ここは東京都心のとある街の店。
店の名前は『CAFE NVG』。
この店は、昼間はカフェとして営業し、夕方からはバーとして営業している。
『CAFE NVG』の『NVG』は、『Night Vision Goggle』の略。
つまり『暗視ゴーグル』という意味だ。
一風変わった名前のその店には、ある分野に共通する常連客がよく訪れる。
ある分野とは、『ミリタリー』や『軍事系』だ。
昼間は普通のカフェなので、訪れる客もごく普通の一般客だ。
しかし、夕方からのバータイムには、そういった分野に関心のある客が多く訪れる。
客の中には、現役自衛官、自衛官OB、警察官、警察官OB、そして軍事マニアや兵器マニアなども多い。
常連客は顔なじみが多く、初めてこの店に来たとしても共通の話題ですぐに盛り上がる。
ミリタリーや軍事系と言うといかつい雰囲気の店舗をイメージしがちだが、
この店は至って普通だ。
いや、逆にセンスは良い方かもしれない。
店の内装は、アンティーク調で統一されている。
ドアや窓枠の建具、そしてテーブルや椅子、照明に至るまで、全てヴィンテージ物だ。
その瀟洒な雰囲気は女性客に好評で、
カフェタイムの店内は、いつも上品なマダム達で溢れている。
ただし、店の隅にあるカウンター下の書棚には、
ミリタリー関係の雑誌やDVDがさりげなく置かれている。
それらのほとんどは、常連客が提供してくれたものだ。
夜のバータイムには、そのDVDが上映される事も珍しくない。
その日、午後七時を回ると、少しずつバーへの客が増え始めた。
店のカウンターでは、30歳くらいの若者が接客をしている。
若者はこの店のバーテンダー兼店長だ。
彼はその若さで、店を任されていた。
その時、一人の男性が店に入って来た。
男性はすぐにカウンターへ向かって来る。
途中、常連客と挨拶を交わしている様子からすると、どうやら顔見知りのようだ。
その後、男性はカウンターまで来ると言った。
「お疲れさん」
「陸さん、お疲れ様です! 今日もこっちですか?」
若いバーテンダーは、男性に向かって言った。
「うん、他は大丈夫そうだからこっちの応援をするよ」
男性はそう言うと、ジャケットを脱いでからカウンター内へ入って行く。
どうやらその男性は店の関係者のようだ。
男性の名は、日比野陸、44歳。
陸の身長は、185センチとかなり高い。
筋肉質のがっちりした身体は、何か特別な鍛え方をしたのだろうと思わせるくらい、
見事な体格をしていた。
顔はキリッとした端正な醤油顔で、なかなかのイケメンだ。
こざっぱりとした短髪の黒髪は野性的で、口周りの短い髭がさらにワイルドさを強調している。
相手の全てを見透かすような眼光の鋭さは、彼が普通の人間ではない事を示している。
その眼力は、敵対する相手を震えあがらせるほどの威力を放つ。
この日、陸は細身のグレーのパンツに黒のシャツを着ていた。
そのいでたちは、まるでモデルのようにしなやかで、店内にいた女性客達の視線を一瞬にして惹きつける。
陸は、この店のオーナーだった。
陸は昔、陸上自衛隊の空挺レンジャーとして陸自のエリート精鋭部隊である第二空挺団に所属していた。
高校卒業後、陸上自衛隊に入隊した陸は、20代前半で空挺レンジャーの試験に合格し、
その後10年以上第二空挺団に所属し活躍をする。
しかし陸が31歳の時に起きた大規模火山噴火の際、災害救助活動中に右肩を負傷してしまう。
幸い、怪我の後遺症は、日常生活に影響はなかったが、
自衛官にとって必須の射撃の際に、必要な構えが出来ないという致命的な後遺症が残ってしまった。
陸は怪我の回復後第二空挺団を引退し、その後数年はレンジャー養成の指導教官として指導にあたっていた。
しかし熟考の末、34歳で自衛官を退役した。
退役後は、自衛隊からの紹介で再就職先をいくつか紹介されたが、
どうせなら全く違う分野に挑戦してみたいと知人の高津義郎からの誘いに乗り、
彼が経営する飲食店で働き始める。
当時61歳の高津は、企業家で様々な事業をしていた。
陸と高津が知り合ったのは、高津が災害ボランティアに参加していた事がきっかけだった。
その時、高津は陸が救助活動中に怪我をした事を知った。
その後も連絡を取り合っていた高津は、陸が退役を決意した時すぐに自分の仕事を手伝わないかと持ち掛けた。
陸は当初『CAFE NVG』の店長として雇われる。
全く畑違いの仕事に戸惑いつつも、陸は自分なりに努力や勉強を重ね少しずつ店の売り上げを伸ばしていった。
そして徐々に店の経営に興味を持つようになる。
その真面目な働きぶりを見た高津は、陸に通信制の大学で学ぶ事を勧める。
経営に興味を持ち始めていた陸は、高津の助言に従い有名私立大学の通信課程で経営学を学んだ。
高津は大学を卒業した陸に、今度は一から店を経営してみないかと話を持ち掛けた。
そして、高津が出資者となり陸は2店舗目の経営に乗り出す。
元々商才があったのか、2店舗目の経営も順調に進み、
今ではこの店を含む計4店舗のオーナーになっている。
そして最近では、不動産投資にも手を広げていた。
この店で店長をしている若者は、塩村卓也・29歳。
卓也も、以前は陸と同じ自衛官だった。
卓也は関東の陸上自衛隊に所属していた。
しかし入隊6年目に内科的病気を患う。
幸い、命にかかわるような病ではなかったが、
ストレスや身体に負担のかかる仕事は控える必要があると医者に言われ、
卓也は両親からも説得されて泣く泣く退役を決意。
自衛官を辞めた後は、実家に戻り療養を兼ねてしばらくのんびり過ごしていたが、
たまたまこのカフェに立ち寄った際に、陸と顔見知りになる。
そして何度か通ううちに、ここで働かないかと誘われる。
そろそろアルバイトでも探そうと思っていた卓也は、
すぐにその誘いを受けた。
卓也は店で真面目に働いた。
元々責任感の強いタイプなので、どんな仕事もきっちりやり遂げる。
そんな仕事ぶりが認められ、今では社員として店長を任されるまでになった。
全く違う分野で働いてみて卓也が感じた事は、
自分は自衛官よりもこういう仕事の方が向いているのかもしれないという事だった。
陸は常に卓也のやりたいように自由にさせてくれる。
店長として、卓也がこうしてみたいと思うようなアイディアがあると、
陸はいつも卓也の意見を尊重してくれた。
陸は常に現場スタッフの意見にきちんと耳をかたむけてくれる。
そんな上司だった。
そんな陸のお陰で、卓也はストレスなく毎日楽しみながら仕事に取り組んでいた。
コメント
2件
今回のヒーローは元自衛官のワイルドなイケメンさん....⁉️ これから華子さんとどう関わってくるのか、楽しみですね✨
自衛官を訳あって退官後のストーリー、とても魅力的な容姿と頭脳を持ち合わせた陸さんとプライド高き華子がどう絡んでいくのかとても楽しみです🤭💕