放送が始まってまだ十分程しか経っていないのに、視聴者数は1万人を超えていた。
健吾のライブ配信は、投資をやっている若者に大人気だ。
こうしたライブを、健吾は月に二回ほど行なっている。
その二回の放送を心待ちにしているファンは多い。
そして月二回だと物足りないからもっとやって欲しいとの声もあるが、
さすがにそれ以上はきつい。
だから今の所はこのペースで続けている。
健吾の動画配信は、元々は世間に蔓延る投資詐欺から、
投資歴の浅い若者たちを守るために始めたものだった。
有名投資家の間では投資詐欺連中に対する目がかなり厳しい。
投資はきちんと勉強し正しく活用すれば人生を変えるチャンスにもなる。
しかしそこに集まる若者達からなけなしの金を吸い取る輩が近年急増している。
そしてそういった若者からの相談も後を絶たない。
投資詐欺関連の事件がテレビに流れると、投資界全体のイメージも悪くなる。
そこで健吾や、健吾の友人である投資家の小川英人が中心となり、なんとか若者達の被害を少なくしようと
こうした動画配信で注意を促していた。
また、健吾のチャンネルでは投資以外の動画、例えば健吾が行った旅先の映像や釣りの動画などを流す事もある。
ファンはそういった動画も楽しみにしていた。
そしてライブ中継は続く。
さやか【健吾さん、夕食何食べましたか?】
「あ、俺夕飯まだ食ってないわ! ちょっと待って…今作って来る! しばらく画面消すからな」
健吾はそう言うと、右上に映っていた自分の画像を一旦消した。
しかし音声は繋がったままだった。
通りすがり【健吾、何食うんかな?】
損切り平太【またいつものアレやろ? 証券会社からの景品のレトルトカレー】
♡マリン♡【いやん♡マリン♡が作ってあげたい♡♡♡】
通りすがり【♡マリン♡はネカマやろ?】
♡マリン♡【ひどいーっ! ネカマじゃないもんっ!】
その時『チーン!』という電子レンジの音が響いた。
通りすがり【やっぱりレトルトカレーや】
トレンドライン【億トレーダーの食生活は意外と貧相!www】
ポン太郎【www】
魔王【www】
スキャルピングM【www】
「おうっ、貧相で悪かったな!」
魔王【( ̄▽ ̄)!】
トレンドライン【(/ω\)】
ポン太郎【今日は何食べてるんですかー?】
「お前らの予想通りMI証券のレトルトカレーだ!」
ポン太郎【www】
通りすがり【やっぱりwww】
トレンドライン【www】
損切り平太【健吾さんは愛車のマセラティでハンバーガー買いにドライブスルー行っちゃうからなぁ】
魔王【それもセットは買わないでハンバーガーとポテトの単品www】
スキャルピングM【www】
♡マリン♡【マセラティ!😲 いやん、マリンも乗せて♡】
通りすがり【ネカマは無理やろ】
♡マリン♡【(o`・д・)≡〇)`Д゚)グハッ】
通りすがり【ε=ε=ε=ヾ(*ΦωΦ)ノ】
「おーっ、一気食いしたわ待たせて悪かった。じゃあ、さっきの続きやるぞ!」
そこからまた健吾の投資講座が再開された。
居酒屋にいた二人はじっと健吾の配信を見つめていた。
しばらくすると洋子が口を開く。
「なんか、いい人っぽくない?」
「だね! 私と会った時はもうちょっと気取った感じだったけれどね」
「若者に合わせているんじゃないかな? あえてざっくばらんに接している感じ。気遣いが出来る男はポイント高し!」
「気遣い…….それはあるかも! 私が新しい靴に履き替えた直後、速度を落としてゆっくり歩いてくれてた」
「えーっ! 優しいじゃん!」
「うん、その時、この人気遣い出来る人なんだなーって思った」
「なんかいい人っぽいよ! 私の中の『ダメ男センサー』が反応しないもん。ちなみにアホ弘人に会った時はセンサーが振り切
れたけれどね! 今だから言うけど…….」
「今頃言うな―っ! 遅いよっ! でもさ、確かに洋子は男を見る目だけはあるからね。そこは信用してる」
「だけって何よ! それだけじゃないでしょう?」
「フフッ、ごめん冗談だよ。でもさ、洋子が選んだ貴史さんは優良物件だからねー。その実績には信用があるよ」
「優良物件言うなっ!」
そこで二人は声を出して笑った。
「いずれにせよあとは理紗子の勇気だね。一歩踏み出す勇気! ほんの一歩だよ。少しは冒険してみてもいいんじゃない?」
「………….」
「まあ、一晩じっくり考えてみて決めなさい! 結局は理紗子がどうしたいかだよ」
「…….だよね」
「ほらほら、料理食べちゃおうよ。お寿司も来たし…….美味しそうだねー」
洋子はそう言うと、ニコニコしながら握り寿司を頬張った。
理紗子も続いて寿司を口に入れる。
寿司をもぐもぐしながら、理紗子は先程のライブ配信の様子を思い出していた。
健吾はファンから信頼され愛されているように見えた。
だからきっと悪い人ではないのだろう。
(勇気を出してみようかな…)
理紗子は心の中でそう呟いた。
食事を終えて洋子と別れた理紗子は、すぐに電車に乗り自宅の最寄り駅へ着いた。
時計を見ると、時刻は午後九時半だった。
マンションまでは歩いて五分ほどで着くが、コーヒーが飲みたい気分だったので
朝行ったカフェに寄る事にした。
店に入ると、店内は空いていた。
今日起きたこの店での騒動を思い出すと少し恥ずかしかったが、
カウンター内にいるスタッフは朝いたスタッフとは違う人だったので理紗子はホッとする。
理紗子はコーヒーを購入してから朝と同じ場所へ座った。
朝こぼれたコーヒーは、跡形もなく綺麗になっていた。
理紗子はホッと息を吐くと、コーヒーを一口飲んでから窓の外をぼんやりと眺めた。
コメント
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洋子さんと健吾さんのYouTubeを見て良かったね❣️やっぱり気遣いデキるハイスペ男子は逃す手はないね☆ 理沙ちゃんも慎重だと思うけど流した魚は〜には気をつけてね😊