夏の蝉の声が響くキャンパスで、美咲は一枚の書類を手にしていた。留学先の大学からの合格通知だった。夢に向かって進むための第一歩。だが、その紙を見つめる彼女の瞳には、喜びと同時に迷いが宿っていた。
夕方、悠真と美咲は大学近くのカフェで向かい合っていた。 「……決まったんだ。来年の春から、アメリカに留学する」 美咲の言葉に、悠真は一瞬息を呑んだ。予想していたことだったが、現実として突きつけられると胸が痛んだ。
「すごいな。夢に近づいたんだな」 「うん。でも……悠真くんと離れるのが、一番怖い」 美咲はカップを両手で包み込み、俯いた。
悠真は言葉を探した。応援したい気持ちと、離れたくない気持ちが交錯する。 「俺は……正直、寂しい。でも、美咲の夢を応援したい」 「ありがとう。でも、遠距離って、難しいよね」 「難しいけど、やってみよう。俺たちなら大丈夫だ」
その言葉に、美咲は少しだけ笑った。だが、その笑顔の奥には不安が残っていた。
夏祭りの日、二人は浴衣姿で人混みを歩いた。屋台の灯りが並び、花火が夜空を彩る。 「来年は、ここにいないんだね」悠真が呟いた。 「……うん。でも、絶対に帰ってくる。約束する」 美咲は夜空を見上げ、花火の光に照らされながら言った。
悠真はその横顔を見つめ、強く心に刻んだ。彼女を信じること。それが今の自分にできる唯一のことだった。
夏が終わり、秋が近づく頃、二人は図書館で並んで座った。かつて出会った場所。 「ここから始まったんだよね」美咲が微笑む。 「ああ。……ここでまた会えるといいな」悠真は静かに答えた。
美咲は頷き、ノートに小さく「Promise」と書いた。 「約束だよ」
離別は避けられない。だが、その約束が二人をつなぐ希望となった。 夢と恋の間で揺れる心。奈良の街に、静かな秋風が吹き抜けていた。
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