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それから約一ヶ月が経った。


撮影が終わった翌日、岳大達は東京へと戻って行った。

あの時岳大が撮影した写真は『peak hunt5』の新作カタログに使用され現在製作が進んでいた。

カタログよりも一足先にネットショップのホームページでは既に写真が掲載されていた。


実店舗の計画も着々と進んでいて、来年のオープンに向けていよいよ工事が始まった。

優羽は時々店舗工事の進み具合などをチェックしに行き、東京にいる岳大に報告していた。


優羽が『peak hunt5』の仕事を始めてからつい最近まで忙しい日々を送っていたが、最近はそれも漸く落ち着いてきた。

今はリモートでの事務作業以外は、以前のような静かな日々を送っていた。


今思い返してみると、東京出張やカタログ撮影などに明け暮れていたあの忙しい日々は夢だったのではないか? そう思ってしまうほど、あの頃は非日常な事の連続だった。

ついこの間の事なのに、妙に遠い昔の事に思えるから不思議だ。


そしてこの日、優羽はいつものようにフロントでの事務作業をしていた。

秋も深まり一般の登山客も徐々に減少して来た。これから本格的な冬がやってくる。

今後この宿を訪れる客は上級者の登山客がメインになるだろう。


そんな穏やかな日々の中、優羽は山荘のスタッフ達と楽しく仕事をしていた。

そして夕方になると流星を保育園に迎えに行き、夜は親子でたっぷりと遊ぶ。

流星は母親とゆっくり過ごせる時間が増えたのでとても嬉しそうだった。


その夜流星が眠った後、優羽は温かいコーヒーを入れて久しぶりにテラスへ出た。

外はかなり気温が低くなっている。湯冷めしないようにダウンをしっかり着込んでからテラスのテーブル席に座った。


夜空には今夜も美しい星空が広がっていた。冬に近づくにつれどんどん空が澄んでくる。

これからは更に空が澄んで星がクリアに見えるだろう。


優羽はその澄んだ空気を思い切り吸い込んだ後、淹れたてのコーヒーを一口飲んだ。

その時、携帯にメッセージが届いた。メッセージは岳大からだった。


【こんばんは。こちらの作業も一段落ついてホッと一息です。もうすぐカタログの見本誌が完成するので、届いたらそっちに送りますので最終チェックをよろしく】


優羽はメッセージを読んで微笑む。いよいよカタログが完成するようだ。


【承知しました。どんな風に仕上がっているか楽しみです】

【優羽さんも流星君もプロのモデルみたい仕上がっていましたよ。もしかしたらモデル事務所からスカウトが来るかも!】


それを読んで優羽はフフッと笑う。


【それは絶対にないです。緊張で顔がこわばっていましたから】

【いや、これはお世辞ではなくて本当に素敵に仕上がりましたよ。楽しみにしていて下さい】

【それはきっとカメラマンの腕が良かったのでしょう。楽しみにしています】


優羽がそう返信すると、少し間を置いてからまたメッセージが届いた。


【今度テレビのドキュメンタリー番組に出演する事になりました。『ネイチャーストーリーズ23』という番組ですがご存知ですか?】


優羽はそれを見てびっくりする。

『ネイチャーストーリーズ23』といえば、超一流の著名人や有名人を主役にした密着ドキュメンタリー番組だ。今までその番組に出演したのは、学者、経営者、音楽家や有名俳優、音楽家や人気アーティストなど多岐にわたる。そしてその出演者に共通する点は『自然』に接点のある人物だった。

岳大は現在写真家・登山家、そしてアウトドアショップの経営者として活動しているので自然と関りが深い。

そして活動する上で自然保護にかなり貢献している。


例えば、アウトドアショップ経営に関してはサーキュラーエコノミーを基本概念とした経営戦略を押し出し、ゴミにならずに100%土に還るTシャツ作りや素材の再生利用等、常に地球環境を意識している。

その他にも、自然を守るボランティア活動や支援活動にも力を入れている

そこが番組の趣旨と合致したのだろう。

そんな有名番組から出演依頼が来た岳大の事を、優羽は改めて凄い人なんだなと思った。


【あんな凄い番組からオファーが来るなんて凄いです! おめでとうございます!】


優羽はドキドキしながらそう返信した。

するとすぐに返信が来る。


【これまでもテレビには何度か出たことはありますが、密着っていうのは初めてなのでちょっと緊張しますね。新店舗オープンの際にも取材が入ると思うので、優羽さんも映るかもしれませんので覚悟しておいて下さい】


それを見て優羽はびっくりする。


【それは困ります。私は裏方に徹したいです】

【ずるいなぁ、それは反則ですよね。優羽さんも井上君も僕の大事な仕事仲間なんですから、皆平等に映りましょう! 絶対に映ってもらいますからね!(笑)】


その返信に思わず優羽が微笑む。

それからしばらくの間、ふたりはとりとめのないやり取りを続けた。


静かな夜にこうして岳大と他愛のないやりとりしている時間が、今の優羽にとってはこの上ない幸せな時間に感じられた。

岳大とやり取りをしていると心安らぐから不思議だ。


優羽がふと夜空を見上げると、ぎょしゃ座がくっきりと見えた。ひときわ明るいカペラが美しく輝いていた。


岳大が冬山登山で見たカペラはこんな風に見えたのだろうか?

その時優羽はふと思う。


いつか岳大と並んで冬のカペラを眺めてみたい……優羽はそんな願いをそっと心の奥にしまい込んだ。

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