「——は!よくまぁ二人してぬけぬけと、僕に顔を晒せたもんだな!」
カイル達の顔を見るなり、ライジャの第一声がこれだった。
派手好きな中世貴族の様に豪奢な衣装を身に纏い、緩くカールされた深紫色の長髪を優雅に揺らしながらライジャがカイルを指差し、大声で叫んだ。蛇の様な瞳はつり上がり、怒りに燃えている。
「会いに来たのは、ライジャの方だろ」
当然のツッコミを、カイルは呆れながら返した。
「そうだったな!」
(あれ?案外素直な子なのかな?)
偉そうな態度でアッサリ認めたライジャに対し、イレイラは少し首を傾げて思った。
「まぁいい。——そんな事よりも、一体これはどういうことなんだ⁈お前は何故そんな者と結婚した!前の体が死んだと思ったら、即また生まれ変わりを呼び戻してイチャイチャしやがって!お前はライサにあんな事をしたくせに!どうしてあの子を受け入れなかったんだ!」
肩を震わせ、憎々しげな顔をライジャは前面に晒す。
「お前…… ずっと『ライサの気持ちに応えたら殺す』って連呼していたのに、何を言ってるんだ?それに、そもそも僕は最初からライサを何とも思ってない。受け入れる訳が無いよね?」
息を吐き、カイルは面倒くさいと思いながらも返事をする。無視する方が、より面倒な事態になるだろうと予測しての返答だ。
「当然だ!あんなに可愛くて美しくて可憐な妹が、お前に釣り合うものかっ。でも、そんなあの子を拒否するのは、もっと許せない!」
(あ、間違いなくこの神子、ライサのお兄さんや)
矛盾し過ぎな言葉でイレイラは納得した。こんなんじゃカイルが会うのを渋っていたのも当然だと、額に手を当てながら思う。
「あの子は、お前を愛していたんだぞ?毎日神殿まで訪れては顔を覗き見し、ありとあらゆる贈り物を捧げ、手紙を送り続け、日記だって欠かさず何時間も書いていた!あんなに毎日生き生きとしていたのに…… 今のライサといったら、もう…… 」
(え、待って。それってストーカーじゃない?)
くっと泣きそうな声を零し、ライジャが俯く。カイルは心底、『このくだらない話はいつまで続くのか』と言いたげな顔のまま黙っている。
「それなのに、それなのになぁ!最近のライサといったら、刺繍を始めたり乗馬をしたり、貴族達の茶会にまで参加するようになったんだ…… 」
「それは、大変だな。大丈夫なのか?」
(いや、待って。カイルのその返事もオカシイ。話聞いていないんじゃ?棒読みだったよね?)
「この間なんか、ダンスのレッスンをすると言い出して、教師まで呼び寄せたんだ!」
(全部素敵な趣味じゃないですか!いいじゃん、放っておけよ!むしろ喜んどけよ!)
イレイラの頭の中はライジャへのツッコミが止まらない。何が問題で彼が叫んでいるのか、全くわからなかった。
「あんな生活ばかり送るライサを、僕はもう見ていられない!何でお前らだけ幸せにすごしているんだ!不公平だっ!——僕はもう、あんな、あんなっ!」
ライジャが酷く錯乱し、髪を振り乱す。
「だから、今日はお前らに贈り物を持って来たんだ!」
(——ん?待って、私この流れ知ってる)
ライジャは口元に弧を描き、黒い笑みでポケットから石を取り出した。そしてそれをイレイラに向かい、投げつける。案の定、彼女の予想通りそれは魔法陣を込めた魔法具で、簡単に弾けた。光輝く六芒星の転移魔法陣と術式が当然の様に姿を現す。
「別世界にでも行ってしまえばいいんだ!そんな女!居なくなれば、カイルはまた愛しい妹のものだ!——腹は立つがな!」
カイルはそれらを目視すると、前回と同じく指先から黒いモヤの様なものを発生させ、魔法陣を侵食していった。打ち消された魔法陣を唖然と見つめたかと思うと、次の瞬間ライジャが叫ぶ。
「何故だぁぁぁぁ!古代魔法だぞ⁈」
——イレイラはまたもデジャブに襲われた!当然だ、もう既に一度ライサが言っている。
ライジャは酷く驚き、その場で膝から崩れる。それを見下す様な目でカイルが彼を見つめた。
「それもう、既にライサがやっている」
「…… ライサも、か?そうか、ライサも同じ事をしたのか、お揃いか…… へへへ」
バッと顔を勢いよく上げると、嬉しそうに頰染め、ライジャがカイルを見上げた。
「ホントそっくりだよね、君達って。もうさ、そんなに妹が好きならさ、一緒になっちゃえばいいのに」
(——ん?今、何を仰いました?カイルさん)
「同性婚したハクとウィルや、異種族婚した僕達の例があるんだし、今更君達が近親婚したからって誰も文句なんか言わないよ。どうせ、『神子だしね』で終わるって」
(待って!流石に近親相姦はまずくないの?え?大丈夫なもんなの?——ってか、ハクとウィルは同性婚だったのか!)
イレイラは混乱し始めてしまった。この世界がどこまでアリなのかわからないから、反応に困る。
ライジャもカイルの提案には流石に驚いたのか、完全にフリーズして動かない。キョトンとした顔をし、全く考えた事の無い発言に頭の処理が追いついていないといった感じだ。
「…… それだ!カイルっ、お前いい奴だったんだな!——好きだ!」
やっと理解出たのか、ライジャは大声をあげた。自身の心にピッタリと収まる答えを得た喜びを隠さず、興奮気味に立ち上がる。
「いいよ、今まで通り嫌いなままで。だからもう帰って?僕はイレイラとイチャつきたい」
「そうだな、すぐに帰らないと。僕の愛をライサに余す事無く全て伝えなきゃ。あぁ、ライサとの婚姻か…… あぁぁぁ!なんて素晴らしい響きだっ!」
怒りで赤かった顔は、すっかりもう希望に溢れてウットリとした表情を浮かべている。その表情は生来の綺麗な顔立ちにとてもよく似合っていた。やはり双子だ、普通にしていれば彼も、憑き物が取れた時のライサと同じくとても愛らしい顔だった。
「うん、そうだね。だから早く帰れ」
ライジャに向かい、カイルが追い払う様な仕草をする。
「そうだな!ありがとうっ。式には呼ぶから代表で挨拶してくれ。カイルは僕の心の救済者だからな!」
「断る。——ねぇ、だからもう帰って?イレイラを抱きたいから」
「じゃあな!またな!」
全然カイルの言葉を聞いていない感じしかしない。自分の言いたい事だけ、ライジャは口にしている様だ。
来た時とは一転して、ライジャが爽やかな笑顔を撒き散らす。ブンブンと子供みたいに手を振りながら、弾む足取りで彼は自分達の神殿に帰って行った。
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