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第7話 キリマンジャロクライム
登場人物
遠野カケル
十八歳のピークランナー。
短く切った茶色の髪は少し跳ねており、黄緑の競技ジャケットと灰色の競技パンツを着用している。
細身ながら脚は引き締まり、腰には補給水と緊急発信器を装着。
海外公式戦仕様の翻訳イヤホンを耳に着けている。
胸のゼッケンは二十一番。
桐谷ソウマ
二十歳のピークランナー。
短い灰色の髪を立たせ、黄色の競技ジャケットを着ている。
カケルより少し背が高く、肩から脚までしっかり鍛えられている。
胸のゼッケンは十八番。
久瀬リョウ
二十六歳の人気ピークランナー。
灰色の短髪に鋭い目つき。
紫の競技ウェアと薄手の登山グローブを身につけている。
海外大会への出場経験もあり、落ち着いた表情で周囲を見ている。
胸のゼッケンは七番。
牧原セナ
二十二歳のピークランナー。
茶色の髪を短いポニーテールにまとめ、緑とベージュを組み合わせた競技ウェアを着ている。
小柄で身軽な体格。
胸のゼッケンは二十八番。
志戸ユウ
二十四歳のピークランナー。
短い茶色の髪と細い目が特徴。
灰色と緑を組み合わせた競技ウェアを着用している。
やや小柄で、モビリティの細かな操作を得意としている。
胸のゼッケンは十六番。
ジャバリ・ムテサ
二十七歳のピークランナー。
短く刈り込んだ髪に、引き締まった長身。
緑と黄色を組み合わせた競技ウェアを着用している。
走るときの上下動が少なく、高所でも一定の歩幅を保つ。
キリマンジャロクライムで二度の優勝経験を持つ。
胸のゼッケンは一番。
エリアス・フォーゲル
二十五歳のピークランナー。
明るい茶色の短髪と長い手足が特徴。
灰色と黄緑を組み合わせた競技ウェアを着ている。
大型モビリティの操作を得意とし、欧州の登峰競走で複数回優勝している。
胸のゼッケンは三番。
アマニ・ナンディ
二十三歳のピークランナー。
細かな編み込みを後ろでまとめ、紫と緑を組み合わせた競技ウェアを着ている。
小柄ながら脚力が強く、荒れた路面での身軽な走りを得意とする。
胸のゼッケンは五番。
峰岸タクト
三十四歳の実況担当。
柔らかく整えた茶色の髪に緑の中継ジャケットを着ている。
細いフレームの眼鏡をかけ、日本向け中継席から現地映像と順位表示を確認している。
春木ミナ
三十二歳の解説担当で、元ピークランナー。
肩まで伸びた灰色がかった髪を後ろで束ね、ベージュのジャケットを着ている。
現地のコース資料を手元に置き、各区間の標高表示を何度も確認している。
◆
タンザニア。
午前六時。
カケルは宿泊施設の外へ出た瞬間、足を止めた。
#一次創作
いちごみるくもち
29
ふぃる汰
1,500
34
#一次創作
りんご
269
「暑い」
隣からソウマが出てくる。
「昨日も言ってた」
「昨日より暑くない?」
「たぶん同じ」
カケルは山を見る。
遠い。
大きい。
そして、その上の方だけ雰囲気が違って見えた。
ここから山頂へ向かう。
日本から何時間も移動してきて。
今日。
ようやく走る。
セナが後ろから出てくる。
「二人とも早いね」
「寝られなかった」
カケルが答える。
「時差?」
「それもある」
「緊張?」
「それもある」
ソウマが横を見る。
「俺は普通に寝た」
「なんで?」
「横になったから」
「それで寝られたら苦労しない」
三人が歩き出す。
街はすでに動き始めていた。
大会の旗。
モビリティスポンサーの看板。
飲食店の前には各国の観客。
聞こえてくる言葉も違う。
カケルの耳に着けた翻訳イヤホンが短く鳴った。
前を歩いていた二人の会話が、少し遅れて日本語へ変わる。
今日、一番はジャバリだ。
いや、アマニも強い。
カケルが振り返る。
「今の聞いた?」
ソウマも耳を触る。
「聞いた」
「便利」
「レース中に変な翻訳されたら困るな」
「右って言ってるのに左とか?」
「やめろ」
競技会場へ近づく。
音が大きくなる。
日本とは違う音楽。
手拍子。
声。
何人もの観客が身体を揺らしながら選手を迎えている。
カケルが周囲を見る。
「富士と全然違う」
久瀬が前から歩いてきた。
「大会ごとに違うよ」
「久瀬さん、来たことあるんですか?」
「二回」
「勝ちました?」
「最高五位」
ソウマが反応する。
「久瀬さんでも?」
「だから面白い」
久瀬が山を見る。
「日本で強いからって、ここでも同じとは限らない」
カケルも山を見る。
風。
気温。
標高。
路面。
知らないことばかりだった。
午前七時。
出走エリア。
カケルはモビリティ展示区画を歩いていた。
「これ何?」
見たことのない機体がある。
細い車体。
大きなタイヤ。
後部には小さな荷台のような部分。
ソウマも覗く。
「知らない」
「日本で見ないよね」
現地スタッフが何かを言う。
翻訳イヤホンが少し遅れて声を流した。
高所用軽量登坂機です。低温時の出力低下を抑えています。
カケルが頷く。
「なるほど」
スタッフが続ける。
ただし、砂地では急加速しないでください。
「それ阿蘇と似てる」
志戸が横から言う。
カケルが振り返る。
「乗る?」
「たぶん」
「たぶん?」
「まだ道を見てない」
カケルが笑う。
「志戸らしい」
少し離れた場所。
一番の選手を何十人もの観客が囲んでいる。
ジャバリ・ムテサ。
長身。
緑と黄色の競技ウェア。
表情は穏やかだった。
ソウマが見る。
「二回優勝」
カケルも見る。
「強そう」
「見ただけで?」
「なんとなく」
ジャバリがこちらへ顔を向けた。
目が合う。
カケルは思わず姿勢を正す。
ジャバリが近づいてきた。
何かを話す。
翻訳。
日本から来た選手?
「はい」
カケルが答える。
翻訳機が別の言語へ変換する。
富士で二着だった遠野?
カケルが目を丸くする。
「知ってるんですか?」
写真判定の選手。
ソウマが横で吹き出した。
「海外まで行ってる」
「そこじゃなくて!」
ジャバリが笑う。
六戦連続。珍しい。
「好きでやってるわけじゃないです」
今日も写真判定?
「今日は離して勝ちます」
ジャバリが頷いた。
では私から離れてみて。
カケルの表情が変わる。
ソウマが横で笑う。
「言われた」
「分かってる」
ジャバリはそのまま一番のスタート位置へ歩いていった。
大型画面が点灯する。
現地実況と各国向け実況が同時に始まる。
日本向け中継席。
峰岸の声が響いた。
さあ!
登峰競走ワールドシリーズ!
日本勢にとって今季最初の本格海外遠征!
キリマンジャロクライムです!
観客席から大歓声。
本日の出走は世界十八地域から六十四名!
各地のクライムを勝ち抜いてきた強豪が集まりました!
オッズ表示。
一番 ジャバリ・ムテサ 3.2倍。
五番 アマニ・ナンディ 4.6倍。
三番 エリアス・フォーゲル 5.1倍。
七番 久瀬リョウ 8.4倍。
十六番 志戸ユウ 11.8倍。
十八番 桐谷ソウマ 13.6倍。
二十一番 遠野カケル 15.2倍。
二十八番 牧原セナ 21.7倍。
カケルが数字を見る。
「十五倍」
ソウマが笑う。
「久しぶりに高い」
「日本じゃ七倍だったのに」
世界へ出れば評価は変わります!
富士クライム二着の遠野カケルも、ここでは七番人気!
世界はまだ、この新人を大本命とは見ていません!
カケルが大型画面を見上げる。
「いいよ」
ソウマが横を見る。
「何が?」
「高尾みたいで」
スタート位置へ。
六十四人。
今までで一番多い。
周囲から聞こえる言葉も違う。
翻訳音声が断片的に流れる。
序盤で出る。
一番を見る。
水分を忘れるな。
風が強い。
モビリティは三番手を狙う。
カケルが前を見る。
実況が続く。
キリマンジャロクライムは非常に長い標高差を持つ大会!
競技では自然環境保護と安全確保のため、通常の登山経路とは異なる専用区間も使用されます!
序盤は比較的暖かい!
しかし高度が上がれば気温は大きく低下!
路面も植生も変わります!
同じ装備!
同じ機体!
同じ走り方!
それを最後まで続けることはできません!
カケルが深く息を吸う。
スタート装置。
五。
四。
三。
二。
一。
号砲。
キリマンジャロクライム、スタート!
六十四人が一斉に走り出す。
カケルも前へ。
だが。
「速っ!」
富士より多い。
前が埋まっている。
左右にも選手。
二十位。
十八位。
十五位。
第一ステーション!
序盤は広い土路!
高速悪路型が人気です!
選手が一斉に散る。
カケルは太いタイヤの二輪型。
ソウマも。
久瀬は四輪。
ジャバリは。
乗らない。
「またこのタイプ?」
カケルが思わず言う。
富士の成瀬を思い出す。
一番、ジャバリ!
モビリティを見送りました!
地元大会を熟知する王者!
序盤は自分の脚です!
カケルは発進。
一気に加速。
順位を上げる。
十二位。
十位。
八位。
ソウマが横。
「先行くぞ!」
「俺も!」
二人がジャバリを抜く。
カケルが振り返る。
ジャバリは焦らない。
一定。
走っている。
第二ステーション。
カケルはそのまま。
路面はまだ安定。
ソウマも。
前方にエリアス。
大型四輪を巧みに操っている。
三番、エリアス!
欧州屈指のモビリティ操作!
大型機とは思えない細かなライン取り!
カケルが追う。
右へ。
エリアスも右。
左。
エリアスも。
抜けない。
機体の幅を使いながら、最短ラインを取っている。
妨害ではない。
ただ速い。
カケルが少し外へ。
長いライン。
加速。
並ぶ。
エリアスが横を見る。
何かを言う。
翻訳。
いい判断。
「どうも!」
でも、その機体では次が遅い。
「え?」
前方。
地面が柔らかくなる。
カケルの二輪が沈む。
速度低下。
エリアスの四輪は安定。
前へ。
「そういうことか!」
ソウマも後ろで沈んでいる。
「聞いてない!」
「俺は今聞いた!」
エリアスが先へ。
カケルはアクセルを抑える。
阿蘇。
車輪を空転させない。
ゆっくり。
速度を保つ。
第三ステーション。
乗り捨て。
軽量四輪へ。
発進。
柔らかい地面を抜ける。
順位。
七位。
世界の強豪を相手に二十一番、遠野!
上位へ入っています!
しかし!
まだ序盤です!
カケルが前を見る。
遠い。
ゴールは見えない。
山頂すら、ここからでは現実味がない。
競技開始から一時間。
気温が下がり始めた。
カケルは機体を捨てて走っていた。
息。
まだ大丈夫。
脚。
少し重い。
周囲の景色が変わっている。
スタート地点とは違う。
観客も減った。
風の音が目立つ。
第四ステーション。
高所用登坂機。
カケルが乗る。
ソウマも追いつく。
「寒くない?」
「寒い」
「下、暑かったよな」
「同じ山なのに」
実況が響く。
ここから環境が大きく変わります!
スタート地点との気温差!
風!
そして高度!
ピークランナーの身体にも、モビリティにも負担がかかります!
カケルがアクセルを入れる。
機体が登る。
前方。
アマニ。
徒歩。
速い。
小柄な身体で斜面を進んでいる。
カケルが機体で追いつく。
横へ。
アマニが見る。
翻訳音声。
日本の新人。
「また知られてる」
写真の人。
「やっぱりそれ!」
アマニが笑う。
機体、あと五分で捨てた方がいい。
「なんで?」
風が来る。
カケルが聞き返す。
だがアマニは先へ。
「五分?」
ソウマが後ろから来る。
「何?」
「この機体、あと五分で捨てろって」
「故障?」
「分からない」
二人は乗り続ける。
三分。
四分。
風が強くなる。
機体が揺れる。
五分。
地面が大きな石の多い区間へ変わった。
カケルの機体が跳ねる。
「これか!」
飛び降りる。
ソウマも。
徒歩。
アマニはすでに前。
五番、アマニ!
完全に地形変化を読んでいました!
地元勢はこの山を知っています!
カケルが走る。
ソウマが横。
「文化の違いより山の違いの方が大変」
「まだ昼飯も食べてない」
「レース中だよ」
「終わったら食べる」
「何を?」
「知らない」
二人が笑う。
呼吸が少し楽になる。
その横。
ジャバリ。
いつの間にか来ていた。
「え?」
一番、ジャバリ!
ついに上がってきた!
序盤は二十位台!
しかし現在六位!
ほとんど速度を変えていません!
ジャバリがカケルの横へ。
翻訳。
まだ離せてない。
「今からです!」
カケルが加速。
ジャバリも。
速い。
徒歩なのに。
カケルが追う。
ソウマは少し遅れる。
順位表示。
一番 アマニ。
二番 エリアス。
三番 ジャバリ。
四番 カケル。
五番 久瀬。
六番 志戸。
七番 ソウマ。
セナも十位。
日本勢も残っています!
世界の強豪と真っ向勝負!
第五ステーション。
モビリティが並ぶ。
カケルは高速登坂型へ。
ジャバリ。
乗らない。
アマニ。
乗らない。
エリアス。
大型。
久瀬。
軽量型。
選択が分かれます!
カケルが発進。
一気に前へ。
アマニを抜く。
ジャバリを抜く。
エリアスへ。
並ぶ。
先頭!
二十一番、遠野!
キリマンジャロで先頭!
日本向け中継席から大きな声。
カケルは聞こえている。
でも返事をする余裕はない。
アクセル。
登る。
前へ。
風が強い。
気温が低い。
機体の残量表示。
七十二。
六十八。
減りが早い。
「こんなに?」
高所ではモビリティの消費も重要!
低温対策機とはいえ、長い登坂では残量が減ります!
カケルが速度を少し落とす。
後ろ。
エリアス。
近づく。
大型機。
残量は多い。
抜かれる。
二位。
焦らない。
八ヶ岳。
性能だけでは勝てない。
富士。
残さなければ最後に使えない。
カケルは一定速度へ。
残量を守る。
エリアスが前へ。
遠くなる。
それでも追わない。
競技開始から二時間。
カケルの呼吸が変わった。
「はっ……はっ……」
脚ではない。
胸。
息を吸っても、いつもより足りない。
速度を落とす。
久瀬が追いつく。
「無理に上げるな」
「息が……」
「全員同じだ」
久瀬も呼吸が深い。
実況が響く。
ここから高所の影響が大きくなります!
選手には事前の順応期間が設けられていますが、それでも平地と同じようには動けません!
体調に異常が出れば競技スタッフが即座に停止判断を行います!
速さより安全!
ここでは無理をした瞬間にレースそのものが終わります!
カケルが速度を落とす。
悔しい。
前へ行きたい。
でも。
呼吸。
一度。
二度。
整える。
ジャバリが横へ来る。
まだ一定。
カケルを見る。
翻訳。
山頂は逃げない。
「でも、あなたは逃げる」
ジャバリが笑う。
なら追える速度で来い。
先へ。
カケルは追わない。
呼吸を整える。
久瀬も隣。
「それでいい」
数分。
少し戻る。
走る。
順位は七位へ落ちた。
それでも。
レースは終わっていない。
残り五キロ。
景色はさらに変わった。
寒い。
風。
荒れた地面。
モビリティステーション。
カケルが見る。
乗らない。
七番久瀬も。
ジャバリ。
アマニ。
徒歩。
エリアスだけ大型悪路型。
三番、エリアス!
ここでモビリティ!
大型機の安定性を取った!
カケルは走る。
一歩。
一歩。
息を乱さない。
速くではなく。
止まらない。
志戸が横へ。
「やっと追いついた」
「いつの間に?」
「ずっと後ろ」
「調子は?」
「普通」
「それ一番怖い」
志戸が笑う。
二人で進む。
前。
久瀬。
さらにジャバリ。
アマニ。
エリアス。
差が縮む。
エリアスの大型機が遅くなっている。
急坂。
モーターが唸る。
歩くような速度。
エリアスが降りた。
乗り捨て。
ついに全員徒歩!
残り四キロ!
ここからはピークランナー自身の勝負です!
カケルがエリアスへ並ぶ。
「機体、終わり?」
翻訳。
機体は元気。
私が遅い。
エリアスが笑う。
「俺も」
二人が走る。
国も違う。
言葉も違う。
それでも。
苦しい顔は同じだった。
残り三キロ。
先頭。
ジャバリ。
アマニ。
久瀬。
カケル。
志戸。
エリアス。
六人。
ソウマも少し後ろ。
セナも。
世界の強豪が固まったまま終盤へ!
カケルの脚が重い。
でも富士より残っている。
序盤で使いすぎなかった。
呼吸を崩したとき、止めた。
ジャバリの背中。
近い。
「行く」
カケルが速度を上げる。
久瀬が見る。
志戸も。
アマニが反応。
四人がジャバリへ。
ジャバリも速度を上げた。
初めて。
一定だった王者が。
速くなった。
一番、ジャバリ!
ここで加速!
今まで温存していた!
カケルの目が見開く。
「まだあったの?」
ジャバリが振り返る。
翻訳。
ここからがレース。
「遅いよ!」
カケルも追う。
残り二キロ。
アマニが横へ。
小さな歩幅。
速い。
久瀬。
志戸。
エリアス。
さらにソウマ。
「待て!」
ソウマが戻ってきた。
カケルが笑う。
「遅い!」
「高所嫌い!」
「俺も!」
「でも走る!」
「俺も!」
七人。
残り一・五キロ。
最後のモビリティステーション。
高所用軽量機。
カケルが見る。
ジャバリは通過。
アマニも。
久瀬も。
志戸も。
エリアスは乗る。
ソウマも。
カケル。
迷う。
残り一・五。
機体なら途中まで速い。
でも最後の急登。
富士。
降りた直後。
脚が動かなかった。
カケルは通過した。
二十一番、遠野!
乗りません!
自分の脚を選択!
エリアスとソウマが機体で前へ。
一度は先頭。
ジャバリを抜く。
カケルも抜かれる。
五位。
だが。
急登。
速度低下。
エリアスが降りる。
ソウマも。
カケルが追いつく。
「やっぱり!」
ソウマが叫ぶ。
「富士でやった!」
「覚えてたなら教えて!」
「レースだから!」
久瀬が後ろで笑う。
残り一キロ!
先頭、一番ジャバリ!
五番アマニ!
二十一番遠野!
七番久瀬!
十六番志戸!
三番エリアス!
十八番桐谷!
世界大会とは思えないほど差がありません!
カケルがジャバリへ。
十メートル。
八。
六。
アマニが先に並ぶ。
二人。
カケルも。
三人。
残り七百。
風が強い。
身体が横へ押される。
カケルが姿勢を低くする。
ジャバリは乱れない。
アマニも。
カケルが一歩遅れる。
また追う。
残り五百!
久瀬も来る!
志戸も!
五人!
カケルの胸が苦しい。
呼吸。
一度。
焦らない。
吸う。
吐く。
脚を出す。
残り三百。
観客の声。
世界中の旗。
各国の実況。
いくつもの言葉が混ざる。
翻訳イヤホンでは処理しきれない。
もう言葉ではなかった。
歓声だけで十分だった。
残り二百!
ジャバリ!
アマニ!
遠野!
三人が前!
カケルがアマニへ並ぶ。
ジャバリとの差。
二メートル。
一。
並ぶ。
ジャバリが横を見る。
カケルも。
「離します!」
翻訳が遅れて流れる。
ジャバリが笑った。
残り百!
三人!
久瀬も五メートル後方!
カケルが前へ。
初めてジャバリより半歩前。
五十!
二十一番、遠野!
世界の舞台で先頭!
アマニが追う。
ジャバリが並ぶ。
三十!
ジャバリが前。
カケル。
アマニ。
二十!
カケルが並ぶ。
十!
ジャバリ。
カケル。
五!
二人が身体を前へ投げた。
ゴール装置。
花火。
大歓声。
カケルは止まれず、数歩進んだ。
膝をつく。
両手を地面へ。
息が入らない。
ゆっくり吸う。
吐く。
隣。
ジャバリも膝へ手を置いている。
アマニがゴール。
久瀬。
志戸。
エリアス。
ソウマ。
次々と入る。
日本向け実況席。
写真判定!
やはり写真判定!
遠野カケル!
七戦連続!
海外へ来ても写真判定です!
カケルが顔を上げる。
「もう世界記録じゃない?」
久瀬が息を切らしながら笑う。
「そんな記録いらないだろ」
「いらないです」
ジャバリが翻訳を聞いて笑っている。
大型画面。
ゴール映像。
一番。
二十一番。
拡大。
カケルは座ったまま見る。
ソウマも後ろから覗く。
「何センチ?」
「まだ出てない」
「予想二センチ」
「やめて」
判定。
一着。
一番。
ジャバリ・ムテサ。
二着。
二十一番。
遠野カケル。
差。
五センチ。
判定!
一着、一番!
ジャバリ・ムテサ!
キリマンジャロクライム三度目の優勝!
二着、二十一番!
日本の遠野カケル!
わずか五センチ!
カケルが地面へ倒れた。
「また負けた!」
ソウマが横へ来る。
「五センチ」
「言わなくていい」
「海外でもセンチ」
「分かってる」
ジャバリがカケルへ手を出した。
カケルが握る。
立つ。
翻訳。
離せなかったね。
「次は離します」
世界は広い。
カケルが顔を上げる。
「はい」
ジャバリが続ける。
でも五センチまで来た。
「次は六センチ前に行きます」
それでは一センチしか勝てない。
カケルが笑った。
「じゃあ一メートル」
少し離れたソウマが反応する。
「それ俺の!」
翻訳イヤホンがソウマの声まで変換し、ジャバリがまた笑った。
確定順位です!
一着、一番、ジャバリ・ムテサ!
二着、二十一番、遠野カケル!
三着、五番、アマニ・ナンディ!
四着、七番、久瀬リョウ!
五着、十六番、志戸ユウ!
六着、三番、エリアス・フォーゲル!
七着、十八番、桐谷ソウマ!
八着、二十八番、牧原セナ!
大型画面が切り替わる。
そして日本向け払戻金です!
単勝 1番 320円
複勝 1番 150円
複勝 21番 410円
複勝 5番 190円
二人順位・順不同 1-21 2,860円
二人順位・着順指定 1→21 5,740円
三人順位・順不同 1-5-21 6,920円
三人順位・着順指定 1→21→5 28,460円
三人順位の着順指定!
一番、二十一番、五番!
百円分の投票に対し、払戻金は二万八千四百六十円!
日本向け中継から大きな歓声。
現地でも別の払戻表示が出ている。
カケルは数字を見比べる。
「違う?」
久瀬が頷く。
「投票制度は地域ごとに少し違う」
「そこも違うんだ」
「海外遠征だからな」
大型画面にはレース映像。
暖かなスタート地点。
土路。
柔らかな地面。
森林。
高所。
冷たい風。
荒れた路面。
モビリティ。
徒歩。
そして最後。
七戦目にして初の海外遠征!
二十一番、遠野カケル!
惜しくも二着!
しかし日本で覚えたものを、そのまま持ち込むだけでは戦えませんでした!
気温が違う!
高度が違う!
路面が違う!
モビリティが違う!
そして何より!
この山を知り尽くした選手たちがいる!
カケルがジャバリを見る。
アマニ。
エリアス。
日本では会わなかった選手。
知らなかった走り方。
知らなかった判断。
世界にはまだいる。
もっと。
たくさん。
登峰競走は一つでも!
山が変われば競技の姿も変わります!
その土地を知り!
その土地の走りを知り!
自分のやり方へ取り込めるか!
それも海外クライムの戦いです!
表彰エリア。
中央にジャバリ。
二位にカケル。
三位にアマニ。
観客から大きな拍手。
カケルは周囲を見る。
知らない言葉で自分の名前を呼ぶ人がいる。
翻訳されなくても分かる。
トオノ。
カケル。
二十一。
手を振る。
歓声が返る。
ジャバリが横を見る。
初めてのキリマンジャロは?
カケルは少し考える。
「苦しい」
翻訳。
ジャバリが笑う。
カケルは続ける。
「でも面白い」
アマニも笑った。
それならまた来る。
「来ます」
次は写真じゃなくて?
「それは俺にも分かりません」
三人が笑う。
花火が上がった。
キリマンジャロクライム!
世界十八地域!
六十四名の頂点は、一番ジャバリ・ムテサ!
そして世界へ踏み出した日本の新人、遠野カケル!
初遠征で二着!
世界は広い!
山も違う!
走り方も違う!
しかし目指す場所だけは同じ!
山頂です!
表彰が終わる。
カケルは競技会場の外へ歩く。
ソウマ。
久瀬。
志戸。
セナ。
全員疲れている。
それでも誰も宿泊施設へ直行しなかった。
通りの飲食店から匂いが流れてくる。
セナが足を止める。
「食べよう」
ソウマが即答する。
「賛成」
カケルが店を見る。
「何料理?」
「分からない」
「さっき食べるって言ってたのこれ?」
「知らないから食べる」
五人で店へ近づく。
現地の人が声をかける。
翻訳イヤホン。
大会お疲れさま。
カケルが笑う。
「ありがとうございます」
別の人が手を上げる。
二十一番!
惜しかった!
次は勝て!
カケルも手を上げる。
「次は勝ちます!」
ソウマが横を見る。
「どこでも言ってるな」
「勝ちたいから」
「俺もいるけど」
「世界にもたくさんいる」
カケルが振り返る。
遠く。
キリマンジャロ。
さっきまでいた場所。
日本では知らなかった山。
知らなかった選手。
知らなかった機体。
知らなかった歓声。
全部がそこにあった。
富士で全国を見た。
今日は、その先を見た。
日本で勝てば終わりではない。
国内最大級で二着でも終わらない。
山は世界中にある。
クライムも。
ピークランナーも。
モビリティスポンサーも。
観客も。
カケルは店へ入る直前、もう一度だけ山を見た。
「次はどこ?」
ソウマが聞く。
カケルは笑った。
「どこでもいい」
「雑」
「だって」
風が競技会場の旗を揺らす。
カケルは山頂を見上げた。
「まだ知らない山の方が多いから」
五人は店の中へ入った。
その背後では、世界シリーズ次戦の開催地を告げる大型表示が点灯していた。
コメント
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読んだよ…第7話「キリマンジャロクライム」🌙 もうね、最初から最後まで息継ぐの忘れるくらい没入してた。タンザニアの空気、現地の音、選手たちの呼吸、翻訳イヤホンのワンテンポ遅れた会話…一つひとつがリアルで、自分もその場に立ってる気分になった。 特に好きだったのは、カケルが「苦しい」って言った後に「でも面白い」って続けたところ。あの一言だけで、彼が本当にこの競技を愛してるんだって伝わってきた。五センチ差の二着、悔しいけど、彼の瞳はちゃんと次の山を見てた。 そしてソウマとの「俺も!」の掛け合い、もうずっと好き…🤍 世界は広いね。でもカケルなら、もっともっと遠くへ行けると思う。次の山がどこでも、ちゃんと追いかけるよ。