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ある程度テーブルを回ったところで、圭は、新婦の友人が着席しているテーブルへ向かった。
「本日はお忙しい中、ありがとうございます」
列席者の女性一人ひとりに声を掛けながら、ビールを注いで回る彼。
圭からお酌してもらった女性たちは、新郎と瓜二つのイケメンに色めき立ち、瞳をうっとりさせている。
『わぁ……素敵な方……』と囁かれているのを小耳に挟みながら、圭は一番最後に、美花の元へ辿り着いた。
「本日はお忙しい中、二人のためにありがとうございます」
「この度は、おめでとうございます」
彼が彼女のグラスにビールを注ぐと、美花が頬を染めながらペコリと頭を下げた。
「…………っ……」
この場で、圭は彼女に曲を書き下ろしてくれたお礼を述べようかと考えたが、言葉を呑み込んだ。
奏の友人の女性たちの、焼き付くように向けられている眼差しが、彼には痛みすら感じてしまう。
せっかく言うのならば、彼女と二人きりになれた時に言いたい。
圭は頭の中で、美花と、どこで二人きりになれるチャンスがあるだろうか、と考えを張り巡らせる。
新郎新婦の中座中か、もしくは、披露宴終了後か。
(彼女に礼を言うだけなのに、何を必死に考えてるんだ俺……)
一瞬、スマートフォンからアプリ経由で、メッセージを送る方法が脳裏をよぎる。
以前、立川緑病院で偶然に美花と会い、その後、国営公園に行った際、メッセージアプリの交換をしたのにもかかわらず、ほとんどやり取りをしていない。
彼女に礼をひと言だけ送るのも気が引けるが、やはり、本人を目の前にして、自らの言葉で伝えたい、と彼は思う。
「それではここで、新郎新婦、お召し替えのため、中座させていただきます。皆様、大きな拍手をお送り下さい」
思考の迷宮を彷徨っていた彼が、司会者の声で引き上げられる。
「かなチーとれいチェル、素敵ですねっ」
美花に微笑まれ、圭は柄にもなく、身体を僅かに震わせていた。
「あっ…………ああ、ありがとうございます……」
結局、彼女に挨拶しかできないまま、圭は会釈をした後、仕方なく他のテーブルに向かうのだった。