テラーノベル
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店内には海をイメージしたメロウな曲が流れている。
このカフェは音楽のセンスもいい。
今流れている曲も、緩い感じが夏の夜にぴったりだった。
(私はカフェに流れている音楽も好きなんだわ……)
理紗子はそんな事を考えながら、もう一口コーヒーを飲んだ。
そしてバッグからスマホと健吾の名刺を取り出す。
この時理紗子は、昼間健吾から提案された件に関してOKの返事を送ろうとしていた。
理紗子はメール画面を開くと、名刺のアドレスを打ち込む。
その時静かな店内に自動ドアの開く音が響いた。
そして一人の客が入って来る。
入って来た客は健吾だった。
理紗子は健吾に気づかないままスマホに集中していた。
すると、コーヒーを手にした健吾が理紗子の隣に座った。
隣りにいきなり健吾が現れたので、理紗子はびっくりして声を出す。
「えっ?」
「また会ったね。もしかしてお出掛けの帰り?」
健吾は理紗子の服装をチラリとチェックして言った。
この時理紗子は、薄ラベンダー色のワンピースにチャコールグレーのレギンスを履いていた。
顔には朝とは違いしっかりメイクを施している。
それを見た健吾は、理紗子がどこかへ行った帰りだと思ったようだ。
「あ、はい。友達と飲みに行った帰りです。あれ? 佐倉さんは確かライブ配信…?」
「見てくれたんだ」
「あ、はい、ちょこっとだけですが」
「ありがとう。あの放送はいつも一時間で終わるんだよ。終わってすぐ来た」
健吾はそう言うと美味しそうにコーヒーを飲んだ。
「そうでしたか」
理紗子はそう言いながら打ちかけのメール画面をそっと閉じる。
今夜またここで健吾に会ったのも、運命のような気がした。
だから理紗子はメールではなくちゃんと口で伝えようと思った。
「あの、今日仰っていた『偽装恋人』の件ですが…….是非やらせて下さい」
理紗子はそう言うと、健吾にぺこりとお辞儀をする。
健吾は理紗子の言葉を聞いて、少し驚いた顔をしていた。
しかしその顔はすぐに笑顔に変わる。
「ありがとう。良い返事が聞けて嬉しいよ。じゃあ早速なんだけどメッセージの連絡先を交換してもいい?」
「あ、はい…….」
理紗子はカウンターの上に置いていたスマホを手に取ると、メッセージアプリの連絡先を交換した。
「連絡については、急ぎや緊急の場合だけは電話でそれ以外は基本SNSのメッセージでというのはどう? その方が互いの仕事
の邪魔しなくて済むし」
「わかりました。私もその方が助かります」
「じゃあそういう事で。君は束縛されるのが苦手みたいだからね」
健吾の言葉を聞いた理紗子は慌てて言った。
「あ、いえ、束縛が苦手というよりは、ここ二年ほど独りだったので自分のペースで生活する事に慣れ過ぎてしまったっていう
か…おそらくそんな感じかもしれません」
「わかる! それは俺も同じかもしれない」
健吾はそう言って笑った。
その笑顔があまりにも爽やかだったので、理紗子は一瞬クラッとした。
(スパダリ男は夜も爽やかなのか)
理紗子は胸の内でそう呟くと、話題を変えた。
「そういえばさっきライブ配信を見ていたのですが、いつも生放送でやっているのですか?」
「うーん、ライブ配信は月に1~2回位かな」
「そうなんですね。あ、あと、今日の損益っていうのを聞いてしまったのですが、あの金額は本当の数字ですか? あまりにも
金額が大きくてびっくりしてしまって」
「本当だよ。でもあのポジションは三日持っていたから日給にすると一日300万いかないくらいかな。調子がいい時はいつもあ
んな感じだけれど、悪い時は普通に1000万とか損切りする事もあるからね」
「1000万円? ひゃーっ、桁が凄いっ!」
「1000万円単位の損切りはさすがにしんどいよ。でもね、損益っていうのは一日ごとに見るものじゃなくて、月単位、年単位
で見ていくものなんだ。一ヶ月プラスで終われたか? その年一年はいくらのプラスだったか? 大口のトレーダーは皆そうい
う視点で見ているから、日々の金額の上下はあまり気にしないんだよ」
「そうなんだぁ。なんか気が小さい人には無理ですね。私は絶対に無理!」
「ハハハ、向いていないと思うなら無理にやる必要はないよ。あのチャンネルには投資動画以外にも釣りや旅行なんかの動画も
アップしているから、良かったら今度はそっちを見て下さい」
「はい。って事は、趣味は釣りと旅行ですか?」
「うん、そう。理紗子さんの趣味は?」
「私の趣味ってなんだろう? 映画、読書、旅行? なんかごくフツーですね」
理紗子は特に何の変哲もない自分の趣味に思わず苦笑いした。
「いや、そんな事はないよ。旅行は頻繁に行くの?」
「会社員だった頃は年に何回か行っていましたね。今はたまにしか行きませんが、行くとしても取材旅行みたいなものがほとん
どです」
「小説のロケハンか、なるほどね。それはそれで楽しそうだね」
「はい。普通にボーッと旅行しているのとはまた違った楽しみがありますね」
「そう言えば新作は石垣島が舞台って書いてあったよね? 石垣島に行く予定は?」
「いえ、今のところは。石垣島には何度か行った事があるので、行かなくてもなんとかなりそうかなぁと」
「そっか。石垣島いいよね。俺、離島の中では石垣島が一番好きだな」
健吾もう一口コーヒーを飲む。
気付くと時刻は22時を過ぎていた。
そろそろ閉店が近い。
「そろそろ閉店ですね。私そろそろ失礼しようかな」
「俺も帰るかな」
健吾は立ち上がると理紗子のカップも返却口まで持って行ってくれた。
店を出る際、健吾は顔見知りのスタッフに声をかける。
「美味しかったよ、お疲れさん!」
それから二人は店を出た。
コメント
6件
スパダリ男 健吾さん、きっと嬉しくって ルンルン気分💖\(^o^)/🎶 でも二人はとってもお似合いで素敵♡
健吾さん,軽〜く爽やかにやり過ごしてるけど,本当は偽装恋人でも嬉しくて仕方がなさそう🥰👍💞
スパダリ男おは→スパダリ男は でしょうか?