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植まどか
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翠
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白子=脳みそ思ってた 😇
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第47話、読み終えました……。重かったです。 ジャラー・ウッディーンの「憎しみを生まない」という信念は、平和な時代なら間違いなく美徳ですよね。でも、戦が迫るこの刹那では、貴族たちが「弱さ」と映してしまうのも自然な流れで。両者の言い分がそれぞれ正しくて、胸が締め付けられました。 「理解したうえで受け入れられなかった」という一文が本当に効いています。次、どう転ぶのか気になります。
ジャラー・ウッディーンは、貴族たちには融和を説き、
支配層ではない者たちにも協力を求めた。
敵であっても、降れば許す。
反乱者であっても、命を奪うことを極力避ける。
それが、彼の王としての信条であった。
ある時、前王バルバンの甥であるマリクが、エンドア教徒と手を結び、
反乱を起こした。
だが、アルー・ウッディーンとザファール・カーンの働きによって、
反乱の首謀者たちはほどなく捕らえられた。
王の前に引き出された彼らを見て、誰もが処刑を予想した。
ところが――。
ジャラー・ウッディーンは、彼らの命を奪わなかった。
「王よ、なぜ、彼らを処刑なさらぬのです」
アルー・ウッディーンが、納得できぬ様子で問い詰めた。
ジャラー・ウッディーンは、しばらく黙っていた。
そして、我が子を諭す父親のように、静かに口を開いた。
「息子よ……」
王の声には、怒りも憎しみもなかった。
「そのようなことをしていては、新たな憎しみを生む」
一度、王は言葉を切った。
「そして、新たな憎しみは、また新たな反乱を生むであろう」
アルー・ウッディーンは黙り込んだ。
それが、ジャラー・ウッディーンという王であった。
また、ある時のことである。
王都デルー近郊で、千人にも及ぶ盗賊団が摘発された。
これほどの大規模な盗賊団であれば、通常ならば首謀者を処刑し、
残党も厳しく処罰するところである。
だが、王の命令は違った。
盗賊たちはベンゼン地方へ移送された。
そして、そこで生業を持って暮らすことを条件に、釈放された。
ただし――。
「王都デルーへは、二度と戻るな」
それが、王の出した条件だった。
命を奪うのではなく、生きる場所を与える。
罪を罰するだけではなく、更生する機会を与える。
ジャラー・ウッディーンは、それこそが王の務めだと信じていた。
平和な世であれば――。
彼は、慈悲深き名君として後世に語り継がれていたかもしれない。
だが。
彼が王座にあった時代は、平和な世ではなかった。
北方から、モンゴリア帝国という巨大な軍事国家が迫っていた。
国境では戦が続き、いつまた敵軍が大挙して押し寄せるかも分からない。
そんな時代にあって、貴族たちが王に求めたものは慈悲ではなかった。
威厳であり、恐怖であり、断固たる処断だった。
反乱者を許す王。
盗賊を殺さず、更生の道を与える王。
敵対する者にも、なお対話を求める王。
それは民衆から見れば、慈悲深い王であった。
しかし、戦乱の時代を生きる貴族たちの目には――。
ただの軟弱さにしか映らなかった。
ジャラー・ウッディーンの慈悲は、平和を守るための美徳だった。
だが、戦争の時代においては、
その美徳こそが彼の王権を蝕んでいったのである。
王宮の大広間。
モンゴリア軍との戦況を報告するため、各地の有力貴族たちが集められていた。
だが、その日の軍議は、いつもとは違っていた。
誰もが口を開こうとしない。
重苦しい沈黙の中、ジャラー・ウッディーンが静かに告げた。
「先日の盗賊団についてだが――」
何人かの貴族が顔を上げた。
「彼らはベンゼン地方へ移送した。王都には戻らぬことを条件に、釈放する」
その瞬間だった。
「……またですか」
低い声が、広間に響いた。
発したのは、老貴族の一人だった。
王の前であるにもかかわらず、その声には隠しきれない苛立ちが滲んでいる。
「何か問題があるか?」
ジャラー・ウッディーンが尋ねた。
「問題など、ありすぎます」
老貴族は一歩前へ出た。
「千人もの盗賊ですぞ。千人です。それを捕らえておきながら、
首を刎ねるどころか、土地まで与えて放逐するとは……」
「土地を与えたのではない。生きる機会を与えたのだ」
「同じことでございます!」
別の貴族が声を上げた。
「罪を犯せば許される。王に逆らっても殺されぬ。
反乱を起こしても命だけは助かる――」
その言葉に、広間のあちこちから小さなざわめきが起こった。
「それでは、何をしてもよいということではありませんか」
「反乱者を許せば、次の反乱を招きますぞ」
「敵は我らの慈悲など理解しませぬ!」
次々と声が上がった。
ジャラー・ウッディーンは、それを黙って聞いていた。
やがて、一人の若い貴族が口を開いた。
「陛下は、お優しすぎるのです」
その言葉に、広間が静まり返った。
「今は平和な世ではございませぬ」
若い貴族は王を真っ直ぐに見つめた。
「北ではモンゴリア軍が、我らの領土を狙っております。
国境の兵士たちは、今日にも死ぬ覚悟で戦っている」
「それがどうした?」
「その兵士たちに、何と申せばよいのでしょう」
若い貴族の声が、次第に強くなる。
「敵と戦え。命を懸けて国を守れ――そう命じておきながら、
王は反乱者を許し、盗賊まで生かしておられる」
「……」
「それでは、兵士たちは何を思いましょう」
沈黙。
誰もが王の答えを待った。
その時だった。
「口を慎め!」
鋭い声が飛んだ。
ザファール・カーンだった。
「陛下が慈悲を示されたことを、弱さと申すか!」
「では、何と呼ぶ?」
若い貴族も引かなかった。
「この国が戦火に包まれている時に、罪人を許すことを、何と呼べばよい!」
「それでも――」
「もうよい」
ジャラー・ウッディーンが手を上げた。
ザファール・カーンは口を閉じた。
王は貴族たちを見渡した。
「そなたたちの言いたいことは分かっている」
静かな声だった。
「敵を恐れているのではない」
王は続けた。
「国が壊れることを恐れているのだ」
誰も答えなかった。
「だが、憎しみだけで国を治めれば、敵を倒す前に我ら自身が敵になる」
王はそう言って、玉座から立ち上がった。
「私は、それを恐れている」
しかし――。
その言葉を聞いても、貴族たちの表情は晴れなかった。
むしろ、何人かは目を伏せ、互いに顔を見合わせていた。
彼らには、王の言葉が理解できなかったのではない。
理解したうえで――。
受け入れられなかったのである。
今、この国に必要なのは慈悲ではない。
そう、彼らは考えていた。
必要なのは、敵を震え上がらせる王。
反乱者を容赦なく処刑する王。
そして、モンゴリア帝国に対して一歩も退かぬ王だった。
ジャラー・ウッディーンの慈悲は、少しずつ――。
王と貴族たちとの間に、深い溝を作り始めていた。
そして誰よりも王を理解していた男たちでさえ、
その慈悲を最後まで受け入れることはできなかった。