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大学の講義中、隣に座っている美里が話しかけてきた。
「ねえ、皐月…」
「…何?講義中だよ」
「あの…楽な自殺の方法ってなんだと思う?」
「…はぁ??え?本気…?」
予想外の質問に、私は顔をしかめる。まさか大学の講義中に、こんなことを聞かれるなんて。
美里は引かれていると思ったのか、慌てて言葉を付け足した。
「あ、違うよ?なんとなく気になっただけ。皐月、前そういうの調べてたじゃん」
「確かに調べたけど…」
「それ、教えてくれない?」
「何に使うわけ?」
「…さあ?秘密。」
「ええ〜…」
(まあ、いいか。美里ってこういう時、教えるまでうるさいし…)
「別にいいけど…」
「やった!ありがとう♡」
(…あれ?)
美里の目は、笑っていなかった。口元は笑っているのに、瞳の奥は暗く沈んでいるように見えた。
私は違和感を感じたが、何も言わなかった。どうせ、くだらないことで悩んでるんだろうと思って。
けれど、それは間違いだった。
この時点で、美里の話を聞いてあげればよかったんだ。
*
__翌日。
美里は大学に来なかった。
病院に運ばれたそうだ。
私の話した通りに、7階建てのマンションから飛び降りて。
地面に叩きつけられた時の大きな音で、異常なことが起きていると気づいた住民が、救急車を呼んだらしい。
幸い足から落ちたので、命は助かった。
まだ目覚めていないらしい。
私は大学の講義後、美里が入院した病院にお見舞いに行った。
意を決して、引き戸を開ける。
静かな病室に、モニターの無機質な音が響いていた。
体中に巻かれた包帯が、潰れた足が、とても痛々しい。
__
少し時間が経ち、美里はゆっくりと瞼を開けた。意識を取り戻したのだ。
しかし、私を見るなり美里はベッドのシーツを握りしめ、憎しみのこもった目を向けて言った。
「嘘吐き…死ねなかったじゃん。あんたのせいで死ねずにこんな身体になっちゃった!!出て行ってよ…!」
その声は、聞き取れないほど掠れていた。
それ以来、美里には会えていない。
ラインもいつの間にかブロックされていた。
今、美里が生きているのか、死んでいるのかも分からない。ただ、美里のあの目が、あの掠れた声が、私の脳裏に焼き付いて離れない。