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#海辺の町
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写真館の作業台に並べられた乾燥前の写真を、三人は黙って見つめていた。赤い安全灯から通常の明かりに戻ると、表情の細部までいっそうはっきりする。
若い頃の母は、ディアビレが記憶していたより少し幼かった。笑う時に右の目が先に細くなる癖まで同じだ。その隣にいる女性は、ジナウタスの横顔によく似ていた。
「あなたのお母さん……きれいな人だったのね」
ディアビレがそう言うと、ジナウタスは短く息を吐いた。
「よく働く人だった。家にいるより、現場の方が落ち着くって言ってた」
「うちの母も同じ」
二人の言葉が、写真の上で静かに重なる。
オラシオは別の一枚を慎重に持ち上げた。ホテルと喫茶室の境目の看板だ。そこには、今は消えてしまった古い肩書きのような文言が並び、最後に二人分の署名がある。
「共同管理、みたいな意味かな」と彼が言う。「宿泊客が眠る前に心をほどく場所、とか読める」
その一文だけで、ルナ・マグの夜の灯りが急に違って見えた。喫茶室はただ隣に建っていたのではない。もともと、ホテルと並んで客の心を支える場所として置かれていたのかもしれない。
ディアビレは写真を胸に引き寄せた。
「ねえ、ジナウタス」
「何だ」
「あなた、本当は何者なの」
写真の中の幼い彼は、今の彼の目元をしていた。偶然では済まない。母同士が並んでいて、彼がこのことに完全に無関係なはずがない。
ジナウタスは少し黙った。いつものように即答しない。その沈黙の重さだけで、答えの一部が見えた気がした。
「夜勤責任者だ」
「それだけ?」
「今はな」
今は。そのたった二文字に、ディアビレの胸がざわつく。
写真の中では、二人の母が笑っていた。隠し事のない顔で。