テラーノベル
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#バトル
山を削り、造成が済む。
地をならし、水を引き込む。
何もなかったこの土地に、家屋などがちらほら確認できるようになった。
住居、大浴場、娯楽施設なども完成。
数こそ少ないが店もある。
サキュバスカフェ再開のメドが立ち、収入も期待できそうだ。
なぜか、建材もタダで入手できている。
おかげで銅貨1枚たりとも使っていない。
お金が貯まる一方で、レンタロウは笑いが止まらなかった。
住人も増えつつあった。
ネクロマンサーのランベルト、サキュバスカフェの常連だった七三分けのおじさん。
メリッサに誘拐されてきた、この2人は、集落が気に入ったらしい。
いつの間にか住み着いていたのだ。
「だいぶ集落らしくなってきましたね」
別の世界から飛んできたという“ズッポリ建設”と書かれたヘルメットをかぶったマルレイン。
すっかり現場監督が板についてきている。
マルレインは、いつのまにか戻ってきた空気嫁をメリッサに渡すと、草の上に腰を降ろした。
「サキュバス軍団のおかげで思っていた以上に作業が進んでいる。ほんとに助かるよ。サキュバスって働き者なんだな」
「あの子たちはムラムラすると何をするか分かりません。つねに体を動かしているのがちょうどいいんです。ところで連太郎さま。人がたくさん集まってくると食糧が必要になるのでは? 連太郎さまもムラムラするのでは?」
「ムラムラはしないって……。それはいいとして、毒キノコでも栽培するかな」
「言うことを聞かないサキュバスに毒キノコでお仕置きするのですね!」
マルレインはどこへ向かっているのだろうか。
|マルレイン《このアンポンタン》の言動はスルーしよう……。
肝心の食糧の件を忘れていた。
いままではサキュバスが食料(料理)を調達してくれた。
皿に盛られた温かい料理が次々と運ばれてきていたのだ。
どこかの家庭から奪ってきたんじゃないかと、レンタロウは思っている。
人数が増えると厳しい。
自給自足を考える時期か。
近隣諸国から食料を奪いつつ、まずはキノコやスライム栽培から始めて、いずれは田畑を作ろう。
スライムに造詣が深そうなボブ子に話を聞いてみよう。
さて、ハミデール王国から来てもらいますか。
手を挙げて、|移動手段《サキュバス》を呼んでみる。
「ヘイ! タクシー!」
いろんな穴から草が飛び出した空気嫁を抱えたメリッサが、「なんか用か?」と言いながらやってくる。
レンタロウは、名前を呼んでいない。
メリッサは、レンタロウの『椅子』兼『移動手段』だと自覚しているらしい。
「ボ__」
「おう! 行ってくるぞい!」
すぐさま、誘拐魔と書いてメリッサと読むサキュバスが飛んで行く。
いやいや。
まだ『ボ』としか言ってないんだけど……。
ボブ子を連れてくることはまずないだろう。
ほぼ100パーセント別人をどこからともなく、かっさらってくる。
メリッサは、いつか捕まるだろう。
「おい、連たん。いいもん見つけてきたぞ」
メリッサが、もう戻ってきた。
“行ってくるぞい”から“戻ったぞい”までの時間、およそ3秒。
「お前は何キロで空を飛んでるんだ? 玄関あけたら10秒でゴハン的なあれか?」
「なに言ってんだ連たん。メリッサは瞬間移動ができんだぞ。前にも言っただろ?」
「まあいいや。で、その子はだれだ?」
メリッサが、また見知らぬ人を連れてきた。
13歳前後と思しき魔法少女っぽい小柄な女の子だ。
体の大きさに合わない円錐の大きな帽子を被っている。
杖の代わりに、ピンク色をしたバールのようなものを携えている。
「ねえキミ。その格好からするに、魔法使いだよね?」
「まじゅちゅしです」
金属製の帽子が重いらしい。
少女が顔を上げるたび、後ろに大きくぶっ倒れる。
「いやいや。魔法使いだよね?」
「まじゅちゅるしです……」
「1文字増えて“つるしくび”みたいになっちゃったけど、魔法使いだよね?」
「つるしくびになった魔女っ子じるしの“まじゅちゅるし”です……」
「文字が増えちゃって、魔女裁判の死刑判決みたいになったね」
草をむしりながらのたうち回って笑うランベルト、いまにも死にそうに顔になっている。
マルレインも地面の草を引っこ抜いて大笑いしているし、魔法少女イジリはこれくらいにしておこうか。
そこのふたり!
いまは草むしりの時間じゃありませんよ!
「じゃあ、あいだをとって魔導士にしておこうか」
「手品師です……」
少女はモジモジと恥ずかしそうにつぶやいた。
あきらめて、手品師にしたようだ。
「魔法的なものは使えるの?」
少女は無言で帽子を脱ぐと、中に何も入っていないことを、レンタロウに確認させた。
「ホロッ!」と言いながら被り直した帽子を取ると、何だかわからないものがポロリと地面にこぼれ落ちた。
本当に手品師じゃねえか!
よく見ると、顔から胸までが人間の少女、下半身が鳥という体長90センチほどの物体だ。
「なにこれ? 鳥? 人間? このチビッ子はなに?」
「店長は見たことないんすか? ハーピーの子どもっすよ。ハーピーSって感じっすね」
「ハトさんを呼んだのに……。ハーちゃん……」
別のものを出そうとしたらしい。
両手で口を押え、ピクリとも動かないハーピーSを愕然と見つめる少女。
帽子内での待機時間が長かったせいか、ハーピーSは熱中症になってしまったようだ。
「心配しなくても大丈夫よ」
目をパチクリさせるヒカエメに、声をかけるマルレイン。
持ってきた塩分多めのウォーター・スライムをハーピーSに飲ませた。
「ランベルトはどう思う?」
「どうって? 鳥人間を焼くと“焼き鳥”になるのか、“日焼けした人間”になるかってことっすか?」
「ちげぇよ!」
「なんだ、魔法少女のことっすか。俺らの界隈では手品師イコール魔術師なんで。店長、魔術師をさがしてたんでしょ?」
「それはちょうどいいですね。ちっちゃくて可愛いですし、仲間に加わってもらっては?」
手際よくハーピーSの治療を施しながら、マルレインが目尻を下げる。
「そうだな。まあ、本人次第だけど」
「手品くらいしかできませんけど……」
落ち着きを取り戻した様子の少女に少し笑顔が戻ってくる。
「手品は宴会とかお誕生日会の余興にピッタリだと思います」
マルレインが胸のあたりで手を合わせ、何かを企むような表情で少女を見やる。
「行くところがないのでお願いします……」
力ない声で返答する少女の表情は、不安が溢れ出ているように見える。
今回に限って、メリッサは良い仕事をしたようだ。
「あてがないか……。住む家もあるから安心して。で、キミの名前は?」
「佐藤です。佐藤ヒカエメです……」
コーヒーに砂糖を入れる手が止まってしまいそうだ。
「私の名前を聞いて笑わないのですか?」
「控え目っていいじゃない。奥ゆかしい感じがキミにピッタリの名だと思うよ。こいつの名前なんて『ランベルト・フライドチキン』だよ? 自分がこの苗字だったら寒気がするね。おまけに鳥肌がたつね! チキンだけに!」
「ひでえっすよ、店長だって|チキン《小心者》じゃねえっすか。ところで、ヒカエメちゃんは店長と同郷っすか?」
「ニホンという国から来ました……」
女騎士のアデルが言っていた魔術師とは、この少女だったらしい。
何者かがニホンから“サトウ控えめのコーヒー”を取り寄せようとした際、ヒカエメが異世界に届いたようだ。
レンタロウと同じ“誤発送の犠牲者”だ。
「ヒカエメちゃん。一緒にお風呂にいかない?」
空気の読めるできる女、マルイレイン。
ヒカエメのきゃしゃな肩に手を置いた。
「なぜです? わたし、匂いますか……」
ヒカエメは自分の頭の有様に気づいていないらしい。
クンカクンカと鼻を動かす。
ぶっ壊れた扇風機のごとく、マルレインが高速で首を横に振っている。
「い、いや、そんなことはないよ。むしろ良い匂いしかしない。疲れているだろうから、お風呂で癒してくるといいよ。な、マルレイン?」
頭に鳥人間(ハーピーS)のフンが乗っているとは言いづらい。
「そ、そうですね……。広いので是非! はぁ~。お風呂で泳ぐのも久しぶりです! ヒカエメちゃんもお風呂で泳いでみたらどうかしら?」
動揺を隠せない様子のマルレイン。
すでに目が泳いでいる。
「頭に鳥のフンが乗っているし、風呂入ったほうがいいっすよ」
空気の読めないランベルトは逝ってよし!
頭に汚物を搭載したヒカエメと話しながら大浴場へと向かう。
「もう一度聞くけど、魔法使いだよね?」
「まじゅちゅしです……」
顔をあげた拍子に帽子の重みでぶっ倒れたヒカエメ。
様子を見ていたランベルトとマルレインが、またのたうち回って大笑いする。
そこのふたり、いまは草むしりの時間じゃありませんよ!
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