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(翌朝。宿の部屋。窓から差し込む朝日。カーテンが風で揺れ、波音とカモメの鳴き声が聞こえる)
蓮司「……あー、まぶし。……んー……」
(布団を頭からかぶり直す)
日下部「……おい、起きろ」
(日下部は既に顔を洗ってタオルを肩に掛けている)
蓮司「……は?もう起きてんのかよ、早ぇな」
日下部「朝食七時半って言われただろ。もう七時過ぎだ」
蓮司「……学生旅行でそんな律儀に起きるやついる?」
日下部「ここにいるだろ」
(蓮司が布団の中で笑う。日下部がため息をつき、隣の布団を見下ろす)
日下部「……遥。おい、起きろ」
遥「……ん」
日下部「“ん”じゃねえ、起きろ。朝ごはんだぞ」
蓮司「こいつ起きるの遅そうだもんな」
(日下部が肩を軽く揺さぶる)
遥「……眠い」
日下部「知ってる。けど行くぞ」
遥「……いい」
蓮司「おっと、朝からストライキ」
(日下部が眉を寄せる)
日下部「……食わなくていいのか?」
遥「……あんま食欲ない」
蓮司「なんだ、ホームシックか?」
遥「……別に」
(少し沈黙。窓の外でカモメが鳴く。蓮司が大きく伸びをして布団から起き上がる)
蓮司「ま、せっかく宿代払ってんだし食っとけよ。飯残すの勿体ねぇだろ」
遥「……」
日下部「……そうだな。じゃあ行こう。俺が皿に取り分けてやる」
蓮司「え、なにそれ。遥専用係?」
日下部「……放っといたら絶対食わねぇから」
蓮司「はは、なるほど」
(遥はしぶしぶ布団から出て、寝癖のついた髪をかきあげる。無表情のまま、ぼそっと)
遥「……日下部、世話焼きすぎ」
日下部「……文句あるか」
遥「……別に」
蓮司「素直じゃねぇなあ」
(場面転換。食堂。木の長机に海の幸が並ぶ。焼き魚、味噌汁、海苔など。三人で座る)
蓮司「うわー、めっちゃ旅館の朝飯って感じ」
日下部「こういうの、落ち着くよな」
蓮司「いや俺はパンのが好きだけど」
日下部「なんだそれ」
遥「……魚、骨多い」
(日下部が箸で遥の皿の魚を器用にほぐす)
日下部「ほら。これで食え」
遥「……ありがと」
蓮司「完全に世話焼き親父だな」
日下部「……うるせぇ」
(顔を少し赤らめて箸を持ち直す)
(しばらく食事の音だけが続く)
蓮司「……なあ、今日どこ行く?」
日下部「予定だと海水浴だろ」
蓮司「また海? 昨日も入ったし」
日下部「旅行なんだから、せっかくだろ」
蓮司「ま、俺はどっちでもいいけど」
遥「……別に」
蓮司「出た、“別に”。お前それ便利だな」
遥「……だって、どっちでもいい」
日下部「……ほんとにイヤじゃないのか?」
遥「……イヤなら言う」
蓮司「そーか? イヤでも言わなさそうだけどな」
遥「……」
(日下部がちらっと遥を見るが、それ以上は追及しない)
(朝食を食べ終えて席を立つ。廊下を歩く途中、ちょっとした事件)
蓮司「あれ?」
(日下部が振り返ると、遥の足元に小銭が落ちている)
日下部「……おい、落としたぞ」
遥「……俺のじゃない」
蓮司「いや、お前のポケットから転がったぞ」
(遥、慌ててポケットを探る。財布を握りしめて硬直)
遥「……ちが、う……」
日下部「……」
蓮司「別に誰も責めてねぇって。落としただけだろ」
遥「……」
(日下部が小銭を拾い、遥の手に押し付ける)
日下部「持ってろ。……落とすな」
遥「……」
(遥は小さくうなずく)
蓮司「朝からハラハラさせんなよな。旅先で盗難騒ぎとか勘弁だぜ」
遥「……ごめん」
日下部「謝んなくていい」
蓮司「そうそう。むしろこういうのが旅行っぽくて面白いんだよ」
(日下部が呆れたように蓮司を見る。遥は俯きながら、でも少しだけ笑ったように見えた)