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るるくらげ
いと
#和風ファンタジー
──元に戻せない。
その言葉に俺は
「なんでだよ!何が無理なんだ!」
グリムの身体を揺らしながら、叫ぶ。
「グリム、お前は……死神だろ!俺に、紗羅を助ける為に、魂を集めろって言っただろ!
紗羅を助けるみたいに……」
「樹!」
グリムが大声を出して、俺の叫びを遮る。
「紗羅の魂は刈り取られてない!肉体から取り出されてない」
「あ……」
紗羅の場合と違う。
グリムに言われて俺は、グリムの両腕から手を離して後退りをした。
でも、何か方法があるはず……。
「そうだ!グリムは収穫祭、魂の収穫祭とか言ってただろ?それで死因の関与になんとか出来るって、それなら……」
俺はグリムがなんとか出来るだろうと、まだ抗おうとしたが──
「収穫祭は、何でも出来るわけじゃない」
グリムはきっぱりと言い切る。
「確かに収穫祭は、死神にとっては特別なイベントだよ。過度な事でなければ、許されることもある。
だからと言って、死神が好き勝手をしていいってことじゃない」
「……」
「樹は僕達死神を、好き放題に魂を刈り取る者だと思っていたのかもしれないが、死神は無秩序に魂を刈り取ることはしない」
強く断言したグリム。
「魂の持ち主に対して尊厳と敬意を払って、魂を刈り取っている」
持っていた人名本に視線を落として
「その為に、これがある」
と、グリムが言った瞬間、俺の両目から涙が溢れた。
そして、一歩、二歩と後ろに下がり、スローモーションで振り返り……
「お、俺……取り返しのつかないことを……」
板垣さんに向かって言った、俺の声。
震えて掠れる声は、音にならないぐらい小さく
「ご、ごめんな……さい。ゆるし……て……くだ……さ……」
絞り出そうとしたけど、最後はボロボロと子供のように涙を溢して、声が出なくなった。
そんな俺を、板垣さんは
「いいんだよ、樹くん」
と優しい笑みを浮かべた。
「僕はね……、こうなることが、わかってたんだ」
「え?……」
目を見開く俺に、板垣さんは
「僕は昔から、霊感っていうのかな……見えないモノがわかったりして……
あっ、霊能力とか、そんな凄いモノじゃないよ」
と言って苦笑いを見せた。
「紗羅さんが事故に遭った日から、僕は毎晩、夢を見ていたんだ」
「夢……?」
と言った俺に、板垣さんは頷いた。
「毎晩、君が夢に出て、紗羅さんの為に僕に命を捧げろって言うんだ」
「え?」
俺が板垣さんの夢に、出てきた?
事故直後から? どういうことだ?
瞠目する俺に板垣さんは、困ったような笑みを見せた。
「最初は樹くんが亡くなって、逗子と糸原の策略に気づくのが遅かったと、化けて出てきたのかと思ったよ。
でも樹くんは生きているし、紗羅さんと一緒に生きようと戦ってた」
「……」
「それで僕は、この夢は予知夢か、もしくは何らかのメッセージかもしれないと思ったんだ。
僕は以前からよく予知夢などを見る方だったから、実際にその通りになることもあった。
その体験から、必ず起きると僕は知っている」
「……」
「だからね、樹くん。
紗羅さんの為に命を捧げる覚悟、僕は既に持っていたんだ」
そう言って、板垣さんは慈しむような笑みを俺に向けた。
「樹くんは幽体になって、それでも紗羅さんを助けようと、頑張ってたんだね」
「あ……」
もう俺の涙は、止まることを知らなかった。
ボロボロと大粒の涙を溢し、何度も、何度も目を擦った。
板垣さんはグリムの方を向く。
「君は、死神なんだね。
樹くんに、過酷なことをさせて……」
俺を横目で見た板垣さんは
「でも君は……樹くんと纏うものが同じだね」
グリムを見据えて苦笑いした。
「さっき、僕を嫉妬の大罪に値しないと言ったけど、それは違うよ。
僕は紗羅さんに愛されている逗子に、嫉妬をしていた。
だから逗子のしようとすることが、許せなかった。
紗羅さんが悲しむと、わかっていても逗子と糸原を追い詰める。刺し違えてもいいと思っていた」
グリムは無表情で、何も言わずに板垣さんを見る。
何も言わないグリムに板垣さんは、
「何をしようとしているのか、僕にはわからないが、樹くんを助けてやって欲しい」
そう言ってから、俺に振り向いた。
「樹くん、僕の魂は嫉妬に値するよ。
だから、君がしたことは間違いじゃない。
君は紗羅さんを守ろうとしている。これからも守ってあげて」
俺を諭すように言った板垣さんは、ゆっくりと線路の方に向かった。
「まもなく、2番線に、電車が参ります」
ホームのアナウンスが流れ、線路のレール先の暗闇から明かりが近づく。
電車のライトが近づく。
線路に背を向けて、板垣さんはホームドアのないホームの端に立つ。
プワァアーン
電車の警笛が響く。
電車が滑り込むようにホームに近づくと、大きな風が吹いた。
それと同時に、板垣さんが両手を広げて
「樹くん、生きるんだよ。僕の分まで生きて、紗羅さんを守ってあげて……」
ゆっくりと、吸い込まれるように後ろに倒れていく。
「ダメだ! 板垣さん!」
俺は走って板垣さんの腕を掴んだ……はずだった。
でも、掴めなかった。
霊体の俺の手は、板垣さんをすり抜けたからだ。
板垣さんは電車の前で、舞い落ちて……
キキキー
電車の大きなブレーキ音。
飛び散る赤の破片
「非常停止!」
駅員の怒号が響く。
俺は跪いて、天を仰ぐと
「うわぁあああああ」
絶叫した。
——
ラマン生命保険株式会社の一室、契約審査部では板垣怜のデスクを、同僚達が囲む。
そのうちの一人が
「板垣さんが、まさかホームから転落するなんて……」
板垣のデスクを見つめて言うと
「あの日、板垣さんに声をかけていたのに……先に帰らなければ……」
別の男が涙ぐむ。
「お前のせいじゃない。板垣が体調を崩してたと、俺達全員がもっと早く気づいていれば……」
全員が沈痛な表情をしていた。
——板垣怜は、体調不良によりホームからの転落。
不慮の事故と、判断されていた。
一人の男が顔を上げる。
「板垣さんが残してた例の件、俺達でやり遂げましょう!」
「そうだ!板垣が残した全て、俺達が引き継ぐぞ!」
板垣の残した様々な書類を片付け、板垣のノートPCに貼られていた付箋を見た男が、ポツリと言った。
「板垣さん、契約者の店のパンを、毎日欠かさず食べていましたね」
一緒に片付けていた男が、静かに言った。
「ああ、パン好きで通ってたらしいが、常連になってたからなぁ」
「それで契約者と板垣さん、親しく話すようになっていたんですよね」
「ああ。だから例の件を、誰よりも早く板垣が気づいたんだけどな……」
「きっと板垣さんは……」
「……」
二人は無言で付箋を見つめた。
貼られていた付箋には
『契約者、梶原紗羅の笑顔を守る』
と書かれていた。
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