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「……それで、まあ、好きって言われたら、普通うれしいじゃん? でもさ、びっくりしちゃって。なんか、ごめんって言っちゃった」
さっきまでの陽気なテンションのまま、彼女は笑った。けれどその笑いは、空気を揺らすほど軽やかで、それでいて妙に耳に残る。
「で、今日は何の相談?」
「んー、恋愛じゃないやつにしよっかな。……家、のこと。ていうか、お母さんのこと?」
ちら、と横目で蓮司の様子をうかがう。彼は相変わらず、猫背気味に椅子へもたれかかっていた。面倒くさそうに、けれど逃げはしない姿勢。
「母親。なるほど、毒親コースか、それとも“期待されてる”自慢?」
「え、どっちもハズレ……かも。お母さん、もういないの」
「死んだ?」
「うん。わたしが小三のとき。病気。割とすぐだった」
彼女はその事実すら、なにかのコントの前フリみたいに軽く言った。
「それでさ。うち、父子家庭なんだけど。……って言うと“偉いね”とか“寂しかったね”ってテンプレ来るんだけど、別に寂しくなかったし、父親もそこそこちゃんとしててさ」
「ふーん。いいじゃん、まともな親父。……で、何が不満?」
「ううん。不満っていうか、なんか、さびしいって思っちゃいけない気がしてさ」
そこだけは、少しだけ素がにじむ。
「家事も手伝ったし、お父さんも一人でがんばってたし、わたしが元気でいれば、って。……だから、笑ってたんだけど」
「仮面がズレてんぞ」
「え?」
「お前のその“いつも明るい子です”みたいなキャラ。もうちょい、ズレてきてんじゃん。……そういうの、つけ直すか、捨てるかしたほうがいいぞ。めんどくさいから」
それでも、彼の言い方にとげとげしい悪意はない。ただ、ただ、正直なだけだ。
「……ねえ、蓮司って、ひとに優しくしたことある?」
「たまに。壊れてからじゃ遅いだろ。先に言っとくのが、俺のやりかた」
「そっか……変な人」
ふっと彼女が笑う。それはいつもの作った笑顔ではなかった。少しだけ苦くて、でもあたたかい、素の笑い。
蓮司はそれを見て、わずかに口角を上げた。
「ま、また壊れそうになったら来いよ。……カウンセラーごっこ、案外嫌いじゃないからさ」