テラーノベル
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瑠衣が入浴している間に、侑はテレビのスイッチを入れた。
どこのチャンネルを選択しても、娼館の火災のニュースを大々的に報じている。
侑はチャンネルをJHKに合わせ、眉間に皺を寄せながらテレビ画面に見入った。
『昨夜二十一時頃に発生した赤坂見附の大規模な屋敷火災についての続報です』
(そうか。あそこは娼館という事を伏せてあったから、屋敷火災と報道されているワケだ……)
画面を見ながら、侑は納得するかのように腕を組む。
『意識不明の重体だった女性ですが、先ほど、死亡が確認されました。亡くなったのは、この屋敷の持ち主と見られる星野凛華さん、三十五歳です』
淡々と伝える男性アナウンサーの声に、侑は項垂れながら両手で顔を覆った。
「…………マジか」
落胆しつつ、掠れた声音で呟くと画面が切り替わり、今より若い頃のオーナーの写真が映し出されている。
『星野さんの死因は、一酸化炭素中毒によるものと見られ、この火災の犠牲者は四人目となりました。現場はまだ鎮火しておらず、消防隊による懸命な消化活動が行われております』
あの火災現場にいた者として、幾度か言葉を交わした事のある人物の死を報道で聞くのは、今の侑にも辛い。
ましてや、本当の家族が自殺してしまった瑠衣にとって、オーナーの凛華は家族のような存在だと思うし、計り知れない悲しみと辛さがあるだろう。
それが、僅か四年という短い歳月だったとしても。
『響野様。愛音…………いや、九條瑠衣の事……よろしく……お願い…………致します』
凛華が侑に遺してくれた言葉が、耳朶にこだまする。
(俺は立川音大で、アイツを教えていた時、何としてもトランペット奏者として育て上げなければ、と思っていた。それが今では、アイツの家族のような方から、九條瑠衣を頼む、と託された。アイツとの出会いは、俺にとって数奇な運命だとでもいうのか……)
侑はリモコンに手を伸ばし、傍にあった飲みかけのコーヒーを煽るとテレビのスイッチを切った。
「…………それにしても、女ってこんなに長風呂なのか?」
瑠衣がバスルームに向かってから、そろそろ一時間近くになろうとしている。
(まさか、倒れてる……なんて事ないよな……)
気になった侑はバスルームへ向かい、ドアを少し開けた時だった。
『っ……ううぅっ…………っうっ…………っ……うっ…………ううぅぅっ……』
声を殺すように、瑠衣の啜り泣く声、鼻を啜る音が漏れ聞こえてきた。
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