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蘭子の自己紹介を受けて、国雄が紫野に尋ねた。
「ということは、紫野の従姉妹?」
国雄が紫野のことを呼び捨てにしたので、蘭子は一瞬いぶかしげな表情を浮かべた。
「はい、そうです。蘭子様、お久しぶりです」
「あら、紫野さん、久しぶりね! 未亡人になった後、どこへ行ったのかと思っていましたけど、こんなところでお会いするとは驚きましたわ! お元気そうね 」
「はい、おかげさまで……」
びくびくしている紫野を見て、国雄が二人の会話に割って入った。
「彼女は今、私の家におりますので、どうぞご安心ください」
国雄が紫野の居場所を告げると、蘭子は大げさに驚きながらこう返した。
「まあ、 国雄様のお宅で? なんということでしょう! ご迷惑をおかけして……」
「迷惑なんかじゃありませんよ。彼女はとても良く働いてくれていますから」
その言葉を聞き、蘭子は『やっぱり』といった表情を浮かべた。彼女は紫野が村上家で使用人として働いていると思ったようだ。
「それは良かったですわ。でも、ほら、あんなことがあったでしょう? いろいろな噂もありましたし、ご迷惑じゃ……」
「噂?」
「はい。紫野がお金目当てで結婚したとか、夫を毒殺したとか? それはもう恐ろしい噂ばかり……」
蘭子のあまりにもストレートな物言いに、紫野は深く傷ついた。ようやく忘れかけていた嫌な思い出が、再びよみがえってくる。
しかし、国雄はハハッと笑いながら答えた。
「まるで今流行りの探偵小説のようですね。でも、彼女はそんな人間じゃないですから、ご心配なく!」
「あら、そうですか? この子、取り入るのが上手だから、国雄様は騙されているだけですわ。くれぐれもお気をつけくださいませ」
蘭子の言葉を聞き、国雄の瞳が一気に険しくなった。
「一体何に気をつけるんでしょう?」
「ふふっ、もちろん二人目の犠牲者が出ないようにですわ! 身辺には十分お気をつけくださいと申したまでです」
「それには及びませんよ」
「あら、随分と自信を持っていらっしゃるのね?」
「もちろんですよ。彼女は私のフィアンセなんですから」
国雄の言葉を聞いた蘭子は、一瞬自分が聞き間違いをしたのかと思った。しかし、その意味をはっきり理解すると、紫野の手元に視線をやり、左手の薬指に輝いているアメシストの指輪を見て愕然とした。
「まさか……」
「そう。そのまさかです。私たちは婚約しました。彼女は僕にとって大事な人ですから、もしこれ以上彼女を貶めるようなことを仰るなら、今後、大瀬崎家とは一切関わりを持たないよう両親に伝えますが、それでもいいですか?」
「そ、それは困ります! うちの母は村上の奥様と仲良くさせていただいておりますし、父だって地元の経営者の会で親しくさせていただいているんですもの……」
「そうでしたね。では、今後紫野に関する悪い噂は流さないと誓っていただけますか?」
「そっ、それは……」
「できませんか?」
追い詰められた蘭子は、必死に考えを巡らせる。町一番の名士である村上家と疎遠になることは、会社を営む大瀬崎家にとって大損害になりかねない。つまり、蘭子の今後の行く末まで左右されることになるのだ。それだけは避けたかった。
「わ、分かりました……。でも、私が紫野のことをあまり良く思っていないという事実だけは否定しないでくださいね。この子は本当にあざとい子なんですから……」
その時、突然声が響いた。
「もう、その辺りでやめておいた方がいいのでは?」
声の主は進だった。進は車を駐車場へ停めてから、遅れて会場に入ってきたところだった。
「大瀬崎様、あちらでお友達が待っていらっしゃいますよ?」
進が会場の隅を指差すと、数名の若い女性が蘭子に向かって手を振っていた。いつも蘭子の周りにいる取り巻きメンバーだ。
「あ、あら、すっかりお待たせしちゃって……では、これで失礼いたしますわ。ごきげんよう!」
蘭子は少しバツの悪そうな笑顔を見せると、逃げるようにその場を後にした。
蘭子の姿が見えなくなると、国雄が言った。
「助かったよ、進!」
「ちょうどいいところへ来てよかったよ。それにしても、あれはひどいな。紫野さん、彼女は君に対していつもあんな感じなの?」
「あ……はい……」
本当はもっとひどいと言いたかったが、紫野はあえて言わなかった。
「女の嫉妬は怖いねぇ」
「嫉妬?」
進の言葉に、紫野が聞き返す。
「そう。彼女は、国雄と結婚したがっていたんだよ」
それを聞いた紫野は、以前、蘭子が国雄との見合いを母親に頼んでいたことを思い出した。
「そうでしたか」
「うん、なあ? 国雄」
「うちの母親に何度も見合いをとしつこかったらしい。もちろん、断ったけどね」
「あんな女なら、やめといて正解だ」
「ははっ、確かに」
その時、会場内に音楽が流れてきた。舞台の上では生演奏が始まっている。曲はワルツだった。
「お? ダンスパーティーの始まりか?」
「そうみたいだな。紫野、踊れるかい?」
突然そんなことを聞かれた紫野は、驚いて目を見開いた。
「ダンスは女学校で習いましたが、上手く踊れるかどうか……」
「踊ったことはあるんだね。よし! 僕がリードするから、一緒に踊ろう!」
「えっ?」
急なダンスの誘いに、紫野はかなり戸惑っていた。
「紫野さん、行っておいで! 国雄が踊りたいなんて言った相手は、紫野さんが初めてだよ!」
「でっ、でも……」
「さあ、行こうか、紫野!」
国雄はそう言うと、紫野をエスコートしながら、会場の中心へと進んだ。
同じように、他にも何組かのカップルが集まってきた。
国雄は、左手で紫野の手を握り、右手で彼女の背中をしっかりと支えると、耳元でこう囁いた。
「僕に任せて。君は基本のステップを踏むだけでいいから」
「は……はい……」
紫野はコクンと頷き、国雄に身体を委ね音楽に合わせてステップを踏み始めた。
国雄のリードは見事なもので、紫野は優雅にダンスのステップを踏んでいた。
最初は恥じらいと緊張でぎこちない動きをしていたが、曲が進むにつれ、徐々に身体が軽くなり、自然にリズムに乗り始めた。
「そうそう、その調子!」
国雄は笑顔で紫野を励ました。
その笑顔に勇気をもらった紫野は、徐々に緊張が解けていき、心からダンスを楽しめるようになっていた。
二人の優雅で軽やかなダンスは、観客たちを瞬く間に魅了していった。
「まあ! なんてお似合いのカップルだこと!」
「本当に素晴らしいわ。とっても絵になるお二人!」
「ふふっ、フィアンセの方はなんて愛らしい方なんでしょう」
観客たちからは、次々に賞賛の声が漏れ始める。
もちろん、先ほど二人が挨拶した清田社長も、目を細めながら二人のダンスを楽し気に見守っていた。
一方、入口付近にいた蘭子だけは、悔しそうに紫野を睨みつけながらその場から姿を消した。
コメント
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ひどい言葉を浴びせて紫野ちゃんを貶めようとしたけどかえって自分の立場が悪くなった蘭子💢あなたの品性が疑われてますよ💢 でも国雄様と進さんに紫野ちゃん守ってもらえて良かった^_^それにダンス🎵も 軽やかに二人で踊って嫌な事忘れてパーティ楽しんでね 蘭子‼️これ以上意地悪やめましょうね
國雄ちゃんの"フィアンセ”発言からの暴言吐いた乱子に何も言わせない、強さ言葉選びが本当に素敵✨️乱子は自分の愚かさと醜さに気がつくこともなく、退場(監獄)だろうなぁ。取り巻も乱子の家の財産なくなったら、いなくなるのだろうなぁ😂😂そして、進ちゃんさすがよ!出来る秘書だわ✨️ダンスの踊れる2人にうっとり♡
流石蘭子国雄さんの前で紫野ちゃんを卑下して更に恥かいて,トドメは般若の様な顔を2人に向けて!