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咲の三十歳の誕生日。
千鶴ちゃんの墓を後にした俺たちは、ホテルに戻ってセックスをして、ホテルのレストランで食事をして、部屋に戻ってまたセックスをした。
ベッドの中で、咲は自分の過去を話し始めた。
「千鶴と樹梨が病院で目を覚まして、薬の治療を終えて退院したのは、事件から二週間後だった。その時はまだ警察は動いていなかったから、犯人は野放しだった。でも、現場で真が写真を撮っていたから、私は写真から犯人を特定してた。だから、千鶴と樹梨から男たちに写真を撮られたと聞いて、すぐにデータを消去した」
「一応……聞いておくけど、どうやって?」
想像はついたが、咲の口から確認しておこうと聞いた。
「クラッキングの手順を詳しく説明するの?」
「いや、それはいい……」
「昔は今ほどセキュリティも厳しくなかったから、携帯を乗っ取ってデータをいじることも難しくなかったの」
いや、高校生が独学で出来ることじゃないだろ。
「でも、そうね。千鶴と樹梨にしてみれば、私が『大丈夫』って言っても、信じられるはずがなかったんだよね……」
憑き物が落ちたように、咲は冷静に話を進めた。
「千鶴が亡くなって、現場のビルで薬漬けになっていた男五人が逮捕されたの。罪状は麻薬取締法違反。私は警察で、千鶴の最期の電話の内容を歪曲して証言した。『千鶴は男たちに殺されると怯えていた』と。男たちは麻薬の常習者だったし、遺体解剖で千鶴がレイプされたことは証明されて、男たちの罪状に殺人罪と強姦罪もプラスされて、今も刑務所にいる」
昨日、樹梨ちゃんが、咲が『千鶴の自殺が他殺になるように、嘘をついてた』と言っていたのは、このことか。
「樹梨は高校には戻れなくて、私は一人で卒業したわ。その頃には樹梨は家族と引っ越していて会うことは出来なかったけど、時々は電話やメールで連絡を取っていた。でも、私が事件現場の近くで暮らし続けることを心配した真が、大学を編入してまで私を東京に連れ出してくれた」
「咲と真さんの絆が強いはずだな」
「そうね……」と咲が笑った。
笑いごとじゃないぞ……。
俺は面白くなかった。
「なぁ……」
「ん……?」
俺は咲の上に伸し掛かった。
「初恋と初キスの相手って誰?」
咲が俺から目を逸らす。恥ずかしいというよりも、気まずそうに。
俺はため息をついて、咲から身体を離した。
「俺、あの人に勝てる気がしないんだけど」
「張り合う相手じゃないでしょ?」
「別に張り合ってねーし」
「拗ねてるんだ」と、今度は咲が茶化すように俺の上に身を乗り上げてきた。
「詩織ちゃんが見たら、ますます熱を上げそう」
「あー……、やめてくれ」
場もわきまえずにアプローチしてくる香山に、俺はうんざりしていた。
咲が俺の鎖骨の下辺りにキスをした。跡が残るほど、強く。
「詩織ちゃんに言いたい?」
「会社中に見せたいね」
俺は咲の左手首をグイっと持ち上げた。薬指の指輪が光る。
「蒼って意外と独占欲、強いんだ」
「俺も最近気が付いたよ」
「私は誰にも言いたくない」
咲の唇が、俺の首筋を這う。
「俺が詩織ちゃんに言い寄られて、何とも思わないんだ?」
「どうかな? でも……」
咲の掌が、俺の胸を弄る。
「詩織ちゃんに言い寄られて蒼が何を思うか、の方が知りたいかな」
「俺が?」
「そう……。私以外の女に好かれて嬉しいか、とか……」
咲の舌が、俺の乳首を撫でる。
「私以外の女に触れたいか、とか……」
咲の指が、俺の唇をなぞる。
「私以外の女に触れられたいか、とか……」
咲の瞳が、俺の思考を鈍らせる。
「私以外の女にも反応するのか、とか……」
咲の中で、俺は快感に身悶えする。
「その時、あなたがっ――私を……思い出すか……、とか……」
咲が俺に跨り、揺れる。
ゆっくり、感触を味わうように深く。
咲の呼吸が浅く、早くなる。
「なるほどな……」
俺は咲の動きに合わせて腰を突き上げた。
咲が顔を歪めて、仰け反る。
「わかる気がするよ」
俺は身体を起こして咲の腰を支えた。
彼女の胸の膨らみを、舌でなぞる。
「お前が俺以外の男にも『メス』の顔を見せるのか、俺も知りたいよ――」
激しく突き上げながら、彼女の花びらに触れる。
「ああっ――!」
俺の肩にしがみついて、快感で俺を締め付ける咲にキスをして、彼女を押し倒した。
「違うか……」
咲は力なく、小刻みに声を漏らす。
「お前が俺以外の男に『メス』の顔を見せないってことを、確かめたい――」
咲が、最期の女ならいい。
咲の、最期の男になりたい。
そんなことを考えて、俺は咲の中で果てる幸せをかみしめていた――。