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食事を終えた六人は、一度部屋に戻って防寒対策をしてから、再びロビーに集合した。


「あれ? 萩原さんは?」


結衣の問いに、加藤が言った。


「あいつはもう先に行ってるよ。車から機材を出してセッティングするんだってさ」

「そうなんだ」


五人が庭に出ると、夏彦は機材のセッティングをしていた。

がっちりとした三脚には本格的な赤道儀と望遠鏡が載っている。赤道儀にはバランスを取るためのウェイトも付いていた。

アウトドアテーブルの上にはノートパソコンが置かれ、望遠鏡の映像が映し出されている。


(すごい、本格的……)


その本格的な装備に見とれている美空に、夏彦が声をかけた。


「カメラ持ってきた? 隣においでよ」

「あ、はい……」


美空が夏彦の隣に行くと、彼はアウトドアチェアを貸してくれた。

美空は椅子の前に三脚を広げ、カメラをしっかり固定する。


その時、空を見上げていた加藤たちが、興奮気味に声を上げた。



「うわぁ、すっげー、満天の星だ~!」

「ほんと~、すごく綺麗~!」

「あれって、天の川だよね?」

「そうそう、すごーい!」



美空が顔を上げると、無数の星が瞬いていた。その光景に思わず息を呑む。


(わ……すごい……こんなに素晴らしい星空、生まれて初めて観たわ……)


美空は言葉を失い、しばらく無言で星空を眺めていた。


その時、庭の奥にある天体観測用ドームから声が響いた。


「今から木星と土星の観察会を始めまーす! ご興味のある方はぜひどうぞ~!」


案内をしたのはロッジのオーナーで、白髪混じりの高齢の男性だった。


「絶対観た方がいいよ! あの望遠鏡で観る惑星は圧巻だからね」


そう言って夏彦が立ち上がったので、美空もその後を追う。

列にはすでに加藤たちが並んでいた。


順番が近づくにつれ、天体ドームから興奮した声が響いてきた。


「うわぁ、すっげー!」

「わーっ、感動~!」

「木星ってこうなってるんだ~」


望遠鏡を覗いた加藤たちが、興奮している様子が伝わってくる。

そして、いよいよ美空の番になった。


「どうぞ覗いてみてください! これが木星ですよ」


美空は望遠鏡を覗き込む。すると、いきなり鮮やかなオレンジ色の縞模様がはっきりと観えたので、思わず息を呑んだ。

天体ドームの望遠鏡から観る木星は、想像以上に素晴らしいものだった。


「うわー! 大赤斑もはっきり観えてすごーい!」


美空が叫ぶと、オーナーは「おっ!」という顔をして言った。


「詳しいですね。天文はお好きですか?」

「はい。以前、天文台の観望会で木星を観せてもらいましたが、こんなにはっきりとは観えませんでした」

「惑星は空の条件にかなり左右されますからね。今夜はすっきり晴れていてラッキーでしたね。では、次に土星にいきましょうか」


オーナーはご機嫌な様子で、土星に焦点を合わせ始める。

そして、先に待っていた加藤たちから順番に望遠鏡を覗いた。


「こっちも、すげーっ! こんなにはっきり観えるんだー!」

「おおっ! 輪っかがちゃんと観えるぞ!」

「わー、すごい! 図鑑で見たのと同じだ~!」


加藤や植田に加え、天体にはあまり興味がなかった結衣まで驚いていた。

しかし、玲奈だけは反応が薄い。なぜなら、彼女は夏彦の気を引くことに必死だったからだ。

玲奈は、ここぞとばかりに夏彦を質問攻めにする。

その内容が小学生レベルだったので、美空は思わず苦笑いを漏らした。


天体ドームでの観望会が終わると、六人は元の場所へ戻った。

美空はアウトドアチェアに腰を下ろし、再び夜空を見上げた。空は雲一つない快晴で、天の川が肉眼ではっきりと確認できる。


(本当にすごい……無数の星が宝石みたいにキラキラと輝いてる! 長野の空って、こんなにも素晴らしかったんだ)


美空はその星空に圧倒されていた。

この美しい光景を、なんとか写真に収めたい_____そう思った美空は、姿勢を正し、カメラの設定を調整し始めた。

すると、夏彦が美空に言った。


「そっちじゃなくて、こっちの三脚にカメラをつけなよ」

「え?」


夏彦が指差した方を見ると、いつの間にか簡易赤道儀がついた三脚が置かれていた。


「わ! 簡易赤道儀も持ってるんですか?」

「うん。飛行機や新幹線で出張の時は、いつもこっちを持って行くんだ」

「え? 出張先でも撮影するの?」

「そうだよ。チャンスは逃したくないからね」


夏彦はそう言ってニヤリと笑い、美空のカメラを簡易赤道儀の上に固定してくれた。


その時、二人の傍に玲奈がやってきた。


「うわぁ、今から写真を撮るんですかぁ? 見ててもいい?」

「どうぞ」


夏彦はそっけなく答えた。

その応対が物足りなかったのか、玲奈はさらに夏彦にこう話しかける。


「えーっ? 何これーっ! これってどうなってるのー?」


玲奈が機材に手を伸ばそうとしたその瞬間、夏彦が大きな声を上げた。


「あっ、触らないでっ!」

「えっ?」


夏彦の強い口調に驚いた玲奈は、慌てて手を引っ込めた。


「ごめん。今、極軸を合わせたばかりだから、触るとズレちゃうんだ」


夏彦が申し訳なさそうに言ったので、玲奈は機嫌を直し、再び彼に言った。


「『きょくじく』ってなぁに?」


玲奈に質問された夏彦は、丁寧に説明を始めた。

しかし、彼の口から出てくる難しい言葉は、玲奈にはまったく理解できず、仕方なく分かったふりをして頷いている。

一方、美空はある程度の知識があったので、夏彦の説明を一通り理解できた。

長い説明が終わると、どことなく玲奈の表情はひきつっていた。

そんな彼女の様子を気にも留めずに、夏彦は美空に向かって尋ねた。


「レリーズは持ってないよね?」

「あ、はい」

「レリーズ?」


再び玲奈が話に割り込む。しかし、夏彦は彼女の言葉に反応せず、自分のカメラバッグを探り始めた。


「あ、あった! これ、使っていいよ」

「ありがとうございます」

「カメラのメーカーが同じでよかったね」

「助かります。これ、いつか買わなくちゃと思ってたんです」

「一緒に行く時は貸してあげるから、買わなくてもいいよ」

「え?」


(『一緒に行く時は貸してあげる』……それって、また一緒に撮影する機会があるってことなの?)


美空は驚いて夏彦の方を見たが、彼はすでに望遠鏡を覗き込んでいた。


その時、玲奈は不機嫌そうに結衣や加藤たちがいる場所へ向かって走って行った。このままここにいても、何もいいことはないと悟ったのだろう。

そんな玲奈の様子に気付いた夏彦は、苦笑いを浮かべてこう言った。


「あれっ? 機嫌を損ねちゃったかな?」

「みたいですね」

「ハハッ、悪いことしちゃったな。じゃあ、撮り方のレクチャーを始めるよ」

「お願いします」


夏彦は天の川の撮影方法を美空に教えた。

説明を聞いた美空は、教えられた通りにカメラを設定し、天の川を何枚も撮影した。

天の川以外にも、好きな星座や山を画角に入れ星景写真を撮ってみた。夢中で撮影しているうちに、あっという間に三時間以上が経過していた。

結衣たちの姿はもうそこにはなかった。おそらく部屋に戻って飲み会を始めたのだろう。


ロッジの庭には、美空と夏彦の他に数組の宿泊客が、それぞれ思い思いに撮影を楽しんでいた。

冷たい空気の中、彼らのシャッター音だけが響いていた。


「ほら、これを見て」


夏彦のパソコンを見ると、M51と呼ばれる渦巻き状の子持ち銀河が映し出されていた。それ以外にも、おとめ座銀河団の銀河であるマルカリアンチェーンも見せてもらった。


「わぁ、すごい! こんなにくっきり撮れるんですね! 綺麗~!」

「これ知ってた?」

「マルカリアンチェーンでしょ?」

「お、さすが!」

「私は勝手に『宇宙のブレスレット』って呼んでます」

「『宇宙のブレスレット』かぁ……。上手い名前をつけたね」


夏彦はそう言って穏やかに微笑んだ。


それからしばらくして、二人は撮影を終えた。

機材を片付けながら、夏彦が言った。


「撮った写真は、画像ソフトを使って加工すると見違えるようになるよ。その辺は、またおいおいとレクチャーします」

「はい。よろしくお願いします」

「でも、いい写真が撮れて良かったね」

「はい! 生まれて初めて天の川を撮影できたので、最高です!」


美空が嬉しそうに微笑む様子を見て、夏彦も穏やかに微笑んだ。


その後、片付けを終えた二人は、それぞれの部屋へ戻った。

この作品はいかがでしたか?

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コメント

15

ユーザー

玲奈、趣味が合う人を探したほうが早い。 あー趣味は男漁りか🤭 夏彦さんと美空ちゃんのこれからがずっーーごく楽しみです😍

ユーザー

大阪から来た友達が、星の多さに驚いていたのを思い出しました。 清里から見た星も綺麗だったなぁ。

ユーザー

〝チャンスは逃したくないならね〟 コレって撮影の意味だけじゃない気がするなー。 専門的な言葉、私も分かんなーい!多分、玲奈と同じ小学生レベルですよw 色々調べながら読む、勉強になります☆

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