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憂鬱だった夏季休暇も終わり、いつも通りの日常がスタートした。
相変わらず、外は強烈な陽光で、茹るような暑さ。
作業場も、モワッとした空気に包まれ、むせ返りそうになる。
午前九時、始業のチャイムが鳴った。
「おはようございます」
上司の谷岡の挨拶から、全体朝礼が始まる。
連絡事項と今後の納期の確認を、半ばボケっとしながら聞いていた奈美。
時々、なぜか谷岡と目が合う。
「それから、一週間の夏季休暇で、機械を全く動かしていない状態です。作業前に、きちんと作動するか確認した後、業務を開始するようにして下さい」
今日の奈美の持ち場は、検査業務のみ。
豪が手掛けている、あのカートリッジの目視作業だ。
「まだまだ暑い日が続いています。熱中症には、くれぐれも気を付けて、適度に水分補給して作業するようにして下さい。あと、この暑さでボーっとして注意力が散漫になりがちです。怪我のないように注意して下さい。私からは以上です。それでは今日も一日、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
全員の締めの挨拶で解散となり、それぞれの作業場に移動した。
向陽商会の案件の仕事をしているせいか、勤務中も豪の事がチラついて離れない。
気付くと、ボーっとしている事もあり、こんな状態ではいけない、と、両頬をペチペチと叩く。
彼女の心の中には、すっかり彼が棲みついている。
夏季休暇中、奈美は食欲がなかった。
まさか失恋して、自分の身体に影響が出るとは、想像すらしなかった事で……。
それほど奈美にとって、豪の存在は大きかったのだ、と思い知る。
気力で、何とか連休明け初日の仕事を終わらせた。
ロッカールームで、一本に束ねていた髪を下ろし、丁寧に梳かしていく。
フゥッとため息を零し、私服に着替えてロッカールームを出た。
「高村さん」
職場の玄関に向かい、退社しようとした時、後ろから声をかけられる。
振り返ると、そこには谷岡がいた。
彼女は軽く一礼して、お疲れ様です、と挨拶を交わす。
「今、少し時間ある? ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
「ええ、大丈夫ですけど……」
谷岡は外に出ると、近くのベンチへ向かい、奈美も後についていった。