テラーノベル
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(夜、宿の裏手の砂浜。三人でコンビニ袋を提げて戻ってくる)
蓮司「買ってきたぜー! 手持ち花火セット! あとジュースとポテチも!」
日下部「食いもんは室内でやれよ。砂だらけになる」
遥「……線香花火、あるのか」
蓮司「お、気になる? 遥、線香花火とか似合うわ〜。めっちゃ黙って落ちる火の玉見てそう」
遥「……バカにしてるだろ」
日下部「いや、当たってる気がする」
遥「……」
(火をつけて、夜の波音とパチパチ光る火花)
蓮司「おー! やっぱ夏はこれだな! ほら遥、もっと前に出ろよ」
遥「……火が飛んだら嫌だ」
日下部「お前、怖いのか?」
遥「……違う」
蓮司「怖くないけど“嫌”なのか。お前ほんとズレてるなあ」
(線香花火の玉がぽとりと落ちる)
日下部「……終わる瞬間、きれいだな」
遥「……終わるって、きれいか?」
蓮司「お、哲学入ったぞ。まあでも、燃え尽きるから映えるってのはあるよな。俺らもそうかも?」
日下部「おい縁起でもねぇ」
蓮司「ははっ、冗談だって」
(少し間)
遥「……でも、きれいだと思った」
日下部「ん?」
遥「火が落ちるとき……少しだけ」
蓮司「ほらな、やっぱ似合うって言ったろ」
(波の音が強くなり、夜風が三人の髪を揺らす)
(宿の二階。窓を開けて波音が入ってくる。三人は布団を敷いて横になったり、座ったりしている)
蓮司「ふー、涼しいな。夜の潮風って、なんか妙に落ち着くわ」
日下部「……昼間、はしゃぎすぎたな。背中ヒリヒリする」
遥「……日焼け止め、塗れって言ったのに」
日下部「お前が一番焼けてんじゃねえか」
蓮司「遥は顔に出ないタイプだな。なんか、焼けても“影”っぽい」
遥「……影って」
蓮司「悪口じゃねぇよ。存在感あるくせに、ちょっと隅にいそうって意味」
日下部「……褒めてるような、けなしてるような」
(しばらく沈黙。波の音だけが響く)
遥「……こういうとこ、来るの初めてだ」
日下部「旅行か?」
遥「友達と……っていうか、同級生と」
蓮司「へぇ。家族旅行は?」
遥「……ない」
(日下部が言葉を飲み込む)
蓮司「じゃあこれが記念すべき初。お前の人生の“海デビュー”なわけだ」
遥「……ちょっとだけ、楽しい」
日下部「“ちょっとだけ”かよ」
蓮司「まあ遥にしては最大級の表現なんだろ。いいじゃん、楽しんでんだ」
(風が強まり、カーテンが揺れる)
遥「……こうして波の音聴いてると、眠れそう」
日下部「じゃあ寝ろ。明日も朝から動くぞ」
蓮司「おー、しっかり仕切るな。先生かよ」
日下部「……お前がいい加減すぎるんだ」
蓮司「まぁ、バランス取れていいだろ。遥はズレてるし」
遥「……ズレてない」
(日下部が小さく笑う)
蓮司「お、反論したな」
遥「……寝る」
(布団を被る遥。二人が目を合わせて苦笑する)
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