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#大衆食堂
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「わかったか、てめぇーら!」
外で龍の怒鳴り声が響いている。
「おお、そろそろ、うちの野郎どもへの仕置きも、終わりか。櫻子さん、あんたには、本当にすまないことをした。これしきのことで、あんたの気が収まるとは思ってねぇが、どうか、勘弁してくれ」
親分が、櫻子へ頭をさげた。
「あっ、い、いえ、そ、そんな、めっそうもない……」
櫻子は、どう答えれば良いのか戸惑った。
自分を襲った男達は、全裸にされ、縛られた。そして、お玉が、すりこぎで、目一杯、男の急所を打ち付けた。
当然、二人は、白目をむいて倒れたが、それからは、龍にこてんぱんにやられていたようだった。
とにかく、そんな、荒々しい出来事に慣れていない櫻子は、震えが止まらない。
もう、十分だと思っても、皆は、とことん、仕置きを行ってやるといきり立った。
それがやっと終わっようだが、親分までが、頭を下げている。櫻子の事を思ってだろうが、ただ、ただ、気が動転するばかりだった。
「まあ、これくらいでいいでしょう。これの気持ちが、というよりも、うちの面々が、納得しない。まったく、妙な事になってしまって、こちらこそ、親分、申し訳ありません」
金原も、親分へ頭を下げた。
「そんじゃあ、このことは、これで、終わりということで構わねぇか、鬼キヨよ?」
親分に金原は頷き、そして、櫻子へ再び下がって休むように言う。
「社長ーー!!次は、社長の一発をーー!」
龍が、ドタドタ足音を立てながら廊下を歩んで来る。
そして、ひょっこり応接間に顔を出し、金原を伺った。
「龍、親分の顔も立てねばならんだろう?」
金原の言い分に、あっと、龍は、声をあげ、
「こりゃ、どうも、親分さん!」
頭をかきかき、親分のご機嫌を取った。
親分はというと、櫻子が作った鯛のあら煮に箸をつけ、その味付けに唸っている。
「旨い!こりゃ、絶品だ!櫻子さん、あんた、まだ、若いのに料理が上手だねぇ。こりゃ、鬼キヨも、惚れ込むわけだ」
「え?!親分さんっ!なんですかい?!その、料理!!!」
物欲しげに叫ぶ龍へ、
「龍さんの分も、裏に用意してありますよ。どうぞ、お台所で召し上がってください」
櫻子が薦める。
「へい!!ぜひとも!頂きやすよっ!」
龍からは、仕置きだなんだと怒っていた有り様は消え、転がるように、櫻子ちゃんの手料理だ!とかなんとか、子供のようにはしゃぎながら、部屋から出ていこうとするが、ピタリと動きを止めた。
あの新聞に気が付いたようで、次の瞬間、
「なんで、あの、妹がっ!!」
絶叫を越えた叫びをあげていた。
「まあ、色々ある。龍、そこら辺も話があるのだが、構わんか?」
落ちつき払った金原に、訳ありと、読んだのか、龍は、さっと正座して話を聞く体制を取った。
「じゃあ、あの、私は、先に……皆さんのお膳の用意を……お玉ちゃん、行きましょう?」
お玉の手を握り、長居は無用とばかりに部屋から出ようとする櫻子へ、金原が再び言った。
「お前は、もう休め。動き過ぎだ」
金原の声かけの後、部屋中から注目を浴びた櫻子は、恥ずかしさから、たまらなくなり、俯くと、黙りこくったままお玉を連れて、逃げるように部屋を出た。
「おやおや、まあまあ、うぶじゃねぇかい。鬼キヨとしては、そこが、また、たまらんということか」
くくく、と、親分が笑う。
「さすがは、親分」
八代も、顔をほころばせる。
「いゃー、俺も、櫻子ちゃんのような、できた嫁さんが欲しいもんだ」
ニヤニヤしながら言う龍を、金原は睨み付けた。
「ははは、まあ、面子は揃ったわけだ。そんじゃあ、悪巧みの続きといくかい?」
言いつつ、親分は、杯を開ける。
「あっ!!しまったっすっ!!俺っち、お玉の下駄買って来たんすっよ!いけねぇ!」
虎は、慌てて、櫻子達の後を追った。
「八代の兄貴……虎、お玉坊に……」
「そうだな、あいつ、完全に死んじまった、妹を重ねてるな」
仕方ねぇか、と、八代と龍は頷き合う。
「ふうーん、金原商店も、ついに、家族経営か……」
言いながら、親分が、目を細めた。
「……全部櫻子さんのお陰、でしょ?社長?」
八代の言葉に、今度は、金原が、皆の視線を集めるが、その期待を含むものに答えることもなく、そのまま、落ちつきなく黙りこんだ。
「やれやれ、目の毒だ。こりゃ、気合いを入れて、とりかからねぇとなぁ、今度は、俺が鬼キヨに仕置きを受けちまうぞぉ」
参った、参った、と、ぼやきつつ、親分は、再び櫻子の料理に箸をつけた。