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教室は、いつものように薄暗く、どこか澱んだ空気に包まれていた。夏の湿気が窓からじわりと入り込み、黒板の文字はかすかに滲んでいる。
遥は席に座りながら、また自分の机の上に散らばった筆箱を見下ろした。
誰かの悪意が込められたわざとらしい行為。
一昨日も、昨日も、何度も何度もあった。
いつものように無言で拾い上げる。
でも、その日は違った。
手が震えた。指先が冷たく、どうにも止まらなかった。
その冷えは、怒りでも恐怖でもない。もっと深く、誰にも理解されない孤独と絶望の冷たさだった。
「うるせえ」
その一言は、誰に向けられたのでもなく、ただ吐き出された。
小さく震える声で、けれど教室中に響いた。
一瞬の間。
空気が凍りついた。
周囲の目が、遥に釘付けになった。
笑い声も、からかいも、動揺も、すべて止まった。
無言の静寂が教室を支配し、息を飲む音だけがかすかに聞こえた。
遥の心臓は激しく鼓動していた。
喉は痛く、声帯は震え、唇はまだ震えている。
でも、その瞬間、遥は知った。
「声を出す」ことは、壊れることじゃない。
叫びは暴力じゃない。
それは、存在を主張するための唯一の手段なのだと。
だが、同時に恐怖も押し寄せた。
この一言が、どんなに大きな波紋を起こすのか。
そして、その波紋は必ず、自分の周囲を飲み込むのだということを。
教室の空白の中で、遥はゆっくりと椅子に深く座り直し、瞳を伏せた。
涙は溢れなかった。
だが、胸の奥で何かが静かに、しかし確かに動き出していた。
※さらっと書いたけど、この辺りから(中学)声を出し始め、高校では反抗的な感じに。無名の灯1に繋がる感じです。この変化を日下部は知らなかったという。中学は別だったので。たまに怜央菜と中学時代もつるんで遥をいじめてはいたが。