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気が遠くなるほどの遥か昔。

遊び好きの神々が異世界を旅して回り、そこで見付けた自分達の“好きなもの”を集めて箱庭の様な世界『アルシェナ』を作った。

平穏で平和的で、人間同士の争いの無い豊かな世界。森まで行けば魔物達がいるが、国同士の争いは創世記に遡ってもなく、不自然な程穏やかな世界を維持し続けている。

そんな穏やかな世界だが、じゃあ住む人々は皆幸せなのかというと、それはわからない。この世界には《輪廻の輪》というものが存在しているからだ。それは必ずこの世界の中でのみ輪廻転生を繰り返すというものである。前世の記憶を持つ《前世持ち》として生まれる者が少ない為、そのルールを不幸と思う事も無くすごしている者が大半だ。なので皆忘れがちではあるが、そういう囚われのルールがこの世界には確かに存在していた。

その様な世界を作った神々は、ごく稀に人間との間に『愛し子』を成す事があった。その子らは『神子みこ』と呼ばれ、親神となった者達の特徴の一部を引継ぎ、角や獣の様な耳などが生えている。二十歳頃までは順当に成長し、その後は歳を取らぬまま神々の様に永劫の時を生き続ける。


絶望などにより生を放棄する時は、魂ごと消滅してしまう定めを持ちながら。




雲一つ無い青い色が広がる空の下にロシェルという少女が一人立つ。ローズアーチが小道を飾り、周囲には美しい色取り取りの薔薇が互いの美を競う様に咲いている庭にだ。他にも百合や鈴蘭などの花も咲く神殿の庭園の中を、先程までロシェルはぐるりと散歩していた。《神殿》の庭を散歩していたが、彼女は神官や司祭などでは無い。この神殿で暮らし、祀られてもいる羊の角を持つ神子・カイルとその妻・イレイラ夫婦の一人娘だ。

両親と同じ黒い瞳と髪を持つロシェルは、腰まで伸びる長い髪を優雅に揺らしながら、襟ぐりの広い水色のドレスを着ている。胸元は布で作られた大小の薔薇で飾られ、パニエの入るスカートの裾にはレースが多く使われており、薔薇の刺繍も同系色で施されている。このまま夜会にも参加出来そうな装いだ。普段はもっと質素で動き易い格好を好むのだが、今日は心待ちにしていた日なので、少しお洒落したい気分だったようだ。


不意に風が吹き、彼女のドレスのスカートに軽い悪戯を仕掛ける。それを押さえ立ち止まると、ロシェルはふと空の美しさに目を奪われた。

「綺麗な空ねぇ」

のんびりとした口調で、ロシェルが呟く。

「……今日は、どんな子が来るかしら?スライム……は、イヤだわ好みじゃないもの。爬虫類はありかも。でも、ヘドロ系は勘弁ね」

空を見ているだけでこれから起こる事への楽しみが心から溢れて、ついつい独り言を呟いてしまう。


実は今日は、父・カイルに長年お願いし続けてきた約束を叶えてもらえる日なのだ。


そんな日に心が踊らない訳がない。

そろそろカイルとの約束の時間が近づいてきている。だが、本当にカイルが待ち合わせ場所まで来てくれるのか、ロシェルは少し不安だった。忘れられているかもとか、忙しいのかなといった理由ではない。母・イレイラと仲睦まじくすごす時間をカイルが中断してくれるのかが、心配なのだ。

「一時間の遅刻までは許してあげましょう」

うんうんと頷きながらロシェルが神殿の中へと戻って行く。

両親の仲が良いことは彼女の自慢でもあるので多少の遅刻には寛容でいられる。でも、完全に忘れられて、来てすらもらえなかった場合は流石に怒ってしまうかもなぁと考えながら、神殿の長い廊下をゆっくりとした足取りで、魔法の練習部屋へと向かった。




待ち合わせ先でもある目的地は、彼女達の住居である神殿内にある魔法の練習部屋だ。室内で魔法を使える様にと用意されたその部屋はとても簡素なもので、置かれている調度品などはソファーと他数点だけで、無いに等しい。天井も三階分程の高さまで吹き抜けになっており、五十人程が相当な余裕を持って入れる広さもある。防護魔法が部屋全体に張られており、もし失敗しても部屋を壊してしまう可能性は低くもなっている。

両親の出逢いの場でもあるその部屋の前に立ち、ロシェルがドアを開けて中に入って行った。 予想通りまだ父・カイルは到着しておらず、部屋の中はとても静かだ。


歩くたびに靴音がカツンカツンッと薄暗い部屋中に響く。窓が少ない部屋だが、昼間のお陰で暗過ぎはしない。暗さに心細くなる事無くカイルを待てそうで、ロシェルは安堵した。

端に置かれた二人掛けのソファーまで向かい、座る。 そしてロシェルは瞼を閉じてまた『どんな子に会えるかな』と空想に心を奪われた。


ここが両親の出逢いの場であり、再会の場でもある事は幼い頃から何度もカイルから聞かされているが、来た事はほとんど無かった。

魔法を練習する為の場所なのに、ロシェルはここで練習をさせてもらえた事が無い。思い出をとても大事にするカイルが許可しないのだ。古代魔法をカイルが使いたい時だけ解放され、それをたまに見学させてもらう時にだけ入る事が許されるくらいだ。


ほぼ何も無い部屋だが、此処が両親の始まりの場所なのだと思うだけでロシェルは感慨深い気持ちになった。


ロシェルの父である神子・カイル は神々の子供としてこの神殿に祀られながら、最高司祭も務めている。古代魔法の扱いに長け、魔力はこの世界で最高クラスの存在だ。

母のイレイラは、今は普通の人間として生活しているが、元々は異世界の住人だったらしい。そして前世は父・カイルの飼い猫であり妻でもあったという異色の経歴を持つ。


猫であった頃の母が寿命で亡くなり、転生した存在を呼び戻そうとカイルが古代魔法を使い、今の姿をしたイレイラをこの部屋に召喚して、また恋が始まり、ロシェルが生まれた。


自分もそんな運命的な恋がしたいとロシェルは密かに願い続けている。

カイルの執愛の末の関係なのだとは、あまりよくわからぬままに。

騎士団長は恋と忠義を区別できない

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