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(まさか…………私にオファーをくれたハヤマ ミュージカルインストゥルメンツの葉山さんが…………うちの店に食べに来ている、あのおにーさんだったとはねぇ……)
美花は、机の上に置かれた、おにーさんの名刺をチラリと見やる。
──ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツ DTM事業部 課長 葉山 圭
(おにーさんの名前、葉山圭さんっていうんだ。カッコいい名前……)
美花は、圭の名刺から取り扱い説明書に視線を移し、デモ機の画面に触れた。
この日、彼女は有給休暇を取り、ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツへ訪問している。
本社が立川にあるとは露知らず、おにーさん、もとい葉山圭と何度かやり取りしたメールで初めて知った。
そもそも美花は、ハヤマのDTM製品を使った事がない。
ハヤマの社名は知っていたけど、DTM製品を製造していた事すら、彼女は知らなかった。
美花が愛用しているDAWソフトを始めとする音楽機材のほとんどは、亡き父も愛用していたゴーランド社製品。
ずっと使ってきて、今さら他社のソフトに乗り換える気がしなかった。
「以上、スマートミュージックの説明をさせて頂きましたが、何かご質問等、ありますか?」
美花は、柏木の声で弾かれたように顔を上げ、うっすらと笑みを覗かせる。
「そうですね……。直感的な操作ができるのは、いいと思います。DTMを始めるのは躊躇する方でも、まずはスマートフォンで音楽を作ってみたいって考えている方には、手軽に始めやすいと思います」
「ありがとうございます。では、一度休憩にしましょう。休憩の後ですが、Hanaさんにインタビューをさせて頂きたいと思いますので、よろしくお願いします」
同席している女性社員から、ホットコーヒーを差し出され、美花はカップに口を付けた。
喉元を通り過ぎるコーヒーの温かさに、彼女の緊張もほぐれていく。
カップを傍らに置きながら、美花は、改めて圭の名刺に眼差しを辿らせた。
(あれ? おにーさんって、ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツの葉山さんなんだよね? 会社の名前と同じ……?)
整然と並ぶ名刺の文字を凝視しながら、ぼんやりと考える彼女。
「それでは、Hanaさんのインタビューを開始したいと思います。よろしくお願いします」
圭の呼び掛けで、美花へのインタビューが始まった。
DTMを始めたきっかけや、好きな音楽のジャンル、これから作曲してみたい音楽ジャンルなど、美花はDTM事業部の人たちの質問に淡々と答えていく。
時間はあっという間に過ぎていき、全てが終わった頃には、既に空が暗くなっていた。
「それでは、最後に、Hanaさんのお写真の撮影をもちまして、終了させて頂きたいと思います」
圭の言葉に、美花は、薄茶の瞳を見開きながら、鼓動が大きく跳ね上がった。