「ただいまー」
ドアを開けて入り、中から鍵をかける。靴を脱ごうかと思うが玄関も部屋もすごく暗くて何も見えない。
(まだ帰ってなかったのか、よかった)
司さんよりも早く帰れた事に安堵する。
電気をつけようとスイッチのある筈の方へ手を伸ばした時、暗闇の中から「遅かったな」と司さんの声が聞こえた。
「うわああっ!び、びっくりした…… 帰ってたの?」
居ないと思っていたのでかなり驚き、心臓がバクバクと騒いだ。
「少し前に」
「それなら電気つければいいのに。何も見えないんじゃない?」
「こっちはもう、目が慣れてるから」
「そう…… 」
(そんな長い時間、なんで暗いままでいるんだろう?遅かったから怒ってるのかな?でも、日付は変わる前に帰ったし、飲み屋でのアルバイトではこのくらいでも早く終わった方だと思うんだけどなぁ)
「危うく騙される所だったよ」
ため息混じりにそう言う声には、なんだかすごく怒っているような色を感じる。だけど一体何の話だろう?サッパリわからない。
「騙す?何の事?」
私が不思議に思っていると、暗闇の中からシュルッと何かを外す音が聞こえた。
「しらばっくれるな。ずっと大事にしてきたのに…… まさかバイト先があんな場所だとはなぁ」
『あんな場所』の一言でピンときた。
「え?やだな、見てたの?」
きっと私が怪しい店から出て来た所を偶然見てしまったのだろう。そう思った私は、「あれはね——」と、理由を説明しようとした。
「…… 黙れ」
今まで一度も聞いた事の無い司さんの低い声に、ビクッと身体が震える。結婚して初めて、夫が怖いと思った。命令に従うみたいに声が出ない。それでも誤解を解きたくて、どこから話そうかと迷っていたら、暗闇から伸びてきた手が持っていたネクタイを私の口元で二重にグルっと巻き、後頭部で縛って口元を塞がれてしまった。
(待って!これじゃ何も話せない!)
焦った私がそれを解く為に手を後ろに回そうとすると、司さんが片手で私の両手首を掴み、壁にドンッと乱暴に押し付けてきた。
「…… んっ!んんっ!」
「言い訳なんか聞きたくない」
そう言いながら、司さんが私の首に噛み付く。
「んんんっ」
「どれだけ我慢してたと思うんだ。なのにお前は、誰でもいいんだな。そんなに性欲の強い女だったとは、流石に思ってなかったよ」
普段あまり話さない司さんが、堰を切ったかのように話し出す。
「変なもん飲ませてきたり、やたらと抱きついたり…… そのくらいだったらまだ我慢出来たのに…… 」
着ているキャミソールをグッと下にずらされ、ブラが露わになる。
「——んん⁈」
「普段こんな服着てないのにな、誰を誘惑する気だったんだ?」
胸に噛み付くように口を付け、強く吸われた。
「んくっんっ」
少し痛いが、唇の温かな感触が気持ちいい。そのまま口が下へと移動し、指でブラを少しだけずらして胸の尖りを舐められる。初めて感じる彼の舌の動きに、己の全身が気持ちよさそうに震えてきた。
「感じるのか?淫乱め…… 知らない男としてきたばかりなくせにまだ足りないのか」
(え?ま、待って。本当に、何を言ってるの?)
店から出て来た程度で、何故そこまで怒っているのか全く見当がつかない。
「とぼけたような顔をするな。あそこはな、未成年者に売春を斡旋してる疑いがあって、警察が目をつけてる店なんだよ」
(嘘っ!じゃあさっきの子もそんなことしていたの?)
可愛くて、私なんかよりずっと大人っぽかったけど、まさか未成年だったなんて事だろうか?
「お前だったらたとえ年齢は大人でも未成年で通るだろうしな、騙すのだって簡単だったろ」
そう言ってきつく乳首を吸い、でもすぐに、詫びるようにペロッと舐められ、結局は司さんが何をしたいのか戸惑ってしまう。
「身長に似合わず大きな胸なのも、散々男にヤラせてきたからなのか?」
「んんんん⁈」
ガリッと尖に噛み付かれ、悲鳴をあげるも“声”にならない。
ポロッと涙が出てくる。悪い事なんて何もしていないのに、何故ここまで罵られないといけないのかと。
「泣いたって無駄だ、大事にする必要が無いとわかった以上、今まで我慢してきた分を全てぶつけてやるよ」
私を見下すような目で見詰め、司さんは耳に噛み付いてきた。
「んんくっ…… んん…… 」
息を吹きかけられ、ペロッと舐める舌にビクビクッと反応してしまう。
「こんな小さな体じゃ、俺が抱いたら壊れるだろうと心配していたのに…… 」
とんでもない状況だっていうのに、たった一言でキュンッと胸がときめく。抱いてくれなかった理由がわかった気がしたからだ。
ああ、私は本当に司さんに愛されてるんだなって嬉しくなった。
状況は最悪で、彼は怒っていて、口も塞がれてるけども。
「欲求は強い方なんだ。本能のままに抱いてしまいそうで、どれだけ我慢してたかお前にわかるか?」
頬を染め、嬉しさで涙目になりながらコクコクと必死に頷く。だって、私だって我慢していたんだ。正直、会ったその日にそのまま抱かれてもいいと思ったくらいに、私は司さんの虜なのだから。
「くっ…… 」
司さんが私の顔を見て、辛そうな表情で顔をそらす。私もやっと目が慣れてきたみたいで、彼の表情がなんとかわかった。
「俺が、どんなに愛してるのか、唯にはわからないだろうなぁ…… 」
私の肩におでこをのせて表情を隠し、腰を屈め、私のお尻を司さんギュッと鷲掴みしてきた。
「ずっと、ずっと好きだったんだ。でも、お前は俺の顔すら覚えようともしないし…… 」
(——え?いやいや、何のこと?)
私は初めて会った時から、司さんの虜だったというのに。
「それだけならまだいい。いや…… よくないけど、でも我慢は出来た。なのに、よりにもよって、他の奴なんかに…… どうして?」
怒りというよりは、ここまでくるともう悲しそうな声にしか聞こえない。手を自由にしてもらえるのなら頭を撫でてあげたいんだけど、掴んだ手首は全く放してくれる気配が無い。でも抵抗したら傷つけそうだし…… 。
頭を傾けて、司さんの頭に頬をよせる。スリスリと、いとおしむように頬を柔かい髪にこすりつけた。
「くっ…… やめろ、同情するな!」
逆効果だったのか、司さんは自分の背広のズボンからベルトを外し、私の腕を背中の方へまわしたかと思うと、後ろ手に縛ってしまった。身動きも出来ず、声も出ない…… 一体私はどうしたらいいというのか。
(どうにか誤解を解かないと。司さんの心が苦しそうで辛いのに)
「逃げるなよ?どうせ籍は既に入ってるんだ、唯は俺のものなんだから」
私の体を軽々と持ち上げ、玄関から居間へとつながる通路にドサッと、でも痛くない程度の高さから投げるように置かれた。履いていた靴を脱がせ、にじり寄りながら私の体を上に向かせる。そして胸を丹念に揉み、司さんが赤子の様に乳首に吸い付いてきた。
何度も吸われ、噛まれて少し痛いが、気持ちよさの方がどうしても上になり、とろんっとした気分になる。
「……っんん…… ン」
スカートも乱暴に捲られ、ショーツの中に指が入ってきた。二十五歳にもなり、人妻であるにも関らず男性経験は無い。正直興味はあったせいで知識だけはすごくいっぱいあるのだが、この幼い見た目のせいで、私と付き合おうだなんて思ってくれたのは司さんくらいなもんだった。——そ、それが、とうとう!
(きっと痛いに違いない。だって、どの本にもそう書いてあったもん)
どうしよう、すごくドキドキする。彼の態度を鑑みるとかなり不謹慎なのかもしれないが、私の胸中は期待と好奇心で一杯だった。
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