テラーノベル
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体育館は、午前の光に照らされて、天井の高さが余計に遥を小さく見せていた。文化祭で開かれた舞台の前、保護者や他学年、ほかのクラスの生徒たちのざわめきが広がる。遥は舞台袖で、手のひらを握りしめて立っていた。
「さあ、次は遥くんです」
司会の声が、まるで檻の扉を開けるかのように響く。
笑い声や囁き声が舞台袖にまで届く。
「おい、遥、ちゃんと噛まずに言えるかな?」
「いや、見ものだw」
冷たい声、皮肉の笑い、隅々まで張り巡らされた視線。
誰も手を差し伸べない孤立感が、胸の奥を押し潰す。
舞台に一歩踏み出す。
光が、上から差し込む。顔が赤くなる。視線が集まる。
観客の中には、興味本位で来た顔もいる。笑顔もあるが、遥の胸には突き刺さる刃のように冷たい。
「えっと……」
言葉が出ない。声は震える。
背後の同級生たちの囁きが耳に突き刺さる。
「やめた方がいいと思う人ー」
「誰か止めてやれよ」
笑い声が重なり、遠くの観客のざわめきも、冷ややかな空気として響く。
心の中で、何度も叫ぶ。
(なんで俺なんだ……)
(どうして、俺ばかり……)
指先が冷たく震え、足元の床が硬く、逃げ出せない孤独を強調する。
舞台の上、光に晒された自分の影が、長く伸びて床に揺れる。
誰も助けてくれない。誰も理解してくれない。
その圧迫感に、胸が裂けるほど痛い。
「……あの、はじめまして……」
小さく、かすれた声を絞り出す。
でも、観客の目は冷たく、容赦なく彼を見つめる。
会場の隅で笑うクラスの連中の顔が、まるで狩りを楽しむ獣のように見えた。
舞台袖からも囁きが漏れる。
「噛んだらどうすんの」
「もうやめた方がいいと思う人ー」
その声が、LINEで見た文字の再現のように、遥の心を打ちのめす。
震える指で原稿を握る。
読むべき文字列は、頭の中で踊るだけで、意味がすぐに消える。
声を上げるたび、笑いが波のように返ってくる。
心の中で小さな声が叫ぶ。
(助けて……誰か……無理だ……)
舞台の照明に晒された瞬間、目に映るすべてが痛い。
来客の顔も、他クラスの生徒も、笑い声を浮かべている。
笑い声は柔らかくはなく、むしろ皮膚を刺すような刃になって響いた。
全身の力が抜ける。
声を出すこと自体が、拷問のように感じられる。
でも、立っているしかない。逃げられない。
「どうして、また俺なんだ……」
心の中で繰り返す。
小さく震えながらも、原稿を握る手だけは離せない。
空気は重く、観客の笑いや視線が、遥の存在そのものを否定している。
この舞台で、どんなに言葉を発しても、彼の声は“笑いもの”としてしか響かない。
それを、遥は痛いほどに理解していた。
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