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「ダリルさんっ、ここは⁉︎」
いつ来ても変わらない。花の咲き乱れる草原のような世界に、案内役の精霊たち。
「ここは精霊たちの住む世界。俺たちの生きる世界と違う次元にあって重なり合う世界だ」
「さっぱりわかんないっすけど、綺麗な所っすね!」
うさ耳がはしゃぐ。やはり獣人種はこういうところの方が良いのか。
「誰が可愛いウサギっすか。原っぱだからって野生に帰ったりしないっすよ」
「ダリル様、行きましょう」
「ああ。エイミア。その精霊達について行けば辿り着く。先頭を譲ってやる」
「ほんとっすか⁉︎ やったっす! ふんふ〜ん!」
精霊たちがおいでおいでと誘う花園を、うさ耳はご機嫌で歩き出す。こいつは何かと前に出たがるところがあるからな。好奇心が旺盛だ。
「あっ! 綺麗なお庭っすよ! 生垣も手入れされてて素晴らしいっす! え? あそこに座っていいっすか? 先客もいるっすけど……え? いいって? やっほーい!」
「俺は精霊と話したことはないが、あいつは話せるのか?」
「獣人種はその在り方が近いのですかね? それよりも良いのですか? あのお茶会をウサギに任せて」
「まあ、たまには他人のを見るのもいいだろう。楽させろ」
あいつなら案外やり遂げるのではないかなんて思うのは贔屓だろうか。
俺たちは遠巻きにうさ耳と精霊女王のやりとりをみる。うさ耳は終始楽しげに話していて、精霊女王もそれに合わせて楽しんでいる。前回よりももう少し大きいな。
「ナツ。この中にいろ。俺もここにいるから安全だ」
「私はさほど被害は受けませんがね。でもありがとうございます」
小さな個人用の結界は俺たちふたりで満員だ。すまない、うさ耳。武運を祈る──。
「え? ちょっ⁉︎ 何なんすか! ええー⁉︎ ば、化け物っす!」
まあ、どんなに回避しようとしても結局はあいつらの溜め込んだ負のエネルギーを発散しなきゃならないから、こうなるのは確定なんだよな。今のうさ耳なら大丈夫だろう。封印は解かれたのだから。
「うわあ! 精霊たちもなんかキモいっす! ダリルさん! ヤバいっすよ、何なんすかこれ……って、何その結界みたいなのっ! ズルいっす、私も入れてっす!」
「済まない。ここは満員なんだ。というかあいつの狙いはお前だ。こっちにくるな」
「ひどいっす⁉︎ あれはっ、あれは何なんすかぁっ?」
「あれは……世界の敵だ。いわゆる魔王だな。とくにラビ種の根絶に全力を尽くすとされる悪い魔王だ。そこに現れた勇ましいラビ種の魔術士がヤツを倒すのが今回のシナリオだ。期待しているぞ」
「そんな……っ! それはやってやるしかないっす! ラビ種の未来は私が救うっすよ⁉︎」
どうやらうさ耳は元の国では希望を託された英雄なのかも知れない。などと持て囃された勘違い女子なだけかもだが。
「さすがダリルよの! 最初にあやつをけしかけてきた時はどうなるかと思ったが、おかげでスッキリとさせてもらったわ!」
「まあな。せめて互角にやれればと思ったがそこまでではなかったか。残念だぞエイミア」
そのうさ耳は今もなお魔力を使い果たして地べたにノビている。
「まあ、一個人であれだけやれたのなら、こやつも尋常ではないよの。お主の仕込んだ弟子はさすがよの」
褒められたうさ耳はノビたままに耳で喜びを表現している。器用なやつだ。
「それよりも、世界の敵とは言うに事欠いて……」
「しかし、相当に溜め込んでいたな。前に来たのはそんなに昔ではないはずだが?」
「はぁ……当然解呪が進んでくれば周りの薄いところから濃いところになってきて蓄積もそれまでの比ではないからの。そして呪いの残りがまだあそこに……ホビットの子どものところにある。トレントが斃れるのが早かったよの。まだあそこはこの花園がつながったままにしてある。この先に行ってカタをつけてくるがよい」
幼女は腕をまっすぐに伸ばして指し示した。その先には確かにエミールがいると分かる。俺がこの封印を施すに至った核心の存在。周りはどうなったとしてもエミールだけは助けたいとそう願った。
いよいよこのかつての英雄たちの狂気の負の遺産との決着をつけるときだ。
–ご挨拶。というか解説–
ちなみに、作中最初から魔獣を狼アタマとかいう表現にしていたのは、封印によって人々は一般名称を忘れているからです。俗称ですね。
なのでその影響の外であるならよくある異世界ものなどと同じ名称で語っています。まあ、そんなに名前として出てこないので気にはならないでしょうかね?