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「――あのさ、相談って、してもいい?」
放課後の空き教室。窓際の机に脚を投げ出していた蓮司は、ちらりと顔を上げた。
「お、どうぞどうぞ。“相談室”開店中でございます」
ふざけた口調のまま、足をおろし、彼女のために椅子を引く。
その女子――成瀬あいりは、教室のドアにもたれて腕を組んでいた。いつもの明るい笑顔は、どこか貼り付けたように見える。
「ねぇ蓮司って、さ。いつも飄々としてるけどさ、本当の自分とかって考えたりする?」
「いきなり深ぇな。どした、キャラ設定に迷ってる?」
「あー……まぁ、そんな感じ」
あいりは笑ってみせたけど、どこか空っぽな声だった。
「疲れちゃってさ。いつも“かわいいね”とか“陽キャ”とか言われるけど、最近それに合わせてるだけで、なんか自分じゃない気がして」
「あるある。ってか、そういうキャラやってる時点で偉くない?俺とか何も演じてない風で、実はめっちゃ計算してるよ?」
「うそだ、蓮司は自然体じゃん」
「“自然体”って言われた時点で、もう演技成功ってことだよ」
蓮司は肩をすくめて笑う。
「でもまあ、あいりが“疲れる”って思ってる時点で、それたぶん“素”じゃねぇんだろな」
彼女は、黙って窓の外を見た。夕陽が彼女の輪郭をオレンジに染める。
「さ、本題は?」
「……本題、ってほどじゃないけどさ」
しばらく黙っていたあいりが、ぽつりとこぼす。
「ねぇ、私さ、ほんとは――
“嫌われてもいいから、誰かとちゃんと本音で喋りたい”って思ってるんだよね。
でも、それ言ったら終わるじゃん、今の“キャラ”」
蓮司は、ふっと表情を崩した。
「おもしれーじゃん、それ。“終わる”と思ってんの、あいりだけかもよ?」
「……そうかな」
「そ。つーか、本音出して終わる人間関係なら、最初から終わってる」
「蓮司、意外とちゃんとしてるんだね」
「失礼な。俺、ガラスの思春期真っ最中なんで」
あいりが吹き出す。その瞬間だけ、ほんの少しだけ“キャラ”がはがれて、素の声が出た。
蓮司はそれを見て、満足げに目を細めた。