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レイに会いたい。
鼻をすすり、かじかんだ指先でメッセージを送った。
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私のほうが会いたいよ。
大好きだよ。
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送った後、スマホを握って空を見上げた。
やっとわかった。
「会いたい」だけじゃ、苦しくなるだけだって。
それなら答えはひとつだ。
レイに会いに行こう。
ちゃんと勉強して、TOEICでいいスコアを取って。
就職も決めて、高校を卒業したら。
この空を渡って会いに行こう。
気持ちが固まるといくらか楽になった。
私は誰ともなしに頷いて、自分の部屋に戻る。
目をつぶれば、レイの顔が浮かんだ。
けど苦しくはなくて、久々にちゃんと眠れそうな気がした。
2学期が終わり、冬休みも半ばを過ぎた頃、拓海くんが大阪から帰省してきた。
残念ながら、良哉くんは仕事が忙しくて、今回も帰ってこれないらしい。
大晦日の昼下がり、けい子さんにおつかいを頼まれた私は、拓海くんと商店街へ向かっていた。
「……拓海くん。
あのね、拓海くんに言わなきゃいけないことがあって」
ずっと言わなきゃと思っていた。
けどタイミングが掴めず、何日も言えずにいたことだった。
「ん? なに?」
「……レイのことなんだけど」
ドキドキしながら言った途端、拓海くんが立ち止まった。
「あいつのこと?」
「うん、レイのこと。
その……私ね、レイのことが好きになったんだ」
「えっ」
拓海くんは私を凝視して、それから一気に地面にしゃがみ込んだ。
「たっ、拓海くん!?」
「……まじかよ。それあいつに言った?」
「う、うん」
「それで、あいつはなんて?」
「レイも同じ気持ちだって……」
「ありえね―――!!」
突如叫んだ拓海くんの声に、道ゆく人がこちらを振り返った。
「た、拓海くんてば! 声が大きいよ」
私は慌てて拓海くんの背中に手を置く。
「それ、母さんたちは知ってんの?」
「ううん、知らない。話してないから。
レイはもうアメリカに帰っちゃったし、連絡はメールだけだし……」
「澪はそれでいいの?
あいつまた日本に来るとか言ってんの?」
「ううん、なにも……」
言ってから少し悲しくなった。
拓海くんはまた大きなため息をついて、ゆっくり立ち上がる。
「……ちょっと、頭がついていかねー……。
悪いけど、買い物は俺がするから、ひとりにして。
澪は先に帰っててよ」
拓海くんは目を見てくれない。
「……わかった。先に帰ってるね」
私は少しして頷いた。
拓海くんを傷つけてしまったとわかるけど、私にはどうすることもできない。
翌朝、私はけい子さん、伯父さん、拓海くんの三人で、近くの神社に初詣に行った。
ここでお参りして、おみくじを引くのが野田家の定番だけど、拓海くんはとなりにいても、一言も話しかけてこない。
お参りを済ませ、しょんぼりしながら家に帰ると、門の前で拓海くんが立ち止まった。
「澪、コンビニ行くから付き合ってよ」
「えっ。う、うん」
門をくぐろうとしていた私は、驚いて顔をあげた。
「あっ、拓海ー!
コンビニ行くなら牛乳買ってきてー!」
玄関に入っていたけい子さんが声をあげる。
だけど拓海くんは、無視してさっさと歩きだした。
「座って」
昔よく遊んだ公園の東屋で、拓海くんは仏頂面で言った。
私はおどおどしつつ、拓海くんのとなりに座る。
「……たぶらかされんなって言ったじゃん」
拓海くんは私を横目に、ため息まじりに呟いた。
「……ごめん」
咄嗟に謝ったけど、たぶらかされたわけでもないし、後悔してるわけでもないから、私はすぐ黙ってしまった。
「……いや、ごめん。澪は悪くない。
悪くないって頭じゃわかってるけど……やっぱショックっつーか」
もう一度息をついて、拓海くんはゆっくり目線をあげた。
「なぁ。あいつアメリカなんだろ。
会えなくてもあいつが好きなの?」
「……うん」
「これからどうすんの。あいつと」
「私は……。
卒業旅行にロサンゼルスに行こうと思ってる。
まだだれにも……レイにも言ってないけど」
「ひとりで?」
「うん」
「ダメだろ、そんなの」
「えっ……どうして」
「俺が嫌だから。決まってんじゃん」
「……拓海くん……」
私は困った顔をした。
胸が痛んで、鼓動も速くなる。
「……っていうのは冗談。
だけどさ。今から言うのは冗談じゃねーから。
なぁ澪。俺にしろよ。
俺のほうがあいつよりいい男だから」
拓海くんは、ここに来てからずっとぶっきらぼうだ。
ぶっきらぼうでも、ちゃんとまっすぐ目を見て言ってくれている。
その目を見返すのは怖いけど、私は勇気を出した。