テラーノベル
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楽しいパーティーは夜遅くまで続き、紫野は国雄と進と共に最後まで楽しんだ。
パーティーが終了すると、主催者の清田に挨拶をしてホテルを出た。
冷たい夜風が頬に触れると、紫野は笑顔で言った。
「風が火照った頬に心地良いです」
「存分に楽しめたようで良かったね」
「はい」
二人は、進が横付けした車に乗り込む。
帰りの車中で、国雄が紫野に尋ねた。
「女性の友達も何人かできたみたいだね」
「はい。亡き父のことを知っている方が何人かいらして、仲良くしていただきました。帰ったらお手紙を出すつもりです」
「それは良かったね。いろいろな業界に知り合いがいるのはいいことだ」
「はい」
紫野ははにかみながら頷いた。
ホテルに着くと、国雄がいつものように部屋の前まで送ってくれた。
「明日は少しゆっくりするといい。今日よりも一時間遅く迎えに行くから」
「分かりました。東京は明日で最後ですね」
「そうだね」
「不思議です。まだ東京にいたい気持ちはありますけど、でもやっぱり早く帰りたい気持ちの方が強いです」
「僕も同じだよ。じゃあ、おやすみ!」
そう言うと、国雄は紫野の頬に優しく口づけをした。
紫野は、頬をほんのり赤らめながら少し照れた様子で「おやすみなさい」と言い、扉を開けて中へ入った。
部屋へ戻った紫野は、ドキドキしながら風呂に湯を張ろうと浴室へ向かう。その時、ノックの音が響いた。
(あら? 何か言い忘れたことがあるのかしら?)
てっきり国雄だと思った紫野は、すぐに扉を開けた。しかし、そこに立っていたのはホテルの従業員だった。
「夜分失礼いたします。こちらのメモを言付かりましたので、お届けに参りました」
従業員は、二つ折りの紙を紫野に差し出した。
「どなたからですか?」
「名前を言わなくても分かると仰っておりました」
「そうですか。ありがとうございます」
紫野は礼を言い、扉を閉めてからメモを開いた。中にはこう書かれていた。
『今夜のうちにぜひ話しておきたい大事な話があります。とても大事なことなので、誰にも見られないように別に部屋を取りました。今すぐ来てください』
メモの最後に、この棟と反対側の棟の部屋番号が記されていた。
(国雄様? 今夜のうちに話しておきたい大事な話って…… 一体どんな話なの?)
わざわざ別の部屋を取って話しをしたいということは、よっぽど重要なことなのだろう。
気になった紫野は、メモをテーブルに置くと、ショールを羽織るとすぐに部屋を出た。
その頃、国雄は部屋で進と神妙な顔をして話し合っていた。
「あの蘭子という女は、相当ワルだな」
「僕もそう思ったよ。紫野に敵意をむき出しにしていたからな」
「ああ。これは、以前大瀬崎家で働いていた人から聞いた話なんだが、彼女は紫野さんのことを従姉妹だとは思わずに、使用人扱いしていたそうだ」
「その噂は僕も聞いてるよ。先代の娘にそんな態度を取るなんて……紫野のご両親が知ったら、さぞ嘆かれることだろう」
「まったくだ……」
「で、新たに分かったことがあるっていうのは、何だ?」
「うん。あの女が一緒にいたっていう男、目星がついたよ」
「誰だ?」
「今日もこのホテルにいて、彼女の部屋の隣に泊まってる。さっき彼女の後をつけたら、部屋の前で二人で立ち話をしていたよ」
「いったい誰なんだ?」
「その男は、蘭子の従兄弟、三崎真司という男だ。銀座でテーラーを経営している。蘭子の母親の弟の長男だそうだ」
「親族だったのか……」
「ああ。その男、学生時代はかなりやんちゃしてたらしくて、三崎家の中でもかなり手に余る存在みたいだ。弟たちは優秀なのに、長男だけが商才もなく、店の経営もいまひとつらしい」
「そうか。じゃあ、名目上はテーラーの経営者を名乗っていても、実質はお飾り経営者ってところか?」
「まさに、その通り! 蘭子とは似た者同士ってとこだろう」
「似てる? どこが?」
「だってそうだろう。本来なら、高倉家へ嫁に行くのは、紫野さんじゃなくて蘭子だったんじゃないか? 金の工面をしてもらうためなら経営者の娘が嫁ぐのが筋だろう? でも、あの女が拒否した。それで、紫野さんを生贄にささげたんじゃないか? 役立たずの無能な娘だから、あの男と似てるってこと!」
「なるほどな。進の推理は相変わらず冴えてるな」
「俺、この件を小説にまとめて、文学賞に応募しようと思ってる」
「お、ようやくやる気を出したか! お前のその文才は、埋もれさせておくにはもったいないからな! 応援するぞ!」
「ありがとう!」
「でも、もしその小説が賞を取ったら、お前のことを『先生』って呼ばないとな」
「あんまり茶化すなよ! 小説はあくまでも趣味なんだから。俺の生きがいは、お前をしっかり支えることと村上セメントの繁栄、その二つなんだ。親父があれだけ世話になったんだから、村上家にはしっかり恩返しをしないとな」
「ハハッ、嬉しいこと言ってくれるな。ありがとう!」
「うん。それで、蘭子とあの男が組んでいるとなると、今後も紫野さんに嫌がらせをする可能性があると思うんだ」
「俺もそれを心配してる」
「紫野さんの両親の事故に関わっている二人だ。下手すれば、命に関わるようなことにもなりかねない。だから、注意深く対応する必要があると思う」
「そうだな……」
その時、二人はハッと顔を見合わせた。そして、同時に椅子から立ち上がると、紫野の部屋に向かった。
そして、国雄が紫野の部屋の扉をノックしてみる。
しかし、中から返事はなかった。
「もう寝たのか?」
「いや、まだ部屋に戻って10分くらいしか経ってないだろう?」
「じゃあ風呂?」
「10分で湯は張れるか?」
その時、ちょうどホテルの従業員が通りかかったので、国雄は事情を説明し、部屋の鍵を開けてもらうことにした。
従業員が鍵を開け二人が部屋の中に入ると、そこはもぬけの空だった。
「こんな時間にどこへ行ったんだ?」
「おい! 国雄! ちょっと来いよ」
バスルームを覗いていた国雄が慌てて進の元へ戻ると、彼はテーブルの上にあったメモを国雄に渡した。
「これは……」
「急がないと!」
二人は再び従業員に事情を説明し、彼を連れメモに書かれていた部屋へ向かった。
コメント
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紫野ちゃん 素直過ぎ😢世の中悪意のある人沢山いるのよ😢今回は国雄様と進さんが気がついて探しに行く様だけど最悪な事態になる前に紫野ちゃんを早く助けて‼️そして悪の二人には制裁を‼️
メモが残ってて良かった〜🥺 とりあえず眠れます… 早く続きが知りたいけど…🙏
(꒪⌑꒪.)٭٭ᵎᵎヒッ部屋に居たから安心とは限らないね。いっそ国雄さんと同じ部屋なら良かった。。 まだ間に合うよね??💦怖い思いをする前に早く紫野ちゃんを見つけ出して😢