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「あっ……あのぉ…………顔出しは……ちょっと……」
「申し訳ございません。言葉足らずでしたね。Hanaさんの動画投稿サイトのトップページに載っているアイコンの、手で作ったハートマークを、こちらでも撮影させて頂きたいのですが……」
しどろもどろに答える美花に、部長の柏木が穏やかな声音で答える。
「あ……ああ、ハートマークでしたら全然大丈夫ですっ」
美花は、ホッと胸を撫で下ろしながら、笑顔の花を咲させ、両手でハートマークを作った。
「これですよ、これ!」
柏木が、自身のスマートフォンのカメラで、美花の手元をアップにして、シャッターを切る。
美花が作ったハートマークの写真を二〜三枚撮られ、Hanaとしての打ち合わせとインタビューが滞りなく終了した。
「Hanaさん、今日はお忙しい中、来社して頂き、ありがとうございました。それでは、スマートミュージックで制作した楽曲が完成しましたら、葉山までメールでご連絡頂けますでしょうか? よろしくお願いします」
「はい。帰宅したら、さっそく制作してみようと思ってます。今日はありがとうございました」
一階の正面玄関まで、圭と柏木に見送られた美花は、二人に深々と一礼した後、ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツの本社を後にした。
外はすっかり暗くなり、ファーレ立川周辺は、温かな色合いの明かりに灯されている。
自宅までの道のりを、美花は緩やかな歩調で足を運ばせた。
それにしても、今日は本当に驚いた。
あのおにーさんが、最大手の楽器メーカーに勤めている人だなんて、思いもしなかったし、思いっきり身バレした事もあって、次に、おにーさんと顔を合わせる機会があったら、恥ずかしくなるのは目に見えている。
「…………葉山……圭さん……かぁ……」
美花がポツリと独りごちる。
しかもこの案件は、おにーさんこと葉山圭が担当しているし、母の店で黙々と食事をする時とは全然違い、穏やかで優しそうな笑みが、美花の心に焼き付いている。
(まぁ……仕事だから、あんな笑顔を見せたんだろうけどねぇ……)
美花は、手持ちのトートバッグを肩に掛け直すと、背筋をピンと伸ばして、自宅へ向かう。
徒歩十分ちょっとで、店舗兼自宅に着き、彼女は店の格子戸をガラガラと引き開けた。
「ただいまぁ…………お腹空いたぁ……」
「お帰り美花。…………珍しいお客さんが来てるよ?」
母の雪が、ニヤリと口元を歪ませながら、テーブル席に視線を向けると、美花も眼差しを追い掛けて絶句してしまった。
「う…………うそ……」