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#勧善懲悪
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夕方、公園の舞台袖。
サペは何度も胸ポケットへ手をやり、そのたびに指を引っこめていた。
封筒の角が布越しに触れるだけで、心臓の打ち方が変わる。
エリアは古い幕のほつれを結び直しながら、その様子を横目で見ていた。
「開けないの」
サペはうなるみたいに息を吐く。
「開けたら、逃げ場なくなる」
「いまでも十分ないと思うけど」
辛辣なのに、声はやわらかかった。
サペは舞台の縁へ腰を下ろす。
「中身がたいしたことなかったら、どうしようと思ってる」
「たいしたことなくても、あんたが書いたんでしょ」
「だからだよ」
自分の不器用さは自分が一番知っている。
気持ちをきれいに並べるのが苦手で、言葉はよく足りなくなる。
エリアは結び目を確かめてから、隣へ座った。
「読むか読まないかも、自分で決めな」
サペが顔を向ける。
「無理やり読ませたら、また誰かに決められたって顔するでしょ」
その言い方に、サペは少しだけ笑った。
「そんな顔してたか」
「よくしてる」
しばらく二人で黙る。
舞台の向こうでは、トルードが釘を打つ音が細かく響いていた。
エリアは続ける。
「でもさ、あんたが読まないって決めたなら、それもありだと思う」
「意外だな」
「何でも前へ進めばいいってわけじゃない。自分で決めた止まり方なら、ただの立ち止まりじゃないから」
サペは胸ポケットを押さえた。
その時、舞台の下からピットマンの声が飛ぶ。
「ズジが戻った! なんかすごい顔してる!」
ふたりが立ち上がる。
封筒はまだ開かれないままだ。
けれど、昨日までのように見ないふりで押し込められているのではなかった。
読むか読まないか。
その選ぶ権利だけは、ようやくサペの手に戻ってきていた。