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じっと見つめると、彪斗くんは急に顔を赤らめて、気まずそうに目をそらした。
「しまっておかないと、安心できねぇんだよ。ちょっと目を離したら盗られちまいそうで、どこかに飛んでいっちまいそうで…。『もの』って所有しないと…ふあ」
言いかけて、彪斗くんは口ごもった。
「―――くそなんだよ、調子狂う…」
胸が苦しい。
雪矢さんに言われた時とはぜんぜんちがう、眩暈がするような、くるおしい痛みに、わたしは息するのも苦しくなる。
これは、なに…?どうして彪斗くんにだけ、こんな気持ちになるの…?
彪斗くんは、きっとにらむように、わたしを見すえた。
「おまえ、雪矢のこと、どう思ってるんだよ」
「どう、って…」
まるで責めるような問い。
間違った答えを言ってはいけないような気がして、わたしは一生懸命ふさわしい答えをさがす…。
「やさしい、って思ったよ…」
「……」
「けど、なんかちがうの…」
「なんか?なんか、ってなんだよ」
「えっと…えっと、ね…」
うまく言葉にできない。
今ほど歯がゆく思ったことはないよ…。
どうしてわたしは、こんなに話すのがへたくそなんだろう。
それでも、彪斗くんに伝えたくて。
もどかしい思いをかき消すように、わたしは笑顔を作った。
「彪斗くんの方が…ずっと、ずっと、本当にやさしい、って気がするから…」
彪斗くんは、大きく目を見開いたまま、わたしをじっと見つめた。
けど、次の瞬間、グイって乱暴に引っ張って、わたしを強く抱きしめた―――。
「あや、とくん…!?」
突然のことに手を突っぱねようとするわたしだけど、そんな小さな抵抗をつぶすように、もっと強く抱きしめられる…。
苦しくて息もままならない…。
彪斗くんの力がすごいから、だけじゃなくて…。
熱い体温とか、すっとする髪の香りとかを身体一杯に感じてしまって、壊れそうなくらい、胸が高鳴っているから…。
彪斗くんは最後にぎゅっと力をこめると、意を決したように、最初と同じくらいの乱暴さで、わたしの身体を離した。
かと思うと、手をのばしてゴシャゴシャとわたしの頭を撫でまわした。
「わっわわ…あの…せっかく結び直したので…」
「うるせぇ」
「わたし、ただでさえ地味なのに」
「うるせぇってんだよ」
「だ、って、こんなボサボサだったら、みっともないでしょ…?」
さっきの雪矢さんの言葉がよみがえる。
からかうんだったら、やめてほしいよ…。
「ばーか。つまんねぇこと気にすんな。…どんな姿でも、おまえは可愛いよ」
ぶっきらぼうに言われた言葉だけど、
わたしの胸は、じんと温かくなる。
からかってなんか、いなかった…?
ひどいって雪矢さんが言っていた姿でも、彪斗くんはわたしのこと、認めてくれてた…。
ちょっとでも疑った自分が恥ずかしくなる。
そしてありがとう、って胸いっぱいの気持ちになる。
ありがとう、彪斗くん。
なんだか、今の「可愛い」の方が、ずっとずっと、うれしい。
わたし、ちょっとは自分に自信を持っていいのかな…。
わたしは、じくじくともきゅるきゅるとも痛む胸を抱えたまま、勇気を出して彪斗くんにきいてみた。
「彪斗くん…今朝はどうして、こんな時間にわたしが外にいるってわかったの」
「は?…そりゃ、おまえと雪矢の声が聞こえたから」
「聞こえたって、目覚めてたの?」
「た、たまたまだよ。たまたま目が覚めて」
「…もしかして、あまり眠れなかったの?」
「……」
やっぱり、そうなんだ…。
「なんだよ、悪いかよ」
「あの…怒ってない…?」
「は?なにが?」
また顔を赤くさせている彪斗くんに、わたしは昨晩からずっと気になっていたことをきいた。