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放課後の相談室。窓際の席に、ひとりの男子生徒が座っていた。

手の中でペンを回しながら、何度もため息をついている。


「俺さ……気づいたら“ごめん”って言ってるんです」


かすれた声だった。


「遅れても、ごめん。ぶつかっても、ごめん。話しかけても、なんか、ごめんって。

誰かがちょっと眉をひそめただけで、反射的に謝っちゃう。

……たぶん、怒られるのが怖いんだと思います」


遥は向かいの席に腰を下ろし、静かにペットボトルの水を開けた。


「それ、わかる気がする」


言葉は軽いのに、声の奥には深い温度があった。


「謝るってさ、悪いことじゃないけど──

謝ることで、自分の居場所を守ろうとしてるときって、あるよね」


少年は少し驚いたように顔を上げた。


「……居場所、ですか?」


「うん。

“ごめん”って言えば、相手は怒らない。

その場が壊れない。

だから、“ごめん”って言葉で、自分の存在を小さくして、

空気を保とうとしてる。

でもそれを続けてると、だんだん“オレなんかが話すのも悪い”って思うようになるんだ」


少年の肩が、少しだけ震えた。


「……そうです。

何も悪くないのに、謝ってないと落ち着かない。

“ごめん”って言えば、嫌われない気がして。

でも最近、自分がどんどん小さくなってる気がするんです」


遥は視線を窓の外に向けた。

遠くで、グラウンドのボールが跳ねる音が響いていた。


「……オレも昔、“ごめん”ばかり言ってたよ」


「え」


「言わないと、叩かれるから。

黙ってても怒られるなら、先に謝ったほうがマシだと思ってた。

“悪いのは自分だ”って思えば、少なくとも世界を責めなくて済む。

そうやって、生き残ってきた感じ」


言葉が、静かに落ちる。

少年は何かを言いかけたが、唇を閉じた。


遥は少しだけ笑った。


「でもな、ある時気づいたんだ。

“ごめん”って言葉は、相手を守るためのものでもあるけど、

自分を縛るための言葉にもなる。

“悪くない自分”まで殺すのは、謝罪じゃなくて、自己否定なんだって」


少年は黙ったまま、机の端を見つめていた。


「……じゃあ、どうすればいいんですか」


「うーん」


遥は少し考え、ゆっくりと言葉を選んだ。


「“ありがとう”を、代わりに使ってみるといいかもな。

“ごめん、待たせた”じゃなくて、“待っててくれてありがとう”。

“ごめん、話しすぎた”じゃなくて、“聞いてくれてありがとう”。

謝ることで保ってた関係を、感謝で繋ぎ直す感じ」


少年の表情が、ほんの少し緩んだ。


「……それ、難しいけど、やってみたいです」


「うん。最初はぎこちなくてもいい。

“ごめん”の代わりに“ありがとう”を口にするだけで、

少しずつ、自分の存在を“消す”んじゃなく、“認める”方向に変わっていくから」


静かに風が吹き抜ける。

夕陽が差し込み、机の影が長く伸びた。


「……遥さんは、“ごめん”って、もう言わないんですか?」


少年の問いに、遥は少しだけ笑って答えた。


「言うよ。たぶん、人よりずっと多い。

でも、心の中で同時に思う。“それでもオレはここにいる”って」


少年は小さくうなずいた。

その手の中のペンが、わずかに光を返した。

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