テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
玄関先でこんなふうに抱き締められるのは初めてだった亜佑美は突然腕の中へ閉じ込められて包み込むような温もりに触れ、驚きと心地よさが入り混じり頭の中が真っ白になってしまう。
「……あ、あの、とりあえずリビングに行こう?」
ようやく絞り出した声に朝陽は、「……すみません」と謝りながら少しだけ身体を離したものの腕は解かれず、真っ直ぐに見つめる瞳には隠しきれない熱が宿っていた。
「早く二人きりになりたかったから、今、本当に余裕がなくて」
その言葉に亜佑美は思わず息を呑む。
胸の奥が甘く疼き、視線を逸らそうとしても逸らせない。
二人は自然と見つめ合い、やがて朝陽の指先がそっと亜佑美の顎に触れて優しく持ち上げたーー次の瞬間、静かに唇が重なった。
「……っ」
触れるだけだった口づけは互いを確かめ合うように何度も重ねられ、そのたびに亜佑美の呼吸は少しずつ乱れていく。
「ーーっん、……はぁ、」
夢中で求められた亜佑美は朝陽の胸元をきゅっと掴むことしか出来ないくらい、朝陽のペースに飲まれていく。
初めて身体を重ねたあの日以降、二人は週末を迎えるたびに同じ時間を過ごし、少しずつ距離を縮めてきた。
当初はどこかぎこちなさの残っていた朝陽も今では戸惑いを見せることなく、ごく自然に亜佑美をリードしていけるようになっていた。
(玄関先でこんな……)
こんなことはいけないと分かっているのに、駄目だと思えば思うほど期待してしまう自分がいて、亜佑美の中の羞恥心は募るばかりだった。
「……あさひ、くん……っ」
唇が離れ、ようやく息をつく隙ができたタイミングで亜佑美が掠れた声で朝陽の名前を呼ぶと、その声で朝陽は我に返ったように目を見開いた。
いつの間にか強く抱き締めていた腕の力を緩めると見る見るうちに表情を青ざめさせ、
「す、すみません! 俺……」
勢いに任せてしまった自分の行動を悔いるように慌てて頭を下げる朝陽。
「い、いいの。謝らないで……」
亜佑美は小さく首を横に振ると、照れくさそうに視線を逸らした。
「嫌じゃないんだけど……その……ここじゃ、さすがに……ね?」
「そうですよね。本当にすみません……。リビングへ行きましょう」
「うん」
二人は玄関を後にしてリビングへ移動するも、どこか照れ臭くぎこちない空気が流れる中、不意に朝陽のスマートフォンから着信音が鳴り響いた。
画面に表示されていた名前を見て朝陽は微かに眉を寄せた。
「……陽向か……嫌な予感しかない……」
相手は陽向のようで、明らかに嫌そうな表情を浮かべている。
「何かあった……とか?」
「あるとすれば、親父と言い合いしたとかだと思うんですよね」
「……出てあげた方がいいよ。私、その間にお風呂入っちゃうから」
「……分かりました、それじゃあ少しだけ話を聞きますね」
「うん」
亜佑美と会話を交わした朝陽はソファーに腰を下ろして通話ボタンを押す。
「……何?」
ぶっきらぼうに応じた朝陽を横目に亜佑美は浴室へ向かって行った。
陽向からの内容は朝陽が思った通りで、送り届けた陽向が一言も無く部屋へ戻るとそのことを皮切りに父親と喧嘩をしたらしく、その愚痴を聞いてほしくて電話をかけてきたのだ。
『だから帰るの嫌だったんだよ、親父、マジでうるせー』
「それは陽向を思ってのことだって言ってるじゃん。陽向は好き勝手やり過ぎ。親父が怒るのも無理ないって」
『はあ? 兄ちゃんまで親父の肩持つのかよ?』
「肩持つとかそういうんじゃないって」
いつものこととはいえ、思春期真っ只中の陽向に何を言っても逆効果なのも分かっているからこそ、呆れ半分心配半分といった様子で話に耳を傾けつつ陽向を宥めるのだった。
コメント
1件
おお、最新話読んだよ!朝陽くん、めっちゃ積極的になっててびっくりした(いい意味で!)。玄関であそこまでリードするようになるとは……亜佑美がドキドキしちゃうのもわかるわ。そこに割り込んでくる陽向の電話、タイミング悪すぎて笑ったけど、兄弟のやりとりもリアルで好きだわ。次も楽しみにしてる🔥
ひより
7,536
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
1,715
#大人ロマンス
瑠璃マリコ
49,289
重田💋(omoda)
336