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「ついに始まったか」
俺は意識を取り戻すと、辺り一面が闇に包まれた空間にいた。
ここまでは想定通り。
月と魔法は踊るで見た景色と変わらない。
『これより隠しクエスト――『白紙の書の試練』を始めます」
俺の目の前にゲームのウィンドウ画面が現れる。
白紙の書の試練は試練は単純だ。
出てくる敵を倒しまくればいい。ただそれだけ。
ただ、この隠しクエストには唯一の問題がある。
『これより挑戦者であるアナタは闇魔法以外の魔法は一切使えません。出てくる敵を倒し続けて下さい。達成度に応じて神々からの報酬をお渡し致します。検討をお祈り致します』
これが『月と魔法は踊る』の隠しクエスト。
試練の内容は単純で、闇魔法で敵を倒しまくるだけ。
それだけなのだが、そもそもクエストの発生条件が特殊というのもあり、発売から半年後にこのクエストの存在を知った。
同じ属性しか使えないとはいえ、敵を倒し続けるのは爽快感がある。
だがそれは『月と魔法は踊る』というゲームの中での話。
今の俺は『月と魔法は踊る』という世界を現実として生きている。
セーブ機能なんてない。しくじれば本当に死ぬかもしれない。そんな状況に俺はいる。
『それではスタートです』
ウインドウがクエストの開始を知らせる。
『キキッ……』
目の前に緑色の肌のゴブリンが現れる。
何故か黒一面の世界で色の認識はできる。
だがその理由を推測する時間も、戦闘を万全に準備をする時間はない。
『キキィ!!』
ゴブリンは俺に襲いかかってくる。
俺はそれに対して、右手をかざして闇の魔法陣を展開する。
「ダークファイヤ」
俺は黒い火球を射出しゴブリンを一撃で物言わぬ骸に変える。
ゴブリンの骸は闇に溶けて消える。
その後、ゴブリンは5体に数を増やして現れる。
『複数展開』
俺は頭の中でコマンド画面を想像して、
ファイアのボタンを連打するように押す。
すると、俺の回りに5つの紫の魔法陣が展開される。
やり方は知っている。
記憶通りにやればいいだけだ。
しかし5体のゴブリンを倒したら、今度はゴブリンは10体に数を増やしたてきた。
しかもゴブリンの上位個体であるゴブリンナイト1体のおまけ付け。
「雑魚共が」
笠原悠馬の中にいるイヴィルが悪態をつく。
だが悪態を吐いたとて状況は変わらない。
ただひたすらに敵を倒すだけ。
しかし、いくら倒しても敵は指数関数的に増えていく。
ただ増えていくだけではない。数に比例してモンスターの強さも変わっていく。
ゴブリンだけではなく、スケルトンやサラマンドラなど多種多様のモンスターが現れては、俺に向かってくる。
「くっ……! まだだ!!」
俺は集中力を切らさないように魔法を繰り出す。
不幸中の幸いなのは、この隠しクエストでは魔力が減らないという点。
しかし、無限の魔力を持っていたとしても永遠に強くなって湧き出てくる敵を相手にしている以上は、そのメリットもう少なくなっていく。
「くそっ……!」
俺は魔法を撃ちながら何回めか分からない悪態を吐く。
やはり『頭の中で想像していては遅い』……!
もっと早く展開して、もっと速く打ち出す。
俺は敵を倒していくにつれ、無意識に複数の魔法を展開していけるようになっている。
ちょっと力技かもしれないけれど、感覚を身につけるという意味では結果として良かったかもしれない。
だが、ちゃんとクリアをできなければ意味がない。
『グオオオオッ!!!』
ゴブリンよりも3倍ほどの体躯を持つ人型のモンスターが咆哮をあげる。
「ついにオーガもお見えとはなぁ!!」
オーガとは『月と魔法を踊る』では中盤に出てくる強モンスターだ。
初見の時はゲームの中でオーガには苦しめられた。
だけど、今の俺は記憶も知識もある。
「くたばれ――『ダークインフェルノ』」
無限の魔力を元に全力で魔法を放つ。
『グオオオオッ……』
オーガは倒れる。
だが、倒したそばからまたオーガは湧いてくる。
集中力が切れた時が俺の最後だ。
「なめるな……!!」
負ける訳にはいかない。
俺は痛みを知っている。
何も成せず、ただただ無様に刃物で刺された屈辱と脈を打つたびに全身が冷たくなる感覚。
一度死んだ経験があるからこそ言える。
こんな感覚は二度と味わいたくはない。
「くそが!! 『ダークインフェルノ』!!」
まさに多勢に無勢の様相。
敵はまだまだ強くなる。
「ちっ……!」
致命傷ではないもののモンスターモンスターの攻撃が掠る。
腹いせに攻撃を掠めた代償を命で支払ってもらう。
気が付けば、全ての魔法を無詠唱で撃てるようになっていた。
コンサル時代は効率化を提案するのが仕事だったのに、結果として質より量に助けられる形になるのは皮肉なのかもしれない。
気が付けば、辺りは俺を中心にモンスターは大群と化して襲い掛かる。
「はぁあああああっ!!」
無詠唱で全力のダークインフェルノを全方位に放つ。
結果として、周囲のモンスターを消しとばす。
「はぁ……はぁ……やったか」
辺りは静寂に包まれる。
そのせいか、心臓の音が響く。やけに煩い。
今、この空間には俺一人しかいない。
さっきまでモンスターが鬱陶しかったから、今は少しだけ清々している。
なんて思っていたのに。
『GYAAAAAAAAAA!!!!』
けたたましい咆哮が鼓膜を震わす。
目の前には10メートル以上はある巨大な黒い龍が翼を羽ばたかしては、俺を睨みつける。
「ついにお出ましか」
俺はニヤリと笑みを浮かべる。
『おめでとうございます。残る敵はあと1体です』
青いウインドウが俺の目の前に現れる。
月と魔法は踊る最強と名高い『白紙の書の試練』の裏ボス。
月と魔法は踊るでは、こいつには色々と世話になった。
『『白紙の書の試練』の最終ボス――アビスドラゴンの討伐。健闘をお祈りしています』
そんな言葉を残して青いウインドウは消える。
『GYAAAAAAAAAA!!!』
ウインドウが消えた瞬間、アビスドラゴンは再び咆哮をあげる。
これが戦闘の始まり。
アビスドラゴンは大きく息を吸い込み、口元から紫の炎を漏らす。
初撃は決まっている。アビスドラゴンを中心に扇状に地上を焼け尽くすブレス攻撃。
俺には月と魔法は踊る知識がある。
『GUOOOOOOO!!!』
俺は地面に向かって魔法をぶっ放して飛翔する。
「当たるかよ」
案の定、扇状に地上を焼け尽くすブレス攻撃。
俺は空中に逃げることで回避する。
分かっていたらどうってことはない。
俺は着地のタイミングで地面に残ったに乗った。
とはいえ、俺も逃げっぱなしというわけにはいかない。
「さぁ……やり合おうか」
俺は大量の魔法陣を展開してアビスドラゴンに攻撃を集中させる。
幾百幾千の魔法を嵐のようにアビスドラゴンにぶつけた。
『GYAAAAAAAAAA!!!』
アビスドラゴンも負けじと攻撃を返す。
直線状のブレス攻撃。
命を消滅せんとする波動に俺は――
「負けるかよ!!」
――火力には火力をぶつけることにした。
非効率なことこの上ない。
――そんなことは分かっている。
少しでも気を抜けば致命は避けられない危険な状況。
――そんなことも分かっている。
危険な状況のはずなのに、どこか楽しんでいる俺がいる。
ヒリつく感覚に胸を躍らせる。
笠原 悠馬として生きていたどの瞬間よりも高揚している気がした。
しかしながら、俺はアビスドラゴンのブレスを弾くことで精いっぱいだった。
「まだまだ……だよなぁ!?」
俺は攻撃の手を止めることはない。
ただひたすらに魔法陣を展開しては攻撃を繰り返す。
しかし、ダークドラゴンはいくら攻撃しても致命傷になりえないと判断しているのか、だんだんと侮蔑を帯びた視線に変わっていく。
なんとなくアビスドラゴンの開いた口元が、俺を馬鹿にしたように笑った気がした。
「なめやがって」
とはいえ、闇雲に攻撃しても意味がない。
アビスドラゴンの攻撃パターンを理解しても、こちらがダメージを与えなければ意味がない。
俺は闇の魔法陣の質を圧縮して鋭くする。
魔法一つ一つを原子のように固めて、20メートルほどの巨大な紫の鎌を練り上げる。
『死神の鎌』
俺は右手をかざして、死神の鎌をアビスドラゴンの首元めがけて振り下ろす。
アビスドラゴンの首を刈るには十分な大きさだが、寸でのところで交わされ尻尾を切断することしかできなかった。
『GYAAAAAAAAA!!!』
アビスドラゴンの尻尾がボトリと地面に落ちる。
アビスドラゴンは先ほどまで俺に対して舐め腐った目をしていた。
しかし今となっては明らかに怒りの感情を俺に向ける。
だが、これじゃあまだ足りない。
アビスドラゴンを完膚なきまでに殺りきるまで、俺は止まるつもりはない。
コツは掴んだ。次は逃がさない。
『死神の鎌』
俺は再び、紫の鎌を練り上げる。
だが今度は自分の両手に収まるサイズで。
アビスドラゴンはそんなことを意に留めず、怒りのまま俺にブレスを放つ。
俺は大量の魔法陣を展開して迎え打つ。
そのついでに、俺はグリムリーパーを全力で投げる。
『GYAAAAAAAAA!!!』
俺の魔法とアビスドラゴンのブレスがぶつかる。
腰の回転運動を用いて、投げた鎌はブーメランのように弧を描いてアビスドラゴンに向かう。
だが、アビスドラゴンは俺のグリムリーパーに気づくことはなく、首元を斬りつける。
『!!?』
アビスドラゴンは声にならない声を出した後に、ブレスが途切れ魔法が直当たりする。
俺はその隙を見逃さない。
両足の裏から魔法を噴出させて、超高速でアビスドラゴンに接近する。
その勢いのまま、俺はグリムリーパーを掴み取り、腰を捻って軌道を修正して、アビスドラゴンの首元目掛けて回転しながら接近する。
「くらいな!!」
俺はアビスドラゴンの首元にグリムリーパーを刺し込む。
速度×回転運動から生み出される力量は勢いに比例して火力を生み出す。
その結果、グリムリーパーはソニックブームを纏い、アビスドラゴンの首を刈り取った。
アビスドラゴンは地面に堕ちて霧散する。
すると、
『おめでとうございます。貴方は人類で初めての『白紙の書の試練』全達成者となりました』
青のウインドウが現れた。
つまり、これで終わり。
「しゃあ!!」
『その功績を讃え、討伐な報酬を与えます』
『クリア報酬:無限の魔力(闇)』
青のウインドウにはそう書かれていた。
「くっくっくっ……やった! やったぞ!!」
思わず笑みが溢れる。
これが俺が求めていたもの。
文字通りのハイリスク・ハイリターン。
闇属性の魔法限定ではあるが、『無限の魔力』さえあれば、今後の脅威に対して備えやすい。
まさにハイリターンの報酬だ。
『それでは現実世界へお戻しします。――おや、貴方は……いえ、失礼致しました。それでは偉大なる後継者の覇道に闇が共にあらんことを』
そんなメッセージと共に辺りは白い光に包まれる。
なんだか、察したようなメッセージだった。
だが俺には関係ない。
俺はイヴィル・ヴィルサレムとして月と魔法は踊るの世界で生き延びなければならないのだから。
こうして俺は『白紙の書の試練』を無事に終えるのだった。
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