「俺は……時間が許すまで…………奈美と一緒にいたいんだけどな……」
豪がまっすぐに視線を向けたまま、彼女の返事を求めているようだった。
「私もまだ豪さんと…………一緒にいたい……です……」
奈美の言葉に、彼は嬉しそうに目を細め、腰に回していた手を解き、彼女の手を取る。
「なら、ドライブに行こうか。一度、西国分寺駅まで行って、車を取って来るけどいいか?」
「はい」
二人は、中央線の上りホームへと向かって歩いていく。
階段へ差し掛かる手前で、豪が急に立ち止まり、後ろを振り返った。
数秒ほど、下り方面のホームに通ずる階段の方を凝視した後、彼は再び前を向き、歩みを進める。
「どうかしたんですか?」
「いや…………何でもない。行こう」
一瞬、豪は顔を顰めさせた後、ホームへ向かうために階段を下りた。
到着した電車のいちばん後ろの車両に乗り、ドア付近に二人で立つ。
奈美と豪は、会話もせず手を繋ぎ、時折車両が大きく揺れると、彼女の身体を抱き留めてくれた。
彼を見上げると、大丈夫か? と気遣って髪に触れ、奈美がコクリと頷くと、人目を避けながら、艶髪に唇を落とす。
西国分寺駅まで十分足らずだったけど、奈美にとって胸の奥がキュンとした時間だった。
***
「奈美、悪いけど、ここで待っててくれるか? すぐに車取ってくる」
西国分寺駅に到着し、彼は車を取りに行った。
奈美は駅周辺を見回すと、マンションがたくさん建ち並び、夕日に照らされて茜色に染められている。
(すぐに車を取ってくるって言ってたけど、豪さんの自宅、駅の近くなのかな?)
彼女はロータリーの近くにあったベンチに腰掛け、彼が来るのを待つ。
スマホを触りながら十五分ほど待っていると、クラクションが鳴り、豪の車がロータリーに滑り込んできた。
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