この時間を大切にしようとしてくれているのが伝わってくる。穏やかな空気に包まれて、緊張も少しずつ和らいだ。
ダイニングは、応接室とはうってかわって、カジュアルな雰囲気。それでも普通よりは大きいであろうダイニングテーブルを囲んで、乾杯をした。
「えっと”未央さん”じゃちょっと仰々しいから、未央ちゃんでいいかな?」
亮介のお母さんがこちらを向いて訊いてきた。
「あ、はい。私はなんでも」
「じゃあ未央ちゃんね。未央ちゃんはいくつなの? 亮介より下だよね」
「あ、いえその……32歳です」
「ええーーーっ!!」
亮介の両親はそろって叫んだ。なんかどっかでみたよね、この光景。親子って似るんだなと思う。
「そうそう、亮介に聞いたけど、未央ちゃんは亮介の、その……変身は知ってるのよね?」
「あ、はい。知ってます。キャラ変ですよね。一緒に遊ばせてもらってます」
あたかも当たり前のように未央はこたえた。その姿を見て、ぱあっと亮介の両親の表情が明るくなる。
「亮介!! よかったね。あれを知ってて受け入れてくれるなんて。ありがたいわね。未央ちゃん、ありがとう!!」
亮介の母は、身を乗り出して未央の手をとるとぶんぶんと振った。よっぽどうれしいんだろうか、その勢いに圧倒される。
「お前はいつもあれでふられてたもんな」
亮介の両親は、しみじみといままでのことを思い出しているようだ。亮介は苦笑いしていた。楽しくおしゃべりして、亮介の家を後にしたのはもう15時を回っていた。
私の仕事の話とか、身寄りがいないとか、大事なことを全部話すと、亮介の両親は真剣に話を聞いてくれた。
『未央ちゃんさえよければ、私たちを親と思って、頼ってくれていいからね』
『そうそう、家族になるんだし』
家族になる。自分を受け入れてもらえたことが素直にうれしかった。私の境遇に、同情するでもなく、無関心でもない。そっと寄り添おうとしてくれる温かい雰囲気は、亮介と同じだった。
「未央、ありがとうね。あんなに喜んだ親の顔、初めて見たかも」
バスに揺られて、鎌倉駅へむかう。最後尾の席に座って、ほっと一息ついた。
「こちらこそ、ありがとう。ほんとすてきなご両親ね」
「真面目な両親は新しい発見だな」
「家族になるって、素直にうれしい」
「……未央、これからもよろしくね」
亮介はそっと未央の手を握った。穏やかで温かい笑顔だ。
「うん、私も。よろしく」
「ちょっと鎌倉観光する?」
「うん、鶴岡八幡宮に行ってみたい」
「オッケー。いこいこ」
鎌倉駅につくと、亮介は未央の手を取って小町通りに入った。小さなお店がたくさん軒を連ねた通りは、平日にも関わらず観光客で混雑している。
ふたりはお揃いの箸を買ったり、スイーツを食べたりしながら鶴岡八幡宮へと向かった。大きな鳥居をくぐると、広い境内が見えてくる。きょうは大安。結婚式のあとなのか、新郎新婦を囲んで、写真撮影が行われていた。
「わぁ、花嫁さん。すてき、白無垢いいな」
「ねぇ。結婚式、僕はしたいと思ってるけど未央はどう?」
そう言われてハッとした。花嫁姿に憧れはあるけど、うちは参列する家族もいないし、なんか申し訳ない。写真だけでもいいかなと言おうと思ったとき
「家族いないから申し訳ないとか思ってるでしょ?」
そう亮介に言われてぐっと口を噤んだ。なんでこんなによく私のことわかるんだろう。
「こじんまりでもいいからやろうよ。一生に一回だよ?」
「……、ありがとう。うん、そうだよね、結婚式しようか」
「どっか希望とかある?」
「希望? うーん……」
夢の国のホテルとか? 海の見える教会とか? うーん……。ちらっと見えた花嫁さんの白無垢、新郎の袴姿。
あぁそっか。