが、静かに呟く。
「“起源”だよ」
黒い裂け目の奥から。
何かが、覗く。
形はない。
だが、確実に“意思”がある。
それは――
欲望そのものを“管理していた存在”。
「……面白いね」
それが、初めて発した言葉だった。
声でも、音でもない。
直接、脳に流れ込む。
「壊れた回収者と、鍵」
カルディアの身体が、わずかに強張る。
リエルは、黙ってそれを見ている。
「どちらも、必要だ」
その瞬間。
空間が、強制的に書き換えられる。
逃げ場は、ない。
「……選べ」
“それ”が、告げる。
「喰らうか」
「奪われるか」
単純な、二択。
だが。
カルディアは、迷わなかった。
リエルを、引き寄せる。
そして。
「……どっちも、違う」
低く、告げる。
「……全部、俺のものだ」
その宣言は。
完全な“逸脱”だった。
リエルは、その言葉を聞いて。
嬉しそうに、目を細める。
「いいね」
「それすごく、“悪い欲望”って感じ」
その瞬間。
世界は、完全にバランスを失った。
カルディアは、王となる。
欲望のすべてを喰らい尽くす存在へ。
だが――
その王はまだ知らない。
その欲望が。
“誰によって生まれたのか”を。