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#一次創作
柘榴とAI

252
#bl
Maみむめ 。
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32
第6話 富士クライム
登場人物
遠野カケル
十八歳のピークランナー。
短く切った茶色の髪は少し跳ねており、黄緑の競技ジャケットと灰色の競技パンツを着用している。
細身ながら脚は引き締まり、腰には補給水と緊急発信器を装着。
胸のゼッケンは七番。
桐谷ソウマ
二十歳のピークランナー。
短い灰色の髪を立たせ、黄色の競技ジャケットを着ている。
カケルより少し背が高く、肩から脚までしっかり鍛えられている。
胸のゼッケンは四番。
久瀬リョウ
二十六歳の人気ピークランナー。
灰色の短髪に鋭い目つき。
紫の競技ウェアと薄手の登山グローブを身につけている。
無駄なく鍛えられた体格で、胸のゼッケンは一番。
牧原セナ
二十二歳のピークランナー。
茶色の髪を短いポニーテールにまとめ、緑とベージュを組み合わせた競技ウェアを着ている。
小柄で身軽な体格。
胸のゼッケンは十三番。
志戸ユウ
二十四歳のピークランナー。
短い茶色の髪と細い目が特徴。
灰色と緑を組み合わせた競技ウェアを着用している。
やや小柄で、細かなモビリティ操作を得意としている。
胸のゼッケンは九番。
御崎レイ
二十九歳のピークランナー。
長めの茶色の髪を後ろで束ね、灰色と紫を組み合わせた競技ウェアを着ている。
長身で脚が長く、姿勢をほとんど崩さず走る。
国内主要クライムで何度も上位へ入っている実力者。
胸のゼッケンは二番。
成瀬トウマ
二十五歳のピークランナー。
短い茶色の髪に太い眉。
緑の競技ジャケットを着ており、腕や脚が太く鍛えられている。
長い急登を得意とする。
胸のゼッケンは六番。
峰岸タクト
三十四歳の実況担当。
柔らかく整えた茶色の髪に緑の中継ジャケットを着ている。
細いフレームの眼鏡をかけ、巨大な中継画面と順位表示を交互に確認している。
春木ミナ
三十二歳の解説担当で、元ピークランナー。
肩まで伸びた灰色がかった髪を後ろで束ね、ベージュのジャケットを着ている。
普段は穏やかな目元だが、今日はスタート前から画面へ視線を固定している。
◆
午前六時十分。
カケルはスタートエリアへ続く通路の途中で立ち止まった。
人。
人。
人。
まだスタートまで一時間以上ある。
それなのに、観客席はすでに埋まり始めていた。
遠くの街にも大会旗が並ぶ。
宿泊施設。
飲食店。
駅前。
道路沿い。
どこを見ても富士クライムの表示がある。
モビリティスポンサーの巨大看板が建物を覆い、中継用の機器があちこちで動いていた。
カケルが息を吐く。
「高尾と全然違う」
「そりゃそうだろ」
後ろからソウマが来た。
黄色の競技ジャケット。
胸には四番。
カケルの隣へ立ち、観客席を見上げる。
「富士だから」
「説明になってない」
「国内最大級」
「それは知ってる」
「じゃあ説明終わり」
ソウマが歩き出す。
カケルも追う。
選手エリアへ入ると、さらに空気が変わった。
見たことのある顔が多い。
大会映像で何度も見た選手。
ランキング上位。
地方クライムの優勝者。
長距離型。
高速型。
悪路型。
得意分野の違うピークランナーが集まっている。
その中央。
一番の久瀬。
二番の御崎。
六番の成瀬。
九番の志戸。
十三番のセナ。
カケルが足を止めた。
「本当にいる」
ソウマが横を見る。
「誰が?」
「御崎レイ」
「いるよ」
「動画で見た」
「俺も」
「成瀬トウマもいる」
「いる」
「久瀬さんも」
「いつもいるだろ」
「なんか今日だけ豪華に見える」
久瀬が振り返った。
「聞こえてるぞ」
カケルの肩が跳ねる。
久瀬が笑う。
「私だけ扱いが雑じゃないか?」
「そういう意味じゃないです」
御崎が隣で靴紐を締めている。
顔を上げた。
「君が遠野?」
「はい」
「写真判定の子」
カケルが固まる。
ソウマが吹き出した。
「有名になってる」
「そこ?」
御崎が立つ。
「五戦連続だったかな」
「はい」
「今日は離した方がいい」
「離します」
ソウマが横から口を挟む。
「前回も俺と四センチです」
「自慢する差じゃない」
「勝ちは勝ち」
久瀬が笑った。
成瀬は会話へ入らず、黙って屈伸している。
太い脚。
一度立つ。
また沈む。
カケルが見ていると、成瀬が顔を上げた。
「最後、脚残しとけよ」
「え?」
「富士は最後が長い」
それだけ言う。
再び屈伸。
カケルは山を見上げた。
午前七時二十分。
大型画面が点灯する。
観客席から歓声。
全国へ向けた中継も始まった。
さあ!
今年もこの日がやってきました!
国内登峰競走を代表する大会!
富士クライム!
観客の声がさらに大きくなる。
出走ピークランナー、四十八名!
地方大会優勝者!
年間ランキング上位!
歴代富士クライム好走者!
優勝候補が勢ぞろいです!
大型画面にオッズが表示された。
一番 久瀬リョウ 3.6倍。
二番 御崎レイ 4.1倍。
六番 成瀬トウマ 5.4倍。
四番 桐谷ソウマ 6.2倍。
七番 遠野カケル 7.5倍。
九番 志戸ユウ 10.8倍。
十三番 牧原セナ 14.6倍。
カケルが数字を見る。
「七・五」
ソウマが横から覗く。
「高くなった」
「前より人気落ちた?」
「違う。強いのが多すぎる」
なるほど。
カケルが上を見る。
一番人気でも三倍を超えている。
本日は人気も割れています!
誰が勝ってもおかしくない!
これが富士クライムです!
コース映像へ切り替わる。
長い。
カケルは思わず画面を目で追った。
序盤の舗装区間。
森林区間。
火山礫を含む高所区間。
急登。
さらにその先。
ゴール。
富士クライムは総合力が問われます!
高速モビリティだけでは勝てない!
悪路だけでもない!
徒歩能力!
機体選択!
高所での体力管理!
そして長い競技時間をどう組み立てるか!
どれか一つだけが得意でも、山頂には届きません!
カケルが補給水へ触れる。
高尾。
筑波。
大山。
阿蘇。
八ヶ岳。
今まで覚えたもの。
全部。
今日は使う。
午前七時三十分。
スタート位置。
四十八人が並んだ。
カケルは七番。
左にソウマ。
前方に久瀬。
御崎。
成瀬。
少し離れて志戸。
セナ。
静かだった。
あれだけ騒がしかった観客席まで、一瞬だけ声を潜める。
五。
カケルが前を見る。
四。
ソウマが腰を落とす。
三。
久瀬が息を吐く。
二。
成瀬が一歩前へ重心を置く。
一。
号砲。
富士クライム、スタート!
四十八人が飛び出した。
カケルも走る。
一気に前へ。
だが。
「速っ」
いつもと違う。
前へ出られない。
全員速い。
地方大会なら先頭へ入れる速度。
今日は十位。
九位。
そこから上がらない。
序盤から速い!
さすが富士クライム!
第一モビリティステーションまでの徒歩区間から位置取り争いです!
久瀬。
御崎。
成瀬。
三人が先頭。
ソウマが五位。
カケルは八位。
第一ステーション。
高速型が大量に並ぶ。
カケルは新型へ行かない。
旧型の細身二輪。
八ヶ岳で覚えた。
速さだけを見ない。
ソウマは新型。
久瀬も。
御崎は旧型。
発進。
舗装路。
新型組が一気に前へ。
ソウマが二位まで上がる。
カケルは七位。
それでも焦らない。
前方に大きな曲がり道。
ソウマが減速。
久瀬も。
カケルは少し遅めに入る。
小さく曲がる。
加速。
差が縮む。
七番、遠野!
最高速度を抑えた機体で安定しています!
八ヶ岳の経験でしょう!
カケルが前を見る。
「覚えてますよ」
誰にも聞こえない声で呟いた。
第二ステーション。
森林路。
カケルは悪路型へ。
今度は新型。
幅を見る。
狭すぎない。
路面を見る。
木の根が多い。
乗る。
発進。
段差を越える。
速い。
ここでは合う。
志戸が横へ来た。
「今日はちゃんと見てる」
「見てるよ」
「機体じゃなくて?」
「道も」
志戸が少し笑う。
二人が並ぶ。
前方。
御崎。
軽量型。
久瀬。
悪路型。
成瀬は徒歩。
「え?」
カケルが成瀬を見る。
まだ序盤。
なのに走っている。
六番、成瀬!
モビリティを使いません!
得意の徒歩!
ただし富士は長い!
序盤から脚を使って大丈夫でしょうか!
成瀬は一定の速度。
速すぎない。
遅くもない。
カケルの機体が横を通る。
成瀬は見ない。
ただ走る。
第三ステーション。
ここから長い登り。
カケルは登坂型へ。
ソウマも。
志戸は徒歩。
成瀬も徒歩。
御崎は軽量型。
久瀬は登坂型。
カケルが発進。
順位が上がる。
六位。
五位。
四位。
成瀬を抜く。
三位。
先頭、久瀬!
二位、御崎!
三位、遠野!
カケルが息を吐く。
まだ余裕。
機体が登る。
長い坂。
一定。
その横。
足音。
成瀬。
徒歩なのに。
追いついてくる。
「え?」
成瀬が横へ。
カケルを見る。
「速すぎる」
「俺?」
「機体」
成瀬が前へ出る。
カケルが速度表示を見る。
確かに速い。
でも機体だ。
自分は楽をしている。
成瀬は走っている。
なのに。
なぜ。
第四ステーション。
成瀬は補給水を取る。
一口。
走る。
カケルも降りる。
補給。
ソウマが後ろから来た。
「成瀬さん何してんの?」
「ずっと走ってる」
「知ってる」
「なんであれで速いの?」
「富士得意だから」
説明になっていない。
だが成瀬はもう遠い。
中間地点!
先頭集団は七名!
一番久瀬!
二番御崎!
六番成瀬!
七番遠野!
四番桐谷!
九番志戸!
十三番牧原!
人気上位がほぼ残っています!
七人。
カケルが周囲を見る。
全員いる。
こんなレースは初めてだった。
いつもなら中盤で差が出る。
今日は出ない。
一度前へ出ても。
戻ってくる。
誰も消えない。
第五ステーション。
長い舗装区間。
高速型。
カケルは乗る。
久瀬も。
ソウマも。
御崎も。
志戸も。
セナも。
成瀬だけ。
乗らない。
「また?」
カケルが発進。
成瀬を抜く。
大きく離す。
十秒。
二十秒。
後ろへ消える。
七番、遠野が先頭へ!
新型高速機ではありませんが、安定した速度!
一番久瀬が追う!
四番桐谷も来る!
カケルが走る。
風。
振動。
前だけを見る。
先頭。
全国中継の順位表示。
七番。
遠野カケル。
街の大型画面にも同じ数字。
全国の投票端末にも。
実況席の画面にも。
カケルは知らない。
ただ走る。
高速区間終了。
乗り捨て。
走る。
久瀬も。
ソウマも。
御崎も。
志戸も。
セナも。
そして。
後方。
成瀬が来る。
一定。
まだ来る。
残り六キロ!
ここから富士クライムの本番と言っていいでしょう!
高所区間!
火山礫を含む不安定な足場!
長い急登!
モビリティの性能も落ちやすく、ピークランナー自身の体力が問われます!
カケルが走る。
息が少し重い。
さっきまで楽だった。
急に脚へ重さが来る。
ソウマも呼吸が荒い。
久瀬はまだ一定。
御崎も。
志戸も。
成瀬。
変わらない。
六番、成瀬が上がってきた!
序盤から速度をほとんど変えていません!
これは温存していたのではありません!
最初から最後まで、この速度で行くつもりです!
成瀬がセナを抜く。
志戸へ。
抜く。
ソウマ。
並ぶ。
抜く。
カケルの背後。
「来た」
カケルが呟く。
成瀬が横へ。
「脚、残ってる?」
カケルは息を吐く。
「たぶん」
「たぶんじゃ足りない」
成瀬が前へ。
カケルは追う。
一歩。
二歩。
追いつけない。
第六ステーション。
悪路型。
成瀬は乗らない。
カケルは迷う。
乗る。
志戸も。
久瀬も。
御崎も。
ソウマは徒歩。
発進。
カケルが成瀬へ追いつく。
抜く。
「今度はこっち」
成瀬は返事をしない。
だが。
二百メートル。
路面が深くなる。
車輪が沈む。
速度低下。
カケルがアクセルを抑える。
阿蘇で覚えた。
空転させない。
それでも遅い。
成瀬が横を走る。
また抜かれる。
「またか!」
成瀬が少し笑った。
カケルも笑う。
機体を捨てた。
走る。
七番、乗り捨て!
故障ではありません!
ここから徒歩!
カケルが成瀬を追う。
残り四キロ。
先頭。
成瀬。
二位、久瀬。
三位、カケル。
四位、御崎。
五位、ソウマ。
志戸。
セナ。
差はまだ小さい。
しかし全員の呼吸が変わっている。
カケルの脚が重い。
太ももが張る。
補給水。
少し飲む。
走る。
次のステーション。
小型登坂型。
カケルは見る。
成瀬は通過。
久瀬は乗る。
御崎も。
ソウマも。
志戸も。
カケル。
手を伸ばす。
止める。
走る。
七番も乗らない!
成瀬と同じ選択!
カケルは成瀬の背中を見る。
真似ではない。
自分の脚。
残っている。
機体へ乗る時間。
降りる時間。
ここからの地形。
考えた。
走った方がいい。
カケルが追う。
久瀬たちの機体が一度は前へ。
だが急坂。
速度低下。
カケルが追いつく。
ソウマを見る。
「降りた方が速い!」
「分かってる!」
ソウマが飛び降りる。
久瀬も。
御崎も。
全員徒歩。
残り三キロ!
ここで先頭集団は五人!
六番成瀬!
七番遠野!
一番久瀬!
二番御崎!
四番桐谷!
カケルが呼吸を整える。
全国が見ている。
そんなことは、もう頭から消えていた。
目の前。
成瀬。
その向こう。
道。
足元。
石。
一歩。
また一歩。
御崎が前へ出る。
長い脚。
一定の歩幅。
久瀬が追う。
ソウマも。
五人横並び。
残り二キロ。
観客の声が聞こえ始める。
高所の観戦エリア。
大型画面。
中継機。
山頂のゴール設備。
まだ遠い。
最終モビリティステーション!
ここで使えるのは軽量登坂型!
残り一・六キロ地点まで使用できます!
選択が分かれます!
久瀬。
乗る。
御崎。
乗る。
ソウマ。
乗る。
カケル。
見る。
成瀬。
走る。
カケルは。
乗った。
六番は徒歩!
七番はモビリティ!
ここで別れました!
カケルが加速。
成瀬を抜く。
久瀬へ。
並ぶ。
御崎。
ソウマ。
四台。
カケルが前へ。
先頭!
残り一・六キロ!
機体使用可能区間終了!
カケルが飛び降りる。
走る。
脚を地面へ。
その瞬間。
重い。
「っ……」
思ったより動かない。
モビリティから徒歩へ切り替えた直後。
脚の感覚が鈍い。
久瀬も少し遅れる。
御崎も。
ソウマも。
後方。
足音。
成瀬。
ずっと走ってきた脚。
切り替えがない。
そのまま。
四人を抜く。
六番、成瀬!
ここで先頭!
モビリティを使わなかった!
速度を落とさず、そのまま最終急登へ!
カケルが歯を食いしばる。
追う。
脚が戻る。
一歩。
二歩。
残り一キロ!
成瀬!
遠野!
久瀬!
御崎!
桐谷!
五人!
カケルが近づく。
成瀬との差。
八メートル。
六。
五。
成瀬が振り返る。
「残ってたな」
「たぶんじゃ……なかった!」
カケルが並ぶ。
成瀬が笑う。
「じゃあ来い」
二人が前へ。
久瀬も。
御崎も。
ソウマも。
残り七百!
カケルの呼吸が崩れる。
成瀬はまだ一定。
速くなったのではない。
周りが遅くなった。
それでもカケルは離れない。
六百。
五百。
山頂の歓声が大きくなる。
カケルの名前。
成瀬の名前。
久瀬。
御崎。
ソウマ。
いくつもの声が混ざる。
残り四百!
久瀬が上がる!
一番、久瀬!
ここで経験を見せる!
久瀬が並ぶ。
三人。
御崎も来る。
四人。
ソウマは五メートル後方。
残り三百!
御崎が一歩前。
久瀬が追う。
成瀬。
カケル。
カケルの脚が止まりそうになる。
成瀬の言葉。
最後、脚残しとけよ。
残っている。
少しだけ。
全部使う。
カケルが腕を振る。
一歩前。
御崎へ並ぶ。
残り二百!
七番、遠野!
二番、御崎!
六番、成瀬!
一番、久瀬!
四人!
観客席が立ち上がる。
残り百!
カケルが前。
御崎が並ぶ。
成瀬が来る。
久瀬も。
ソウマも後ろから迫る。
五十!
カケル。
成瀬。
御崎。
三十!
成瀬が一歩前!
二十!
カケルが追う!
十!
二人!
五!
カケルが身体を前へ。
成瀬も。
ゴール。
花火が上がる。
山頂が歓声で揺れた。
カケルは数歩進んだ。
止まれない。
膝をつく。
そのまま地面へ手を置いた。
成瀬も横で座り込む。
数秒後。
御崎。
久瀬。
ソウマ。
次々とゴール。
実況が響く。
写真判定!
富士クライムまで写真判定!
七番、遠野カケル!
六戦連続です!
カケルが顔を上げる。
息を切らしながら笑った。
「もう……いいよ……」
成瀬も笑う。
「すごい才能だな」
「いらない……」
大型画面。
ゴール映像。
六番。
七番。
拡大。
線。
さらに拡大。
全国の観客が待つ。
山麓の街。
観戦会場。
投票施設。
家庭の画面。
すべてが同じ瞬間を見る。
判定。
一着。
六番。
成瀬トウマ。
二着。
七番。
遠野カケル。
差。
二センチ。
判定!
一着、六番!
成瀬トウマ!
富士クライム初優勝!
二着、七番、遠野カケル!
わずか二センチ!
成瀬が両手で顔を覆った。
数秒。
そのまま動かない。
やがて立つ。
拳を上げる。
歓声が爆発した。
カケルは地面へ座ったまま大型画面を見る。
二センチ。
ソウマが後ろから来る。
「二センチ」
「言うと思った」
「前回四センチ」
「半分になった」
「次は一センチ」
志戸も遅れてゴールし、横を通る。
「もう阿蘇でやった」
「じゃあ次は?」
セナが到着する。
「同着じゃない?」
カケルが首を振る。
「ちゃんと勝ちたい」
久瀬が笑った。
「それが一番難しそうだな」
確定順位です!
一着、六番、成瀬トウマ!
二着、七番、遠野カケル!
三着、二番、御崎レイ!
四着、一番、久瀬リョウ!
五着、四番、桐谷ソウマ!
六着、九番、志戸ユウ!
七着、十三番、牧原セナ!
大型画面が切り替わる。
そして払戻金です!
単勝 6番 540円
複勝 6番 190円
複勝 7番 230円
複勝 2番 170円
二人順位・順不同 6-7 1,420円
二人順位・着順指定 6→7 2,960円
三人順位・順不同 2-6-7 3,840円
三人順位・着順指定 6→7→2 12,780円
三人順位の着順指定!
六番、七番、二番!
百円分の投票に対し、払戻金は一万二千七百八十円です!
山麓の大型会場からも歓声が返ってくる。
カケルがゆっくり立つ。
脚が震える。
成瀬が手を差し出した。
カケルが握る。
「最初から最後まで走ってたのに」
「全部じゃない」
「ほとんど」
「富士は機体に乗って速くなる場所と、自分の速度を守る場所を分けないと最後に残らない」
カケルが成瀬を見る。
成瀬は笑った。
「今日は俺の方が二センチ残ってた」
「次は三センチ取ります」
「小さいな」
二人が笑う。
大型画面にはレース映像が流れる。
序盤。
高速機。
森林路。
長い登り。
高所。
火山礫。
徒歩。
最後の軽量登坂型。
そして急登。
富士クライム!
国内最大級の大会で問われたのは、総合力でした!
速いだけでは足りない!
機体選択だけでも足りない!
徒歩だけでも足りない!
序盤から最後まで、何を使い、何を残すのか!
それを積み重ねた六番、成瀬トウマが富士を制しました!
カケルは映像を見る。
今までの大会が全部入っていた。
高尾で初めて知った競技。
筑波で覚えたスポンサーと機体。
大山で覚えた切り替え。
阿蘇で覚えた操作。
八ヶ岳で覚えた性能との付き合い方。
そして今日。
残すこと。
全部使えばいいわけではない。
速く行ける場所で、必ず速く行く必要もない。
山頂まで残っていなければ。
勝てない。
表彰エリア。
中央に成瀬。
二位にカケル。
三位に御崎。
観客席はまだ埋まったまま。
街の中継画面にも三人が映る。
花火が上がる。
富士クライム!
四十八名の頂点!
六番、成瀬トウマ!
そして二着は七番、遠野カケル!
デビューからわずか六戦!
国内最大級の舞台で優勝争いを演じました!
カケルが観客席を見る。
自分の名前が書かれた応援旗があった。
高尾のときにはなかった。
別の場所にも。
さらに遠くにも。
「増えてる」
隣の御崎が聞く。
「何が?」
「俺を応援してる人」
「全国中継だから、今日でもっと増えるよ」
カケルが少し困った顔をする。
「写真判定の人って覚えられそう」
御崎が笑った。
「もう覚えられてる」
表彰が終わる。
大型表示が切り替わった。
次回開催。
乗鞍クライム。
長く続く登り。
標高差。
高所。
そして機体の残量管理を示す表示。
次回は乗鞍クライム!
長い登坂区間を持つ耐久型コース!
モビリティの残量!
ピークランナーの体力!
どちらも使い切れば終わりです!
ソウマが後ろから来る。
「次こそ一秒差」
カケルが振り返る。
「センチやめたんじゃなかった?」
「富士でリセット」
志戸が横から言う。
「勝つ話じゃなくて差の話になってる」
セナも頷く。
「最初から写真判定するつもりみたい」
「しない!」
カケルとソウマの声が重なる。
久瀬が笑う。
成瀬も表彰台から降りてくる。
「次も出る」
カケルが聞く。
「もちろん」
「今度は負けません」
「じゃあ二センチ以上持ってこい」
「一メートル持ってきます」
ソウマが反応する。
「それ俺が言ってたやつ!」
カケルは笑いながら歩き出した。
背後では巨大な順位表示が残っている。
一着。
六番。
成瀬トウマ。
二着。
七番。
遠野カケル。
二センチ。
全国が見た二センチ。
カケルは一度だけ振り返る。
悔しい。
けれど。
高尾で初めてスタート地点に立ったときには、ここまで来るとは思っていなかった。
今は違う。
優勝候補が集まる大会でも。
自分は追いかけるだけではない。
追われる側にもなり始めている。
次の山では。
また全員がカケルを見る。
オッズも変わる。
スポンサーも見る。
観客も見る。
それでもやることは変わらない。
目の前の道を見る。
乗るものを選ぶ。
いらなくなれば捨てる。
自分の脚で走る。
そして。
誰より早く山頂へ着く。
山麓の街には、まだ富士クライムの歓声が響き続けていた。
コメント
1件
# 富士クライム熱かった! もう、マジで痺れたわ…! 成瀬さん、ずっと徒歩であの速さは反則だろ(褒めてる)。「最後、脚残しとけよ」のアドバイス、ちゃんと伏線回収してて最高だった。カケル、デビュー6戦で国内最大級の舞台で2位、2センチ差とか泣ける…。 悔しさと成長がちゃんと描写されてて、次の乗鞍クライムがもう待ちきれない!この作品、強さの設計がマジで丁寧で好き。