バルコニーへと出ると健吾が言った。
「ふぅー助かったよ」
「後ろにいた女性は誰? もしかして新たな女豹?」
「もう女豹はこりごりだ!」
健吾が本当に参ったという顔をして言ったので理紗子は声を出して笑った。
「それにしてもグッドタイミングだったよ。俺の危機に気づいて来てくれたの?」
「違うわ。英人さんがケンちゃんが呼んでいたよって教えに来たの」
(英人のやつめ)
「それよりねぇねぇ、あの橋はレインボーブリッジだよね?」
「そうだよ。で、その向こうがお台場。左が有明と晴海だな」
「凄いねー自宅からこんな景色が眺められるなんて贅沢ー」
理紗子は信じられないといった顔をしている。
それから二人はバルコニーの手すりにもたれながら夜景を楽しんだ。
時折海からの緩い風が理紗子の髪を優しく揺らし甘い香りが健吾の鼻をくすぐる。理沙子の全身から漂うローズの香りに健吾はすっかり心を奪われていた。
二人が立っていたのはL字型になったバルコニーのちょうど角だった。バルコニーの左手には健吾達と同じように夜景を楽しんでいるカップルが二組いた。
健吾はその時チラリと右のバルコニーを確認する。そこに人影はない。
健吾は突然理紗子の手を握ると右にあるバルコニーの一番端まで理紗子を連れて行った。
「ん? そっちからは何が見えるの?」
「こっちは羽田空港だから飛行機が見えるよ」
「わぁ、飛行機も見えるの? 夜景と飛行機のコラボなんて最高!」
理紗子は嬉しそうだ。
二人が立った場所は死角になっていた。バルコニーからも室内からも見えない場所だ。部屋の明かりも届かないので薄暗い。
健吾がここへ理紗子を連れて来たのは飛行機を見るためではない。抑えきれない自分の欲望を叶える為だった。
今すぐ理紗子にキスしたい。
理紗子の髪に鼻を埋めてその甘い香りを思い切り嗅ぎたい。
今の健吾の願いはただそれだけだった。
自分でコントロール出来ないほどの欲望を抱いたのは生まれて初めてだった。そしてその欲望を抑えつけるのは到底不可能だと思った。
(『偽装恋人』なんてクソくらえだ!)
健吾はそんな事を思いながら平静を装い理紗子に言う。
「ほら、あれが羽田空港だよ、見えるか?」
「うん、見える。この前行ったばかりよね
その時轟音と共に一機の飛行機が離陸した。
「あ、飛び立った。カッコイイ」
理紗子は興奮気味に叫ぶとじっと飛行機を目で追う。離陸した飛行機はやがてゆっくりと旋回し始めた。
夜の暗闇に飛行機の光跡が光っている。何ともいえずロマンティックな光景だ。
飛行機を目で追っていた理紗子は健吾の方を向いて空を見上げる。その時二人の視線が絡み合った。
健吾が思いつめたような表情をしていたので不思議に思った理紗子が聞いた。
「どうしたの?」
その瞬間理紗子の唇は健吾に塞がれた。
それは触れるような優しいキスだった。甘くソフトにくすぐるように理紗子の唇を弄ぶ。
健吾の繊細なテクニックで理紗子の身体はどろけてしまいそうになる。
理紗子が何かを訴えようとするが唇を塞がれていて上手く伝わらない。
理紗子が戸惑っていると今度は健吾の両腕が理紗子をギュッと抱き締めた。それと同時にキスが激しさを増す。
少しワインを飲み過ぎていた理紗子は頭がぼーっとしたまま健吾のキスに酔いしれていた。
しかしふと頭の片隅でこう思う。
(このキスにはどんな意味があるの?)
その時再び轟音が聞こえ飛行機が一機飛び立った。理紗子はうっすらと目を開けてその軌跡を追う。
その時漸く健吾が唇を離した。二人の息は少し乱れていた。
「誰かに見られちゃうよ」
「見られたっていいだろう?」
「あれ? もしかして見られるためにわざとやった?」
「んな訳あるかっ! 前にも言ったけど俺はそういう感情では絶対にしない」
「じゃあどんな感情?」
「____したかったんだよ」
「何をしたかったの?」
「____理紗子俺をからかってる?」
「ううん、そんな事ないよ」
理紗子はニヤニヤしていた。
「フッ、余裕をかましていられるのも今のうちだけだぞ」
「え? 意味わかんない」
「そういうふざけた事を言う奴にはおしおきをしないとな」
健吾はそう言うと再び理紗子を抱き締めた。今度はさっきよりも力を込めている。
理紗子が抵抗する間もなく健吾は本気のキスを始めた。それは先ほどのキスとは全く違っていた。
理紗子の唇を貪るように動く健吾の唇からは何か強い意志のようなものが感じられる。
理紗子が油断して少し口を開いた瞬間すかさず健吾の舌が中に入ってきた。そして理紗子の口内をくまなく動き回る。
健吾の舌の動きはかなり官能的だった。理紗子は今までこんなキスをされた事がない。
(キスだけでこんなに感じるなんて___)
その時理紗子の膝はガクガクと揺れ身体の芯の部分がキュンと疼くのを感じていた。
コメント
4件
健吾さん、想いをちゃんと理紗子ちゃんに伝えないとね〜🤭 偽装ではなく本気なんだとはっきり言って欲しいな😆
想いが溢れて止まらない健吾さん....✨ そうだ、そうだ~‼️❤️偽装なんてさっさと解除しちゃえ~ !!!
健吾の気持ち、『偽装恋人なんてクソくらえだーっ』はわからなくはないけど、ちゃんとそれは言葉にして理沙ちゃに言わないと、理沙ちゃんも『偽装恋人なのに、なんで〜⁉️』って拗れちゃうよ😅‼️💦 お互い振り回されっぱなしでこりゃ大変だわ😅