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月咲やまな
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ねぐらを作るのに最適な場所を、レンタロウは探していた。
ビン底メガネがお洒落なマルレイン、10名のサキュバスらと一緒に草原を歩き回っていた。マルレインと行動することが増え、いまではレンタロウの専属秘書といった感じだ。
「あ~、もう歩くの面倒くさい!」
レンタロウは草の上に座り込み、|頭陀袋《ずだぶくろ》から飲み物を取り出した。
ホワイトゴブリンのボブ子からもらった黄色いスライムにストローを刺す。
体力回復成分をチュルチュルと喉に流し込んだ。
「どうかしました?」
ストローの刺さった紅いスライムを受け取ったマルレインが、不思議そうな顔をしている。
「ちょっと相談したいことがあるんだけど……。あのね、ここに家を建てたい。いずれ集落を作りたい!」
「ひょっとして、元いた世界に帰りたいのですか?」
「まいったな。察しがいいね……。帰りたいんだけど方法が分からなくてね。そもそも戻れるのかも怪しいところだし……」
考えるのが面倒になってきたから、ここに住んでしまおうと思っていた。
方々を歩き回ったが、人が住んでいる気配はない。
思い切って集落でも作ってみようと、レンタロウは考えたのだ。
「そういうことでしたら、すぐにご用意しますね!」
マルレインがサキュバスのリーダーたちを呼び寄せ、なにやら相談を始める。
話が終わると、10名のサキュバスがズリオチール王国のある方向へと飛び去った。
「なんだか分からないけど、ありがとう。頼むね」
憩いの時間は続かない。
空気嫁の『カタクリ子DX』に乗ったメリッサが、若草茂る斜面を滑り下りてくる。
「なあ、メリッサ。一緒に遊ぶのはいいけど、もう少し丁寧に扱いなさい」
ふぁ~い! と言いながらメリッサは、空気嫁の穴という穴に草を突っ込んでいる。
「全く人の話を聞かないメリッサに仕事を頼みたい。ズリオチール王国に飛んで、ランベルトにメッセージを伝えてほしい。その内容だけどね――」
「わかったぞ!」
伝言の内容を聞かずにぶっ飛んでいくメリッサ。
カタクリ子さんを連れてけ! やっぱり人選をミスったね……。
「良い天気ですね」
今にも泣きだしそうな空を見たマルレインが、「よっこいしょ」と言いながら、レンタロウの横に腰をおろした。
「僕は手伝わなくてもいいの?」
ヘルメットを装着した数千のサキュバスが作業をしている姿を、レンタロウはジットリと眺めていた。
「連太郎さまはゆっくりしてください。いままで通り、サキュバスの肢体をいやらしい目つきで見つめていれば大丈夫です! 鼻の下を伸ばしていれば大丈夫です!」
「はい、これからは普通に見ます……」
サキュバス軍団の仕事は早い。建材を集め、ここで組み立てる。
小さいものであれば家ごと持ってくることもある。
組織化されたサキュバスたちの動きには無駄がなく、てきぱきと作業をこなす。
ズリオチールにあったはずのサキュバスカフェの建物が姿を現した。かかった時間は60分くらい。
即効で崩れないよね……僕の家……。
メリッサも仕事が早い。
ごく短時間で用事を済ませてしまう。
さきほどレンタロウがメリッサに頼んだ任務は、ネクロマンサー『ランベルト』への言伝だった。
「伝言してきたふぉ!」
パンを咥えたメリッサが、また余計なものを連行してきたようだ。
「なんちゃってネクロマンサーをすぐ捨ててこい!」
「いやだなあ、店長。いま来たばっかっすよ?」
ランベルトは持っている木のスプーンを上下に振る。
食事中、メリッサに誘拐されたようだ。
残りのスープを飲み干すと、「俺のパンがねぇ!」と言いながら、ランベルトが辺りの様子をうかがっている。
「なんすかここ? 天国っすか? 地獄っすか?」
サキュバスカフェ、大量の建材と数千人のサキュバスを見た感想だろう。
「なんか疲れたし、行くとこないし。ここに僕の家を作ろうと思ってな」
「ってことは、俺の家もあるんすか?」
ランベルトは瞳を輝かせ、前のめりで詰め寄ってくる。
「お前の家はない。早く帰れ! ところで、マルレイン。メリッサって成人してるの?」
「性奴隷という意味ですか? だとしたら、もう立派な性人です。ムフ」
マルレインが顔を真っ赤にしながら、よくわからないことを言い出す。
「ねえ、店長。その|禍々《まがまが》しい色のスライムはなんすか?」
ランベルトが鼻をつまみながらドス黒いオーラを放つスライムを指さした。
「ボブ子にもらったんだけどな……。そのとき浮かべていたボブ子のうすら笑いが気になってな。猛毒なんじゃないかと思ってさ。変なニオイするし」
なんだか毒々しい紫色のスライムをメリッサに飲ませてみようと思ったが、性人って成人と捉えていいのかな。毒ならいいけど、アルコールだったらまずい。やめておこう。
「メリッサ、お疲れさん」
「おう! いただくぞ!」
受け取ったミルクティー・スライムを丸かじるメリッサ。
「飲め! ところで、カタクリ子さんはどうした?」
「無くしたぞ!」
「いますぐ探してこい!」
「おう! いってくっぞ!」
「やれやれ。メリッサっていつもあんな感じ?」
「そうですよ。いつも元気に飛び回っていますね」
飛び去るメリッサを眺めるマルレイン。
「移動手段として重宝しているから問題ないが」
「連太郎さまは、なぜ私が飛ばないのか聞かないのですか?」
「まあ、訳アリって感じだし、無理に聞くつもりはない。なんだ? 聞いて欲しいの?」
マルレインは、ムフっと笑うだけだった。
「お嬢!」
ひとりのサキュバスが空から舞い降りると、マルレインの前に|跪《ひざまず》く。
「こんなものが落ちていました」
サキュバスが、レンタロウに雑誌を渡した。
「連太郎さま。それはオシリを拭く紙ですか?」
レンタロウがパラパラとめくる雑誌を、マルレインが不思議そうに目で追っている。
「言ってみれば情報誌だ。トイレットペーパー代わりにしちゃダメだから。編集の人に怒られちゃうから」
サキュバスが持ってきたのは、一冊の『日刊 少年マシンガン』だった。
「もうひとつ、謎の物体を回収したのですが……」
レンタロウとマルレインの会話を聞いていたサキュバスが、白い球状の何かを差し出してくる。
「それはなんですか?」
球をイヤラシイ手つきでスリスリしながら、マルレインが興味津々の様子で聞き返してくる。
「僕がいた世界のものだ。ゴルフってスポーツに使うタマだ」
「ゴルフとは何ですか?」
首をかしげるマルレインだが、球をイヤラシイ感じでスリスリする手を止めない。
「ゴルフとは、クラブと言われる棒状の道具で止まっているボールを打って、ホールと呼ばれる“こんくらいの穴”に入れるまでの打数の少なさを競うスポーツだ」
「まあ! 穴に棒を挿入していやらしく動かすスポーツなんですね!」
昇天しそうなマルイレインの顔は、いうまでもなくマグマのように赤い。
うん。いろいろ違うね……。
恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
「ねえ、サキュバスちゃん。ボールは一個だけ?」
「山のようにあります。何か分からなかったので、ひとつだけ持ってきました」
「連太郎さま。どうかしたのですか?」
「ただのカンだけど、別の世界からいろんなものが流れ込んでいるんじゃないかと思って。空気嫁といい、ボールといい」
「連太郎さまのいた世界とつながっているとお考えで?」
「そんな気がしてるんだけど」
「これは、どこにあったの?」
ゴルフボールを頬ずりしながら、マルレインが|サキュバス《手下》を見やった。
「ゴルフボールとやらは、クララガタッタ平原です。ちなみにですが、オシリ拭きに使う“中年ジャンプ”なるものは、ワイファイ・ツカエマース村にありました」
クララガタッタ平原で、ボブ子らと一緒にスライム狩りをした。
ワイファイ・ツカエマースは、レンタロウがネコ科フェを営業していた辺境の村だ。
共にズリオチール王国にある場所だが、何かありそうだ。
ふたつの王国を追放される前に、もう少し調査をしとけば良かったと、レンタロウは後悔する。
「ねえ、マルレイン。サキュバスを何人か貸してくれる?」
「もとよりそのつもりです。総勢一万のサキュバスは、連太郎さまがお好きにお使いください。ドMなので!」
元の世界に帰る方法がわかるかもしれない。
そう考えたレンタロウは、サキュバスに調査を指示した。