テラーノベル
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会社を出て、真っ直ぐに帰宅する気がなかった圭は、立川駅北口からすぐ近くの自宅マンションを通り過ぎ、あてもなく彷徨っている。
(どうせマンションに帰っても、一人だしな。そういえば、家の周辺って、意外と知らないよな……)
彼は、北口の線路沿いの道を、国立方面へ向かって歩いてみる。
飲食店が多く建ち並び、歩道はサラリーマンを始め、多くの人でいっぱいだった。
大きめのコンビニエンスストアと、オフィスビルの間にある細い路地を、圭は入っていくと、突き当たりには、ラブホテルがある。
(…………マジかよ……)
彼は、ラブホテルの手前にあった細い道を左に曲がり、進んでいくと、古めの住宅が数軒見えてきた。
恐らく、昔からここに住んでいる人たちの家なのだろう。
駅前から徒歩数分ほどの場所に、小ぢんまりとした住宅地があった事に、圭は密かに目を見張った。
その中の一軒、和風の佇まいの店に、彼の目が留まる。
濃茶の二階建ての建物は、明るい木目調の格子戸、その横に『家庭料理 ゆき』と、看板が明かりに灯されている。
恐らく一階が店舗、二階が住居なのだろう。
(ヤバい……腹減ったな……。駅前の騒がしい店で飯を食うより……たまには、こういう落ち着いた感じの店で晩飯も……いいかもしれない)
圭のお腹がキュルキュルと鳴り出し、空腹だったのもあり、恐るおそる格子戸に手を掛けた。
「いらっしゃいませ。どうぞ」
五十代後半と思しき女性が、カウンターの奥からニッコリしながら声を掛けてきた。
明るめの長い髪を後ろで束ね、クリッとした大きめの瞳が若々しさを感じさせる。
(…………ん?)
何となく、見覚えがあるような顔立ちの店主を横目に、圭は店内を見渡すと、店内の奥にはカウンターが八席、四人掛けのテーブル席が四席の、小さな食堂という雰囲気。
常連客と思われる男性二人が、四人掛けのテーブル席で、時折、店主の女性と言葉を交わしている。
彼は、カウンター席の一番端に腰を下ろして、メニューを手にすると、女性から温かい緑茶を目の前に差し出された。
「…………肉じゃが定食を……お願いします」
「肉じゃが定食ね。かしこまりました」
圭が注文をし終わったと同時に、店の入り口が勢い良く音を立てて開かれた。
「ただいまぁ! お腹空いちゃったよぉ」
女性の元気な声に誘われるように、店に入ってきた人物を見た瞬間、圭は瞠目しながら息を呑んだ。
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