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「和議を――」
ジオンの決断に、ウォルは頷いた。
ただの呟きに取れるそれは、明るい未来への一歩だった。
ジオンの終焉《さいご》を告げる戦になるはずだったそれが――。
和議……。
だが、動き出した歯車を止めることは出来ない。
ウォルには、苦渋に満ちたものでもある。相手は、受け入れるのだろうか。
常に、敬愛する王の背を追って、大地を駆け抜けて来た。
欲するがままに領土を掴み取っていく、ジオンの姿に、憧れ、いや、愛し――、ウォルは、ジオンに全てを捧げてきた。
発せられる命が、どの様なものであろうと、黙って従った。
そして、今回の命は、ウォル自ら、進んで従いたいものだった。
しかし──。
あくまで、こちらから仕掛けた戦。
相手は、和議の条件に、ジオンの首を挙げるだろう。
「困難だとは思うが……裏の輩《にんげん》でも、使える者は、使え」
ウォルの思案を見越したように、ジオンが言う。
「ウォル、東の言うがまま譲歩しろ。ただ、私は生きる。這《は》ってでも生きる」
その言葉に、ウォルは、遥か昔、初めてジオンに目通りした時の、高揚感が甦《よみがえ》った。
この方を――。お守りしたい。
と、心踊ったあの日。
ウォルの前に現れた、若き日のジオンは、自信が満ち溢れ、凛とした瞳は未来を見据えていた。
「どうか、お任せください」
ウォルの瞳から涙が流れる。
瞬間――。
がっしりとした腕が、否、今では阿片に蝕まれ、恐ろしく衰えたジオンの腕が、ウォルの体躯を包みこむ。
「ウォル……よく、ついてきてくれた。もう、私は大丈夫だ」
昔のような広く厚い胸板はない。だが、何より望んでいた言葉を、ジオンが発した。
ウォルは、うれしさのあまり、ジオンの胸にしっかり甘えた。その子供じみた姿に、ふっとジオンが笑う。