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一時間半後、楓は一樹の車の助手席に座っていた。

これまでずっと節約生活を続けてきた楓は、外で朝食など食べた事がない。

だからモーニングに行くと聞いてつい嬉しくて自分から話しかけてしまう。



「モーニングって私初めてです」

「モーニングに行った事ないのか? そりゃあ名古屋人が聞いたら卒倒するな」



一樹の言葉につい楓はクスクスと笑ってしまう。



「名古屋の人は喫茶店で朝食を食べる人が多いんですよね?」

「うん。楓は名古屋に行った事は?」

「ないです」

「旅行は? 今までどんな所へ行った?」

「修学旅行で京都に行った以外はあまり…..あ、でも小さい頃に家族で伊豆に行った記憶は少しあります」



一樹はそれを聞いて切なくなる。



「そうか。まあこれからは俺が色々と連れて行ってやるから……」



楓はうんと頷いたが、今の一樹の言葉は社交辞令だろうと思いあまり期待しないでおこうと思った。

そして話題を変える為にもう一つ質問する。



「今日はどこのモーニングに行くんですか?」

「会社の近くだ。俺の妹が店をやってる」

「妹さんが?」

「うん。楓を紹介しがてらそこで朝食にしよう」

「妹さんはおいくつですか?」

「俺とは一回り……12歳離れてる」

「……えっと社長って今おいくつ……?」

「俺は40だ」

「40……」



一樹の歳を聞いて楓は驚いていた。一樹は若々しく見えるのでもう少し若いと思っていた。



「ん? 40のおっさんだからびっくりしたか?」

「いえ…そういう訳じゃ……」

「楓とは16も違うから無理もないよな……」



一樹は顎髭を触りながらフフッと笑う。



やがて車はカフェの近くへ到着した。

車を降りると一樹は傍にあるビルを指差しながら言った。



「このビルが楓が明日から働く会社だよ」



ビルは10階建て以上あるだろうか? 想像していたよりも大きなビルだったので楓は驚く。



「凄く立派なビルですね」

「うん。建ってまだ5年かな? だから中も綺麗だぞ」



楓は頷きながらもう一度ビルを見上げる。

お洒落で大きなビルの上には、澄み切った青空が広がっている。



(明日からこんな素敵なビルで働けるんだ……)



楓は感動で胸がいっぱいだった。



「カフェはビルの裏にある。こっちだ」



そして二人はカフェへ向かった。


角を曲がり10メートルほど進むと真っ赤な外観のカフェが現われる。

裏通りに面した部分にはウッドデッキがありテーブルが5つ置いてある。外でも飲食が出来るようだ。



(可愛いお店)



楓がそう思っていると一樹がドアを開けて中へ入って行った。



「いらっしゃいませ」



若い女性スタッフの声がしたかと思うと、すぐに「お兄ちゃん!」という声が響いた。



「どうしたの? 朝から来るなんて珍しい、それも休日に…」

「たまには……な」



そこで一樹は妹に楓を紹介した。



「彼女は長谷部楓さん。昨日から俺のマンションにいる」



その言葉に一樹の妹はびっくりして目を見開いた。

しかしそんな妹にはお構いなしに一樹は続ける。



「こっちは妹の紅葉(もみじだ)」

「初めまして、長谷部楓です」

「は、初めまして、東条紅葉(とうじょうもみじ)です。うわぁ、お名前は『楓』さんって言うのね。私は『紅葉』だからなんか親しみわいちゃう」



紅葉は嬉しそうに微笑むと二人を席へ案内した。

一樹と楓は一番奥の窓際の席へ座った。


オフィス街にあるせいか店内は空いていて、二組の客がモーニングを食べていた。

モーニングは一種類だけなの二人は飲み物を選ぶ。

一樹はブラックコーヒーを、そして楓はカフェラテを選んだ。


紅葉はバックヤードへ注文を伝えに行くとすぐに戻ってきた。そして一樹の隣に座って楓に話しかける。



「それにしてもびっくりよ。お兄ちゃんが女の人と一緒に住むなんてさー」

「悪かったな」

「で、二人はいつからなの? どこで知り合ったの?」

「お前、人に何かを尋ねる時はもうちょっとオブラートに包んでから言え」

「いいじゃない、兄弟なんだし」

「そんな調子だといつか健斗(けんと)に愛想をつかされるぞ」

「失礼ねぇ、健斗はそんな事くらいじゃ愛想をつかしたりはしないわ」



二人が仲睦まじく会話をする様子を見て楓はキョトンとする。

一樹のリラックスした顔が新鮮だったので少し驚いていた。

そんな楓に向かって紅葉が説明をする。



「あっ、健斗っていうのはね、私の恋人で今一緒にこの店をやってる人なの。健斗も組の人間よ。多分後で顔を出すと思うわ」

「あ、はい……」



そこで一樹が説明を加える。



「うちの組は飲食業にも力を入れていてね。今後健斗は本部で飲食部門を任される事になってるんだ。だから今は研修で現場にいる」



その話を聞き、楓はヤクザに対する自分の認識が全く時代遅れだった事に気付く。



「で、で? 楓さんはどうやって兄と知り合ったの? 楓さんって歳はいくつなのー?」



楓がなんと答えようか悩んでいると、一樹が代わりに答えてくれた。



「楓とは仕事先で知り合った。歳は24だ」

「24? うわっ、若ーいっ! 私より4つも下かぁ。お兄ちゃん犯罪じゃん」

「んな訳ないだろう」

「えーっ、でも今までの女達と比べたらダントツ若いじゃーん」



紅葉はそう言った後ハッとする。

うっかり兄の昔の女達の事を話題に出してしまい後悔しているようだ。



「あ……楓さん誤解しないでね。兄がちゃんと紹介してくれたのは楓さんが初めてだから。それに家に入れたのもきっと楓さんが初めてよ」



紅葉が必死に取り繕う様子を見て思わず楓はクスクスと笑う。



「ああ…笑われちゃった」

「ほらみろ」

「いえ、すみません……なんかお兄さん思いで素敵だなーって」

「あ、なんだー、そういう事? まあ確かにうちは兄弟仲はいい方だけどねー。両親がもういないからお兄ちゃんがお父さん代わりみたいなところもあるし? あっ! そうだっ! ところでお兄ちゃん、今度友達の結婚式に行くんだけど服買うお金がなくなっちゃってさー、カンパしてよー」

「何言ってんだ? お前は充分過ぎるほどここの給料をもらっているだろう?」

「それがさぁ、車を買い換えたばかりだから今絶賛貧乏中なの。おねがーい、可愛い妹に恥をかかせない為にもカンパカンパ!」



あっけらかんと言う妹を見ながら一樹は仕方ないといった表情を浮かべる。そしてジーンズ後部のポケットに入れていた長財布を取り出し、10枚一組に束ねてある一万円札の束を引き抜くと妹に渡した。



「花嫁に恥をかかせないようなちゃんとした服を買えよ」

「わかってるー、サンキュー!」


紅葉は満面の笑みを浮かべながらちょこんと頭を下げると、受け取った金をエプロンのポケットにしまった。

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コメント

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ユーザー

一樹さんの妹溺愛は楓ちゃんにとって良い刺激だったんじゃないかな? 可哀想だけど、普通の感覚を身につけないと。クソ兄のせいで今まで普通じゃなかったからね。

ユーザー

一樹さんと紅葉さんは仲が良いね✨妹を紹介してくれるとは気を許してる証拠だね✨それに楓ちゃんとも仲良くなれそう😉 年の差もあって楓ちゃんを大切にしてくれる一樹さんの気持ちが嬉しい💕💕そのうち溺愛になっちゃう?🤣🤣

ユーザー

同じように両親がいないのに全く違う関係でびっくりしたかな☺️ でも紅葉さんとは仲良くなれそう‼️

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