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#伝奇
#モキュメンタリーホラー
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「あ、誤解せんといてな? アキ子ちゃんのこと別に責めるつもりないから。あのライセサマとか言うモウジャに血迷ったことさせられとっただけやろうし……」
それに、とキミカちゃんが続ける。
「――そもそも、うちに誰かのこと責める資格なんてないから」
その口元がいびつな形に歪んでいるのを私は見た。
それは私にとってもなじみ深い感情――、自嘲する時の表情だった。
「それはともかく――、童ノ宮の敷地に飛び込めばうちはお役御免や。後は神様がアキ子ちゃんを守ってくれるわ」
「……神社に逃げ込むってこと? それだけ?」
思わず私はキミカちゃんに聞き返していた。
「駅に着いたら警察を呼んだほうが良くない?」
「普通のおまわりさんに怪異の対処なんか無理やって。青龍機関みたいに特殊な装備で武装してたら話は別やけど。……あの人ら、街一つ潰すぐらいの怪異でも現れへん限りは動いてくれへんからなぁ」
ため息をつき、よく分からないことを口にするキミカ。
その情報量の多さにしばらくの間、私は思考停止を余儀なくされる。そもそも地頭が悪いのだから仕方がない。
「ホンマはこんな風に赤の他人に教えたらあかんねんけど――、アキ子ちゃんもうちほどじゃないにせよあちら側のやつらに因縁つけられやすい体質みたいやし……。万が一、逃げ切れずにあいつに捕まったら……」
私の耳元に口を寄せ、ひそひそとキミカちゃんが囁く。
それは短く、聴き慣れないコトバだった。脳が揺さぶられる感覚に一瞬、気が遠くなりかける。
「……ほな、そろそろ行こか」
そっと立ち上がり、キミカちゃんが言った。
「いつまでも一か所におったら嗅ぎつけられる。せっかくリョウが時間稼ぎしてくれたのに……」
リョウ。その言葉に私はギクリとする。
そうだ、あの大きな男の人……。あんな化け物相手に自ら盾になって私達を逃がしてくれた。
もし、あの人に何かあれば、殺されるようなことがあったら。
全部、私のせいだ。
私が化け物の口車に載せられて、あんな馬鹿なゲームを始めたから……!
「……リョウのことなら大丈夫」
そんな私の心情を悟ったのか、キミカちゃんがまた声をかけてくる。
「あいつ強いし、殺されても死なへんから」
「そ、そんな……」
「ともかく、まずは童ノ宮まで逃げ延びんと。あれこれ考えるんはそれからや」
無理な笑顔を浮かべ、キミカが手を差し出して来る。
少し逡巡し、私がその手を取り立ち上がった時だった。
天井近くの窓が激しい音を立てて砕け散った。
それと同時、丸くて毛の生えた物体が投げ込まれ、ゴロンと床に転がる。
自然と、自分の口が大きく開くのを感じた。
できれば力の限り叫びたかったができなかった。
私の足元に落ちたそれは苦悶の表情に歯を食いしばった男の首だった。
「……リョウ、さん」
やっとその名を口にした時――。
ベチャリと湿った音を立てて、正面の入り口からあの化け物――ライセサマが廃屋の中に入ってきた。ぬめぬめとした鱗に覆われた腕を伸ばし、ドアの縁に鉤爪を立てて。
私のすぐ隣ではキミカちゃんが全身を強張らせ立ちすくんでいた。
「私は今、あなたに問いかけています」
分厚く腫れあがった唇を蠢かせ、ライセサマが人間の言葉を発する。
それは柔らかな女性の声だった。それでいて、音声ソフトで合成したかのように機械的な声。
「――ライセサマ・チャレンジに参加しますか?」
頭の中で軋むような雑音が響く。
その痛みに耐え兼ね、私は絶叫していた。
今度こそ、喉から血を吐き出すような勢いで。