【hanagasumi ~花霞~】
『皆様、成田空港に着陸いたしました。只今の時刻は午後3時40分です。ベルト着用サインが消えるまでシートベルトをお締めになったままお待ち下さい。物入を開けた時にお荷物が滑り出る恐れがありますのでお気をつけ下さい。この先電波を発するご使用機器をご使用になれますが、携帯電話での通話は周りのお客様のご迷惑に……』
ニューヨーク発成田行きの飛行機は、たった今成田空港へ着陸した。
搭乗客達が一斉に荷物を下ろし始める。
そんな中、カイルだけは感慨深げに窓の外をじっと見つめていた。
カイルが日本を訪れるのは14年ぶりだった。
向井カイル(むかいかいる)、51歳。カイルは日本人の父とアメリカ人の母を持つハーフだ。
アメリカの製薬会社に勤めていたカイルは先月会社を早期退職した。
去年カイルは大学時代からコツコツと続けていた投資で運よく一財を築いた。
製薬会社では重要なポストにつき高額な報酬を得ていたが、それとは引き換えにプライベートを切り売りするような日々だった。だからこれを機に思い切って早期退職を決意する。
カイルは独身なので守るべき家族もいない。本当の意味での自由人だ。
もちろんこのまま隠居するつもりはなかったが新しく事業を始める前にカイルにはどうしても行っておきたい場所があった。
それは日本だ。
そしてカイルは14年ぶりに日本へやって来た。
気付くと搭乗客達が出口へ向かっていたのでカイルも席を立ち後に続いた。
久しぶりに降り立つ空港は、なぜか懐かしいような空気が漂っていた。
カイルは子供の頃から何度も日本を訪れている。
父親の実家がある千葉へはもちろんの事、大学時代にはバックパッカーで日本の名所はほぼ全て制覇した。
カイルが最後に日本を訪れたのは、製薬会社から長期出張を命じられた37歳の時だ。
その時は6ヶ月間東京で暮らしていた。
空港を出たカイルは東京の都心部へ向かった。
今日は都内に一泊し明日は静岡へ移動する予定だ。
カイルは今回の旅で、14年前に行った静岡県の小さな町を再び訪れるつもりでいた。
都心のホテルへ着いた時は既に日が暮れ始めていた。
チェックインを済ませると早速夜の街へ繰り出す。そしてカイルは高層ビルの最上階にある和食レストランへ入った。
この店は東京勤務時代に同僚達とよく来た店だ。あの頃とほぼ変わらない店の様子に懐かしさがこみ上げてくる。
窓際のカウンター席へ座ったカイルは思わず息を呑む。
目の前に見える東京の夜景は以前と同じ輝きを魅せてくれた。
この夜、カイルは美味しい日本酒と共に美味しい懐石料理をゆっくりと堪能した。
こうして日本にいると14年前のあの日を思い出さずにはいられなかった。
コメント
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面白そうな物語ですよね。楽しみにしてます😊
出遅れました😆 華子チャンに同じく、新たな気持ちで拝読させて頂きます(*´艸`*)🌸
短編集、嬉しいです.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.♪ 新たな気持ちで拝読させていただきます🌸🌸✨